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私たちのヴァルキューレ  作者: 紅葉崎もみじ
プロローグ
3/27

3話 始まる戦い

 美少女と見つめ合ったまま数秒が経過した。


 何故か先ほどからフル回転する脳には今朝からの回想と私の主義や考え方といったキャラクター性をまとめて説明するのには十分な時間だった。

 ・・・説明って誰に?分からん。思考が早くなったところで元の頭がよくないと意味がない。猫に小判。豚に真珠。個人的には猫がいいな。


 とにかく数秒間惚けて見つめてしまうほどに、彼女の顔は綺麗だった。

 大きな黒目に長い睫毛、はっきりと分かる二重。形の良い鼻にぷっくりと瑞々しいピンクの唇。滑面のラインを描く頬。不健康なほど色素の薄い肌。首元で切りそろえられたショートボブの真っ白な髪。

 無表情で感情がないような深い瞳がなんだか神秘的だった。

 そのどれもが、彼女の可愛さを引き立てるための重要な要素になっていた。


 ・・・・・・ん?

 違和感。

 私は今何と言った?


 可愛さ?


 よくよく見てみると、彼女の顔は確かに綺麗だが幼さの残る顔立ちから可愛いと表現するほうが適切な造形をしていると思った。

 無表情だけど。

 何故私はこの子を綺麗だと思ったのだろう。


 この子、といった通り顔と体格(150センチ弱といったところか)からおそらく年下だろう。

 ちなみにこの子は私が座る操縦桿のついた椅子と外の様子を映した壁の間に窮屈そうに立っている。

 

 そんなことを考えるうちに見つめ合って軽く1分が経過した。

 ついにしびれを切らしたのか、彼女が口を開く。


「いつまで呆けているのかしら?」


 感情がこもっていない、なんだか平坦な声が出てくる。


 わお、可愛い声。

 確かに感情がない声だけど声の性質はかわいらしいものだった。

 美少女はどこまでも美少女なのか。なんだか人間としての素材の違いをむざむざと見せつけられているようで理不尽に腹立たしい。


 おっと、そろそろ返事をしないと今現在呆れが混ざっている視線に苛立ちの感情まで加わってしまう。

 色々と説明してほしいことがあるのに友好的な関係を築けなければそれもままならない。


 え?無表情なのになんでそんなこと分かるかって?

 そこは長年の経験としか言えない。

 

 先ほどまで今の状況を夢だと勘違い(いや、現実逃避か)していた私だが、目の前の彼女を認識してやっとこれが現実なのだと理解した。納得はしていないが。

 対人関係でのトラブルを避けるために他人を常に観察し、その人の趣味嗜好やどういった行動を煩わしく思うのか。どういった人物が嫌いなのかを理解し人から嫌われないようにふるまってきた私だ。人を見ればそれが本物なのかどうかなんてすぐに分かる。


「あの・・・どちら様です、か?ええと、ここはどこ、でしょうか」

 声がところどころ詰まってしまったり、音量の調節がうまくできなかったのは冷静に周りを分析しているようで心のどこかにはこの状況に動揺していたのだろう。

 当たり前だ、ザ・平凡の私がこんな状況で動揺しないほうがおかしい。

 

 というのに目の前の少女は、


「後者の質問はもう少し返答を待って」

 まだ説明する段階じゃないと彼女はまた平坦な声で冷静に返してきた。


 こちらがあたふたしていることを全く意に介していないな・・・。

 なんかマイペースって感じ。


「前者の質問についてはまず自分から名乗る名乗るべきじゃないかしら」

 もっともなことをいう。

 もっともなことならこういう反論をされてもむっとしないところが私の良いところだろう。


百花ももかつかさ 百花、です。高二」

 平凡な名前だが、その平凡さが嫌いではない。


千歳ちとせよ。年齢は私のほうが下だから敬語はいらないわ」

 やはり年下だったか。

 というか、名付け親が同じなんじゃないかと思うくらい私に負けず劣らず平凡な名前だった。

 いや、ちょっと思ったんだよね。外国人もしくはハーフかもって。てっきり横文字の名前が飛び出すと思ったから、ちょっと拍子抜けだ。

 いい名前だけどね!千歳。





 自己紹介から無言のまま、2時間が経過した。


 そう2時間である。





 時計がないため正確な時間は分からないが体感的にはそんなぐらいだ。


 なんで無言・・・・・。


 あれから千歳は完全に口をつぐんでしまった。「あの」とか「すみません」とか言っても何も返事をしてくれない。

 まいった。このパターン(相手に会話の意思がない)の対人関係は経験がない。


 無言の美少女と密室で二人きりなんですがどうすればいいですか?


 某インターネットの知恵袋にこんな書き込みをすれば、だれかベストアンサーを返してくれるのだろうか。

 

 長時間何もない時間が続くと流石に動揺が解け、今の状況を整理する余裕ができた。


 もしかしてこれは手の込んだドッキリなのか?

 壁に映っているのが本当に外の映像なのかもわからないし、この壁の向こうには「大成功」と書かれたフリップを持った人が待機していると考えた方がよっぽと現実的なのではないか。


 そんなことを考えてながらも、おそらくそれは無いと早々に決めつけていた。

 こんな大掛かりなセットを作ってまでそんなことをするメリットはないだろうし。

 そもそも何で私が対象になっているんだ。


 2時間も座りっぱなしで、身体が痛くなってきた・・・。

 立ってストレッチがしたい。


 いっそのことこのまま眠ってしまおうかと、まぶたを閉じたとき。

 

「来た」


 隣の少女が久方振りに口を開いた。


「え、何が?」

 私は彼女の視線を辿り、外を見る。


 そこに何かが、いた。


 岩山の頂には四つ足で立ちこちらをしっかりと見下ろす、虎?


 虎のような機械だった。

 機械で大型のネコ科動物を再現したような巨大な物体だった。

 私達が乗っているこのロボットとそう変わらない大きさだろう。


「貴方の性格なら、口で説明しても実際に見ないと信用しないだろうから」


 千歳は告げる。

 私の日常が終わったことを確定させる言葉を。


「ここは戦場。別の世界なのか、地球の裏側なのかは分からないけれど」


 千歳は告げる。

 これからの非日常が私の新しい日常となることを。


「あれは敵。この場所に居る、私たちの敵」


 千歳は告げる。



 戦いの開幕を–––。



「戦いなさい、百花。生き残るために」

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