24話 辛勝と仇
敵の上半身が砂の上に転がる。
勝った・・・。
辛勝だな。
ほんの少し何かのタイミングがずれていたら勝敗の目は全く逆になっていただろう。
そして最後に一撃。
私はキャタピラになった敵の下半身と上半身の境目、腰のあたりを狙って斬った。
踏ん張る足がなければ拳打しかできない敵は無力化できるだろうと思ってだが、冷静になればなんて軽率な行動をとったんだ。
私はコックピットがロボットのどの部分にあるのか知らない。
おそらく顔か胸で、大きな関節のように動く腰にはないだろうと思って私は攻撃した。実際になかったがそれは結果論だ。
それに、もし軌道がずれてコックピットに当たっていたら・・・。
結果としては勝った。
だが、過程はお粗末なものだ。
やりようによってはもっと上手く勝てたはずなのに。
なんか締まらないなー私・・・。
私は隣の少女を視線だけで覗く。
結局、ただ千歳に迷惑をかけただけだった。
私のわがままで戦って。
逆境を乗り越えるとか言っといて、結局最後は千歳の力を借りてしまった。
迷惑をかけなさいってお母さんは言ったけど・・・。
私に千歳の迷惑がかけられるのはいつになるんだろう。
いや、そもそもそんなときは来るんだろうか?
なんか想像がつかないな。
この子が誰かに迷惑をかけるところって。
――――もし、
迷惑をかける時が来たなら、その時は私に対してだったらいいな・・・。
ん?なんか今の私の思考おかしくなかったか?
「さっきから何見ているの」
じっと見つめていたから。
いぶかしげな顔(無表情)でこちらを向く千歳。
「え⁉あ、いや!なんでもないよ!な、なんでも!」
目がばっちりと合い。
変なこと考えてたから妙に慌ててしまった。
私ではないが変な思考が千歳に読み取られてしまうんじゃないかと心配になり慌てて顔を背けた。
ガシャッとスライドし元の形状に戻る太刀。
「というかこの太刀こんな機能あったんだね」
しめたとばかりに話題を変える。
というかただでさえ凄まじい性能を持ったこの太刀がさらにとんでもないことになっているような・・・。
全く代償がないってわけじゃないみたいだけど。
ENゲージを見る。
練習であれだけ動いてもほとんど減らなかったENがガクッと減っていた。
それでもまだ一割しか減ってないけど。
やっぱり燃費いい?
「なんで教えてくれなかったの」
知ってたらこれをうまく使った戦い方ができたと思う。
思うだけだけど。
「人間、最初から便利なものに頼っていたらいざ使えなくなった際に何もできなくなるものよ」
さいですか。
「それでも、勝てるかどうかはほとんど賭けだったのだけれど」
「そうだよねぇ、敵の罠が地雷みたいな即死するようなものだったらその時点で終わってたし」
「それはないわ」
「なんで?」
「あなたが敵の罠を一つ破壊したとき私はすでに罠の性能を解析していたから」
「・・・・・そんな機能もあるんすか、このロボ」
「ええ。視界に入ったものしか解析できないから最初は私も罠を張るタイプだとは分からなかったけどね。そういう意味ではこの勝利はあなたの功績かしら」
・・・・・!
初めて褒められたかも・・・・!
「で、でも意外だな・・・勝手な印象だけどそんな博打みたいな作戦立てるタイプに見えないけれど」
「あの場合ではあれが一番勝率が高かっただけ。それに本来私ならこんな一か八かの作戦を立てなければいけないような状況に至る間抜けは犯さないわよ」
「・・・・・」
上げて落とされた・・・・。
ちくせう。
「い、いいじゃん。勝ったんだから」
「結果だけ出せばいいわけないでしょう!」
うう・・・。
はい、口ではこんなこと言ってますけど重々承知しております・・・。
「・・・・でも」
「?」
「私がこの策を実行する後押しになったのは、やはりあなたの情報かもね」
情報?
「あなたが言ったでしょ敵は慎重で几帳面。慎重さは裏を返せば臆病ということ。臆病な相手は脅威になる敵が表れたとき逃げるか、徹底的に己の前から排除するかのいずれかの行動をとるわ。あの敵は後者ね。そんな臆病者が脅威をしとめる絶好のチャンスを見逃すわけがない。だからこちらから罠にかかれば意気揚々と飛び込んでくる。早く脅威を払いのけたくて仕方がない敵は何も考えずに突っ込んでくる。それが私が仕掛けている罠だと考えもせずにね」
「そこまで考えてたの・・・」
おっそろしー・・・。
「でも考えられたのは、さっきも言った通りあなたの読んだ情報があったから。
この状況を作ったのはあなただけれど、この状況を打破するきっかけを作ったのもまたあなた。
まだ甘いところがあるけれど、やっぱりあなたみたいな人間がしぶとく生き残るのかもしれないわね」
・・・・・・。
「それで、あなたはこれをどうするつもりかしら」
これ=転がって上半身だけで逃げようとしてる敵。
「・・・・」
「決まってるんでしょうけど」
あからさまな溜息をつく千歳。
珍しく見えるような感情が表れてる。
それだけ呆れられてるってことか・・・。
「逃がしてあげて。もう決着がついたんだから」
「・・・・・・」
「やっぱり怒ってる?」
「・・・・・・・・・いえ、私は――――――避けて!」
千歳の叫びに私は機体を跳び引かせる。
私たちの立っていた場所が爆発した。
原因は明らかだ。
私は周りを見て、それを見つける。
離れた位置から私たちを狙うロボット。
いかれた足で何とか上体を起こしライフルを構える―――――
私たちが助けた遠距離型ロボットが、私たちを狙っていた。




