21話 武装が思いのほかチート性能だったため、私は油断しました。
先制は私。
先ほど練習していた通りに太刀を振るう。
敵はバックステップで回避。
だが私の太刀は止まらず追撃。
二度、三度、四度目の斬撃で攻撃が当たった。
私の連撃に回避しきれなくなった敵は左腕で横薙ぎの斬撃を防御する。
おそらく私の太刀では分厚い装甲を貫くことはできないと考えたのだろう。
私もそう思っていた。
だから斬撃には体重を乗せていない。
次の攻撃につなげる為の牽制のような攻撃だった。
だが、それが裏目だった。
いやある意味では幸運だったかも。
私の太刀は相手の装甲をいとも簡単に切り裂き、腕を斬り飛ばした――――。
「へっ?」
そう。
思わずそんな状況に合わない間の抜けた声が出るほどあっさりだ。
聞こえないが多分相手も同じ声を出しただろう。
私が惚けている間相手の対応は早かった。
素早く後ろに下がり距離を取った。
あ、しまった。
すぐに追撃すれば勝負ありだったのに。
というか今の一撃を振りぬいていればそれで決着だったか?
いやいやいや、その場合敵の胴体真っ二つになって殺してたって!
どこにコックピットがあるのか細かく知らないけど大抵胴体か顔だろう。
あぶねー!
さっき意気揚々と殺さない発言してたのに数秒で撤回することになるところだったよ!
というか何⁉この太刀の切れ味!
とんでもないんですけど!
この前の敵と同じ感じで豆腐みたいにあっさり切れたぞ!
あれは敵が雑魚だったからそうだったのかと思ってたけど、ここでもあっさり切っちゃったよ!
そういえば振る練習はしてたけど太刀の切れ味とか確認してなかった・・・。
いややろうとは思ってたんだけど、試し切りできそうなものが岩ぐらいしかなくて流石に切れないかなーって後回しにしてたんだよね。
ほら、下手に切りつけて刃こぼれしたり折れたら大変だからさ。
でもこの調子だったら多分岩もあっさり切ってしまえるだろう。
惚けている間にもじりじりと相手は後ろに下がっていく。
しまった。
切れ味を先に確認していれば不意の一撃で決着がついたのに。
相手もこの太刀の切れ味は予想してなかったみたいだし、最初の一撃で足を切り落としていれば行動不能で私の勝ちだった。
くそう・・・武装の性能を確認し忘れたために。
だが私の優位であることは確かだ。
相手は片腕がなくなり、そして相性としては私は最悪。
相手も私も同じ近距離型。
本来なら装甲が厚く防御力が高い相手のほうが至近距離の攻防では分があるだろう。
しかし私の太刀は一撃で戦闘不能にできる驚異的な武器。
攻撃の当てやすい近距離戦では一撃必殺はかなりのアドバンテージだ。
結果、相手の選択は無難なものだ。
――――逃亡。
相手がいきなり足を正座のように折りたたむと脛の部分からキャタピラのような車輪が出現し後ろ向きに疾走し始めた。
うそ!なにそれ!そんなのあんの⁉
驚きつつも私は追跡を始める。
一瞬このまま見逃してもいいのかもしれないと思ったが、これからのことを考えると少しでも実戦経験を積んでおいたほうがいいだろう。
元から相手を戦闘不能にするだけで済ますつもりだったから、私は考えを誤っていた。
そしてこちらの圧倒的優位に早くも慢心していた
こちらの緊張感が足らなかった。
自分に殺すつもりがなかったから、相手の殺意がかすんでいた。
だから頭のどこかで忘れていたのだ。
こいつは私を殺すつもりだと。
それが分かっていればそのまま逃がすのが一番安全だっただろう。
疾走する敵をこちらも走って追いかける。
疾走といっても鈍重な見た目にしてはというだけで、私のロボットの全力疾走よりは遅い。
まあこれは重さの問題であり私のロボットが特別速いというわけではないだろうが。
というかさっきから前を走る敵になんか既視感があるんだよな・・・。
あ、分かった戦車だ。
そうして見ると戦車にしか見えねーな。
戦車に人型の胴体と腕がくっついた感じ。
緊張感がなくなって思考ものんきになってきていた。
よし、このままいけば追いつく・・・。
私は走る速度を上げて一気に距離を―――――
?
・・・・・このままいけば?
私は両足でふんばり急ブレーキをかけた。
「?」
隣の千歳から疑問を抱いた視線を感じる。
当たり前だ。
もう少しで敵に追いついたのに。
しかしそれは敵も同じで
私の停止に合わせ驚いたように相手の戦車も移動をやめる。
なんでだ?なんで止まる?
こっちが止まったんだから逃げるには好都合のはずだろう?
まるで、こっちに追ってきてほしいような。まるでさっきまで私がギリギリ追いつける速度で逃げていたような・・・。
先ほど感じた違和感。
相手から何かの思惑をなんとなく感じる。
私が前に進むことを待っているような・・・。
例えば思惑にかかった私をあざ笑っているような。罠にかかった無様な動物を見るような。
そんな嘲笑の感情をなんとなく感じる。
なんだ?
私は相手を見る。
しかし相手は私を見ていない。
ロボットの目の部分はおそらくパイロットの視線に合わせて動いている。
私とどこかへ交互に視線が動く。
私と・・・・すぐ前の地面?
「・・・・・・っ!」
私は太刀で掘り起こすように地面を切りつけた。
相手の驚いた、驚愕の感情が伝わってくる。
「なっ⁉」
隣の少女からも。
私の斬撃は地面に埋まっていたソーサーを二つ合わせたような円盤型の装置を巻き上げ、そのまま切りつけ破壊した。
やっぱり。
相手は逃げてたわけじゃない。
この装置が埋まった地帯にこちらを誘い込んでたんだ。
さっきまでの緩んだ思考を引き締める。
さっきまでの油断を打ち消す。
そうだ相手にだって隠し玉のひとつぐらいあるだろう。
埋まっていた装置がどんな効果を持っているかは分からない。しかし相手の不利な状況をひっくり返せるような何かがある。
そのことを考えもしないでここまで誘い込まれた。
完全な油断だ。
まさか装置がこれだけではないだろう。
地雷原のように一帯に埋まっていると考えていい。
今まで進んでいた経路も安全とは言えない。
もしこの装置が地雷のように上に乗る衝撃で効果が発動するなら大丈夫だが、もしリモコンのようなもので自由に発動できる仕様なら一帯の中心部にまで引き付けるために今まで発動していなかっただけかもしれない。
つまり、これからうかつには動けない。
素早い動きをすることが基本戦術である私の機体ではこのハンデは厳しい・・・・!
まずい。
私の油断で、優勢だった戦況が圧倒的不利となってしまった・・・!
どうする・・・・。
17話の文章を一部改編しました。
というかこれまでと一転して、サブタイトルが一気にコミカルになったな・・・。




