20話 それでも私は
三度目の戦闘はたった3日のスパンで始まった。
後に聞いたことだが、千歳にとってもこれだけ短いスパンは初めてだったらしい。
いつもの頭痛。
授業中、他の生徒が教科書の朗読をしているときにそれは起こった。
最初は慣れるわけがないと思っていたが、確かに慣れてきた。
いや慣れたというよりも痛みがなくなってきたという感覚が近い。
おそらくこの頭痛は千歳が言う「戦闘権」なるものが私にほとんど引き継がれていなかったために起こったバグのようなもので、実際は痛みなんてほとんどないんだろう。
つまり徐々にだが「戦闘権」が私に移っているってことだ。
その証拠に今私の視界に何かが移っている・・・。
まだ私は目をつむっているのに視界の右上に・・・・いわゆるゲームのHPゲージのようなものがあった。
ゲームあんまりやんないけどそれぐらいは知ってる。
というか視界に直接映すってどういう技術なんだよ・・・。
まあ、巨大ロボットとか転送とか体験すれば驚きは少ないけど、やっぱりビビる。
目を開く。
いつもの通り、ロボットのコックピット内。
外の様子を映した壁(モニターといったほうがいいか?)にパイプだかコードだかが配線されている床、私が座る操縦桿のついたシート。
隣を見るとやはり千歳がいる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
先日のトイレからいきなり二人きりになったから、やっぱり気まずい。
「あ、あの・・・・」
「エネルギー残量が私の視界から消えたということは、おそらくあなたの視界に移っているでしょう?」
「え・・・あ、うん」
「そう。それだけでも順調にあなたに移っているようね」
それ以降千歳はすっかり口をつぐんでしまった。
どうやら不機嫌でも事務的な会話はしてくれるようだ。
いや、不機嫌というとまるで千歳がわがままの癇癪を起しているように聞こえるな・・・。
正しいのは千歳なんだし・・・。
というか視界に映ってるこれHPゲージじゃなくてENゲージだったのか。
まあ確かに何をもって体力の残量とするのかって話だが。
実際敗北の条件はパイロットである人間の死亡だからHPなんてあってないようなもんだ。
だが、千歳の口ぶりからして他にもまだ千歳に残っている機能というか視界の表示があるだろう。
ロボットアニメでおなじみのセンサーまたはソナーとか(この2つの違いがいまいち分かんないけど)、あとはHPではないけど機体の装甲なんかの耐久値とか?
まあ、どれだけ考えたって今すぐ使えるわけではないから今はあんまり関係ないか。
その時になれば見えている千歳が警告してくれると思うし。
とにかく、今は今のことだ。
何も喋らない隣人に気まずい思いをしながらも私は辺りを見渡す。
どうやら前回の岩柱地帯の中にいるようで、そう離れた場所に転送された訳でなさそうだ。
一応岩場に隠れながら柱地帯(500平方メートルぐらい?)の外を確認したが見える範囲に敵の姿はない。
大きな岩の陰や崖のように段差になっていて下のほうが見えない、身を隠せそうなところがあるから確実ではないけど。
とりあえずこのまま隠れているか、それとも移動するかを決めなくては・・・。
私としては隠れているほうが無難だと思うけど。
ベテランの千歳は違うことを考えているかもしれない。
が。
いくらこれからのことを相談しようとしても隣の少女は口を開いてはくれない。
まだ不機嫌なのかよ・・・・。
イライラし始める自分の感情を抑える。
いやいや、これは多分千歳なりの思いやりなんだ。
しばらくは千歳と一緒だろうけどいつかは千歳の戦闘権が完全に私に移って一人で戦わなければいけなくなるときがくる。
その時のために「私に頼り切ってはだめよ」みたいな感じで、心を鬼にして、あえて、こんな突き放すような態度とっているんだ。
決して不機嫌だから私の相談に乗ってくれない訳ではない。
うん・・・決して・・・。
こうやって他人の気に入らない行動をなにかと理由づけして正当化し、イライラして衝突しないようにすることは私の処世術だ。
まあ、それにも限界あるけど。
とりあえず、私はここに留まることにした。
私には保留癖があるんだと思う。
リスクを恐れて安全である今に固執する・・・。
戦闘開始から30分は経っただろうか。
何もすることがない時間というのはやはりきつい・・・。
ただ戦闘終了をまつのも何なので私は武器である太刀を使って戦いの練習をすることにした。
いつ敵が来て戦闘になるかもわからない。
いつまでも太刀を抜くことにも、もたもたしてはいられない。
幸い柱と柱の間には十分なスペースがあり動くことに支障はなかった。
またそれは逆に周りから見つかりやすいということだが、私たちのロボットは全体的に黒・・・というかガンメタリックか?黒っぽいグレー色で隠密性は高いだろうから多分大丈夫。
アニメみたいに本当にレーダーみたいな機能が全部のロボットに標準的についているなら無意味だろうけど、それならそれでここで練習しようがしまいが同じことだ。
まずは鞘からスムーズに刀身を抜く練習から始めたのだが、これはすぐにやめた。
難しすぎてさじを投げたわけでなく、簡単すぎてすぐに身に付いたのだ。
多分あれはとっさに始まった戦闘に慌てすぎたために起こったアクシデントで、落ち着いてやれば時代劇でよく見る感じに抜刀できた。
次は太刀をもって素振り。
剣道なんてやったことないけど、どこで見たかは忘れたが試合とかの映像の記憶はある。
それを見様見真似のように振り回してみる。
が、何か違う・・・。
太刀ではなく、ただの棒を力任せに振り回しているような感じだ。
千歳のように綺麗な太刀筋ではない。
・・・・・・・。
あ。
もっと適切なお手本があったじゃん!
馬鹿か私は!
今度は前回の千歳の戦いを思い出しながら太刀を振る。
メイスを持った敵に対して足を止めず、流れるように斬撃を繰り出していた。
力任せに振るのではなく、速度に乗せるような感覚・・・。
太刀を握る手から力を抜く。
使っているのは左の小指薬指だけで他の指と右手はほとんど添えているだけような感じだ。
なんでこんなことしたのか分かんないけど、こうしたほうがいい気がする。
今度は腕だけじゃなく、身体全体の動きに乗せて太刀を振るう。
―――――おっ。
今度はいいと思う。
ブンブンって棒を振る音じゃなく、ヒュンって感じの空気を切るような音が確かに耳に付いた。
これは・・・もしかして、いけるかも。
そのまましばらく千歳の戦いを思い出しながら太刀を振るっていた。
相当集中していたためどれぐらい時間が経ったのか分からないが1時間は経ってないと思う。
もちろん私が直接身体を動かしている訳ではないため疲れはしないが、このまま動き続けたらロボットのENが減っていってしまう・・・・と思ったけど。
ふと確認したら、緑色のゲージは全体の1・2%ほどが灰色になっていた。
つまり、ENはほとんど減っていない。
もしかしてこのロボット燃費いい?
相場が分からないから何とも言えないけど・・・。
まあ、とにかくもうしばらく練習を続けても問題はないだろう。
そう考え、再び太刀を構えたとき。
轟音が響いた。
「っ!なにっ!」
なんの音だろうか?
前回のように物理的な衝撃の音でも爆発音でもないと思う。
「様子を見に行きましょう」
久方ぶりに千歳が口を開いた。
「う、うん・・・?」
私は岩柱地帯を出て、音が聞こえたおおよその方向へ向かう。
どうやら崖のように高い段差になっている先から音が響いたようだ。
一応警戒して身を隠しながら崖の下をのぞく。
そこには2体のロボットが戦っていた。
2体とも人型だ。
つまり、どちらにも人が乗っている対人戦だ。
「珍しいわね、他人が戦っているところをみるなんて」
「そうなの?」
「ええ。そもそもこちらで人と戦うこと自体が稀よ」
そうなんだ・・・。
というか、それなら2回連続人と遭遇してる私は何なんだ?
不運なのかなんなのか・・・。
2体のロボットは正反対の装備をしていた。
片方はその手にライフルのような武装をしており、いかにも遠距離型といった様相だ。それ以外の武装は肩にミサイルポットのようなものがあるが、それ以外の装甲などは私たちと同じくらい薄く打たれ弱そう。
そしてもう片方は正反対に全身に分厚い装甲が装備されており明らかに防御型だ。だがそれゆえに鈍重な印象で素早い動きはできないだろう。装備も両手のナックルだけ。遠距離の武装などはなさそうだ。
2体のロボットの相性は明らかに遠距離型に分があるだろう。
防御型は遠距離武装がなく離れた場所から遠距離型がライフルを打ち続ければ一方的な攻撃になる。
しかも防御型は素早い動きができないだろうからライフルを躱すことも近づくこともできない。
あとは遮蔽物に隠れながら敵の弾切れを待つ耐久戦ぐらいしかできないだろうが、崖の下は私たちがいる場所のように岩や柱のような遮蔽物はなく、一帯が砂漠の平原だった。隠れる場所はない。
この戦いは防御型の圧倒的な不利だ。
なのに、
防御型はその大きな拳で敵を殴りつける、薄い装甲の遠距離型はその一撃を間一髪回避する。
戦況は防御型の優勢だった。
相性は遠距離型のほうが優位のはずなのに、防御型は何らかの方法で至近距離にまで近づいて一方的に攻撃していた。
距離を詰められれば遠距離型が逆に不利だ。
連続で攻撃されライフルを構える暇がない。
かといって撃てたとしても防御型の厚い装甲の前には一発じゃ致命傷には至らないだろう。
逆に薄い装甲の遠距離型には一撃が致命傷になる。
圧倒的な劣勢。
しかし妙だ。
防御型はどうやってあの距離にまで近づいたんだ?
不意打ち?いや、なんの遮蔽物もない場所でそれはない。装備的に砂の中に埋まっていたわけでもない。砂に潜ることはできても重さで上がることができないだろう。
じゃあどうやって?
まさか遠距離型のパイロットが間抜けだったというオチでもないだろう。
「・・・・・あっ」
そんなこと考えている間に戦況が動いた。
防御型のナックルがついに敵の胴体をとらえた。
下腹部に当たった衝撃で両股関節がひしゃげる。
あれではもう足はまともに動かないだろう。
実質的決着。
もう遠距離型は攻撃を避けることはできない。
「どうするの?このまま立ち去る、それとも残ったほうと戦うのかしら」
千歳の言葉に私は返事ができない。
その時私は、
足がいかれ後方に倒れるロボットを見て様々な記憶がフラッシュバックしていた。
小学生の時集団で私をいじめていた同級生。初めての戦闘で一方的に私を攻撃した敵。
どちらも私が感じている感情は同じだ。
恐怖。
当たり前だ。
誰だって悪意や、暴力を向けられたら怖いに決まっている。
そう、誰だって。
でも。
ということは・・・
ということはあのロボットのパイロットも同じことを感じているってことだろう・・・!
「ごめん・・・・・千歳」
私は千歳の返事も待たずに、
崖から身を躍らせた。
「うわああああああああああああっ」
崖の下に降りた私はその手の太刀で防御型ロボに切りかかる。
その一撃を躱す敵。
だが思惑通りに遠距離型のロボットから離すことができた。
「何をしているのっ」
千歳からの怒声が飛ぶ。
当たり前か。
周りから見ればなんてトチ狂った行動をしているのは私だ。
千歳の言う通り、あのまま逃げるか戦いの漁夫の利を狙うことが正しい選択だった。
だが、私はそうしなかった。
「ごめん千歳。色々考えたんだけど、やっぱり私殺しあうなんて間違ってると思う。綺麗事だってわかってる、偽善だって思われてもしょうがないって思う・・・。
それでも・・・・・それでも私は人を殺すことはしない。
例え敵でも、死んでほしくない!」
私は叫ぶ。
私の綺麗事を。
「決めたよ。私は・・・・誰も殺さない。誰も殺させないために戦う。そのためにどれだけ迷惑をかけるか分からないけど・・・私はそう決めたんだ!!」




