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私たちのヴァルキューレ  作者: 紅葉崎もみじ
ヒーローでも、勇者でも・・・
19/27

19話 今の私と、昔の私

 昔の私は、いわゆるヤンチャな子供だったと思う。


 どこの小学校でも一人ぐらい居るだろう。

 女子とはまったく遊ばずに男子と一緒にサッカーなんかをして遊ぶ男勝りの子。


 私がそうだった。


 当時の私は、何の根拠もなく自分が特別な人間だと信じてやまなかった。


 私にはTVの特撮ヒーローとか、RPGゲームの勇者みたいに世界を変える素晴らしい力があると大真面目に思っていた。


 だから当時の私は、誰にも負けないくらい強かった。

 強いと思っていた。


 私の中で私が一番強い時期だった。


 今でこそ平均的な体系だが、当時の私は発育が周りよりも早く。

 周りの男子よりも余裕で大きかったからスポーツやケンカでも負けなかった。


 そのうちヒーロー気取りで町中をパトロールして近所の悪ガキや女の子をいじめる男子なんかをぶっ飛ばしていた。時には中学生にまでケンカを売っていた。

 今考えれば、私のしていた行動が一番周りの迷惑だっただろう。


 両親は私のためにケガをした子供の家に何度頭を下げに言ったのだろうか・・・。

 正直すまんかったと思っています。




 しかし、私が最強だった時間はすぐに終わった。

 



 小学四年生になると私の体も女性的になってきたのだ。

 そして周りの男子の体格も私に追いつき、そのままあっさり追い抜いた。


 簡単な話。

 私のささやかな特別はもう特別ではなくなったのだ。


 その時期の男子というのは理由なく女子を毛嫌いするものだし、かといって今まで女子と関わることもしなかった私がいまさら女子の輪の中に入れるわけがなく。


 当たり前のように、私は学校の中で孤立した。


 よく言われることだが、子供とは純粋ゆえに残酷だ。


 学校というコミュニティの中で孤立する私を同級生たちは異端だと判断し、排斥した。


 率直な話、いじめが始まったのだ。


 といってもそんなに深刻なことではなく。

 単によくからかいの対象になっていたというだけだ。

 ただ、小学生はからかいといじめの差がよくわかっていなかったというだけで。


 私が受けたテストの点が悪ければ黒板に張り出され笑いものになり、逆に避ければカンニングだと糾弾された。

 ランドセルが川に捨てられたり、私物に落書きされたりはしょっちゅうだった。


 そのうち私は理解した。


 私は特別な人間なんかではなく。

 怪人を倒す特撮ヒーローでも世界を救う勇者でもなく・・・。


 自分のまわりの環境も変えることができないただの子供だったということを。


 それまでなんでもかんでも腕力とか知識とか「個」の範囲でどうにかなる対称を相手にしてきた私は。

 腕力や知識なんて関係ないただの「数」としての圧力に対する耐性などなかった。


 怖った。


 当時の私はただただ怖かった・・・。


 個人ではなく集団になって、数という力で自身たちを正当化して危害を加えてくる相手がただただ恐ろしかった。


 その過程で私の中にあった自尊心やプライドなんてものはあっけなく砕け散った。


 そこからのことは、詳しく話す必要なんてないだろう。

 誰でも想像がつくことだから。


 不登校になって。


 学校を転校して。


 そして私は今の私になった。


 他人の目ばかり気にして、数という力に怯えて、長いものに巻かれる私に・・・。









 昔のことを考えていたら、昔好きだったものが見たくなった。

 懐かしくなったのかもしれない。


 押入れなんかをあさり、昔のアニメとか特撮なんかが録画されたDVD(一部のVHSは再生機器がないのでそっと元に戻した)を引っ張り出してリビングのTVで再生した。


 画面では一般人だった主人公が右手だけの怪人から変身アイテムを受け取り、変な歌と共にパッと見信号機のような見た目のヒーローに変身した。


 正義感溢れる主人公は、そのまま迷いもなく変身した姿で怪人と戦う。


 

 ありえなーな・・・。



 急に人智を無視した力を手に入れてもすぐに順応して戦うなんてできるわけない。

 仮にしたとしても、自分の都合のために使って誰かのためのヒーローになることなんてないだろう。



 フィクションになんでこんな真面目な突っ込みしてんだ。


 ナンセンスだろそんなの。



「あら。懐かしいものみてるわね」

「!お帰りーお母さん」


 いつの間にか夕飯の買い物から戻っていたお母さんがリビングにいた。


「・・・・ねえ、お母さん」

「?何よ」


 リビングに隣接するキッチンで買ったものを片付けているお母さんに私は話しかけた。


「お母さんは、最初私の事どう思ったの?」

「・・・なによいきなり」

「いやさ。私、昔ヤンチャっていうか・・・迷惑ばっかりかけてたでしょ」


 お母さんの返事はない。


「普通母親って、娘と一種にやりたいこととか色々あるもんじゃない?なのに私初めて会った時からお母さんに娘らしいことできなかったとおもtt・・・・ぎゃん!」


 語尾が乱れたのはお母さんがその手に持ったお玉で私の後頭部を殴りつけたからだ。


 いやいや、昔のバラエティ番組じゃないんだから・・・。


「な、なにすんの・・・」

「なにがあったのか知らないけど暗い気持ちになったらこういうのが一番」

「お母さんそんな体育会系だっけ?」

「学生時代陸上部だったけど?」

「初めて聞いた・・・」


 マジで。


「あんたねえ。迷惑かけたとか言ってるけど子供は親に迷惑かけるもんでしょうが。後ろめたく思うことないわよ」

「・・・・」

「ま、確かに娘ができるって聞いた時には私も一緒におままごとしたり料理したりいろいろやりたかったことはあったわ。ふたを開けてみたら男の子かと思うくらいのはっちゃけ娘だったけどね」

「すいません・・・」

「でもね。それが悪いわけじゃないわ。確かに周りとは違うかもしれないけど、それがあんたの個性だったんだから。それを悲観することも罪悪感を覚えることもないわ。それに、今はそれが収まってきたみたいだし」


 収まってきたっていうか・・・なんというか。


「百花。今あなたが何を悲観しているのか知らないけれど、まずはあなたらしくやってみなさい」

「私らしく・・・」

「それが難しいって言う人もいるし実際難しいけれど、まずは自分で考えなさい。失敗したり、本当に困った時には私でもいい、お父さんでもいい。周りに相談して」


 お母さんの言葉はすとんと私の中に入ってくる。


「自分の弱さを見せることがいやかもしれない。迷惑をかけたくないって遠慮してるのかもしれない。でも、恥ずかしいことじゃないし迷惑かもって周りに遠慮することはないわ。




 迷惑をかけたら謝ればいいの。

 そりゃあ償いきれないこともあるけれど、本当に取り返しの利かないことってそうそうないから」


 だから迷惑をかけなさい、そして同じくらい人に迷惑をかけられなさい。



 そのシメはどうだろかと思いつつ、


「ありがと、お母さん」


 素直に礼を言った。


「よし。それじゃあ今までの迷惑を返してもらうために夕飯作るの手伝ってもらおうかしらー」

「・・・・。はぁーい」


 私はいつの間にか特撮の第二話が流れているTVを消して台所へ向かう。









「私らしく・・・・。迷惑かけろ、か」


 でもお母さん。

 この街がなくなるほどの迷惑は、流石に私には償えないかな・・・。

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