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私たちのヴァルキューレ  作者: 紅葉崎もみじ
ヒーローでも、勇者でも・・・
16/27

16話 世界の仕組み

「今の世界人口が、何人か知っているかしら」


 久方ぶりに口を開いた千歳からの第一声はそれだった。


 砂漠を移動し続けておおよそ1時間はたっただろうか。

 私たちは大きな岩が柱のように連なっている地帯にたどり着いた。

 

 別に自分が歩いたわけではないので疲れてはいないが、機械も動かし続けると疲弊して壊れやすくなったり燃費も悪いとどこかで聞いたことがあったからロボットを岩の柱に隠すように休ませる。

 もちろん周りに敵がいないことを確認したうえで。


 と、ゆっくり話ができる時間ができるのを待っていたのか千歳は話し始めた。

 正直話しかけられてほっとした。

 ずっと無言だったから怒ってるんじゃないかと思ってたから。

 ・・・・変わらず無表情だけど。


 しかし・・・。


「人口・・・・?」


 こんな時に社会の勉強か?

 理数系よりは苦手ではないがそこまで成績は良くないぞ・・・。


 まあ、それでも人口ぐらいは知っている。

 一般常識といっていいレベルの話だし。


「確か・・・・・50億人ぐらいだっけ?」

「もっと正確には約49億7000人。それはいつからかしら」

「?」


 質問の意味がよくわからない。

 だってそれは誰だって知っている常識だからだ。







「そんなの、30年ぐらい前からずっと変わってないでしょう?なんでそんなこと聞くの?」







 今時小学生だって知っている世界の常識だろう。


 それをなんで・・・・。


「気づかない?」

「え?」

「おかしいと思わない?それを」

「それって人口のこと・・・?おかしいってなにが・・・」

「18世紀の産業革命以降、世界人口の増加ペースは早くなり20世紀には人口爆発と呼ばれる人類史上最大の人口増加が起こった」


 千歳が語る内容は世界史の授業中にちらりと余談で聞いた。

 社会はそれほどなのに歴史の成績は良い私はそのことをなんとなく覚えていた。


「しかし32年前から人口の増加は急激に収まり、多少の増減はあれど決して50億人を超えることはない。それはなぜかしら・・・」

「さっきから質問の意図がわかんないんだけど・・・」

「不思議に思わない?」

「不思議・・・?」

「それまで爆発的に増えていた人口が、あるときから何の前触れも予兆もなく増加を止めた・・・」

「いや、それは不思議といえば不思議だけど・・・・この話に何の意味が・・・・・」


 そう、意味。

 多分千歳のことから、全くの無駄な雑談というわけではないだろうが。


 この話がの意味が・・・・。




 人口。


 増加。


 止まる。


 世界。


 戦い。


 死滅。




 私の頭の中に断片的な情報が飛び交った。


「・・・・・・!」


 息をのんだ私の気配から、千歳は私の考えていることをおおよそ察したのだろう。


「やっぱりあなた、理解が早いわ」


 と、いうことは。

 まさか私の考えていることは正解なのか?


 いや、でも・・・・。


 それなら矛盾がありすぎる。


 それならなんで騒ぎにならない・・・?

 世界中が震撼する大事件だろう・・・・!









「この戦いは・・・・・増えすぎた人口を減らすため?人間を間引くために行われているってこと?」



 私の結論に、千歳はゆっくりとうなずいた。







「そう、私たちのように街の命運をかけて。自分たちの街を死滅させないために。戦う人が世界中に、街の数だけ居るの。そして、それらは戦いあうの。他の街を犠牲にして、自分たちの街を存命させるために」



 そして、人口を減らすために・・・。


「で、でもなんで!街1つって・・・・どれだけの人間がいると思っているの!そんな人数が一気に死んだら、とんでもない大事になるはずなのに・・・!なんでだれも騒いでいないの。話のながれなら30年前からずっとこの戦いは起こっているんでしょ?なのに、なんでなんの事件にもなっていないの⁉わたしそんな話、今まで聞いたこともないよ」


 それなのにニュースにもなっていなければ、噂話の類ですらそんなものはなかった。

 情報操作?

 いや、それにしても限界があるだろ。世界規模の話なんだから・・・。


「・・・・へえ」

「?」

「あなた。なんでこんな戦いが起こっているのではなくて、なんで戦いによって死んだ人間を誰も意に介さないのかを知りたいのね」

「っ!」

「いえ、別に攻めている訳じゃあないの。起こったことではなく、起こっていることを優先するのはこういう状況だととっさの判断に影響するから。あなた、意外と土壇場でもしぶとく生き残りそう」

「・・・・・いや、そういう話はいいから!」

「ああ、なんで周りの街が死滅していっていることを誰も騒がないのかって話よね。簡単な話よ。私たちは他の街に介入も関与もできないようになっているから」

「・・・・?」


 介入も、関与もできない?


「あなた、生まれてから一度でも自分の街の外に出たことはある?」

「え?そんなの・・・・・・」




 ない。




 私は、生まれてこの方。自分の街を出たことはない。

 いやそれどころか、自分の街の外に出るという発想自体私は考えたことはなかった。


「なんで・・・・」

「思考にプロテクトがかかっているの」

「プロテクト・・・・?」

「これだけ言えば、あなたならすぐわかるでしょう?」


 そんな過大評価しないでください・・・。

 と、謙虚というか人に期待されたくない私は言いたくなったが。


 実際に分かってしまったため、言わなかった。


 つまり、他の街がなくなることを不審に思うどころかそもそも他の街のことを考えることすらできないということか・・・。

 そしてそれを疑問に思うことすらない。


 私は戦慄した。

 だって私の思考、頭の中を自由にコントロールしている存在がいるということだから・・・。


 普段の何気ない思考でさえ私ではなく、誰かに操られて行っているかもしれない。  


 そう思うだけで、背筋が震えた。


「心配しなくても周りの街のことや人口のこと。つまりこの世界の仕組みによる影響に何の疑問も抱かなくなっているだけよ。まあ、これもどこまで信じていい情報かわからないけれど」

「さっきから、なんかやけに詳しいね」

「私も元々は何も知らなかったわ。でも、この役割・・・戦闘権とでも呼べばいいかしら?とにかく戦闘権を母から引きついだ瞬間、プロテクトが外れていきなりこの世界のしくみについて理解したわ。いえ、理解させられたといったほうがいいかしら」

「でも、私は・・・・?」

「おそらく、まだ完全にあなたに戦闘権が移っていないからかしら?割合的には8対2といったほどに私に戦闘権が残っているから」

「ほとんど移ってないね」

「あなたはまだこれを動かせるほどの権利しかないわ。現にこれの機能をほとんど使えないようだし・・・思考のプロテクトは外れているみたいだけれど」


 これ=ロボットのことらしい。


「さっきからまるで、この戦いを仕組んだ存在がいるみたいな言い方だね」

「ええ。実際いるんでしょうね。私は無神論者だったけれど。こんなものを用意したり、人を転送するなんて人智を超越した所業を見せられるとそんなものまで信じられてしまうわ。もしかしたらこの世界はどこかの研究室にある試験管の中で、私たちは研究員に管理されている研究用の微生物なんじゃないかしら?」


 笑えない冗談だ。

 確かにそんなSF小説あるけど・・・。


 ・・・・・・。


「とにかく、これで分かったかしら。私たちは戦わなくてはいけない」

「で、でもやっぱり殺す必要なんて・・・・」

「一定数の人間が減らなければ戦闘が終わらないわ。時間制限でなく、それが戦闘が終了する本当の条件。戦わなければ誰かが餓死するまで延々ここに居なければならない。言ってみればそれが実質の時間制限かしら」


 つまり、自分たちが生き残るために他の誰かを・・・・街を犠牲にしろってこと?


「甘さは捨てなさい。でなければ、次はあなたが死んで、私たちの街が死滅するかもしれないわ」

「・・・・・一つ聞いてもいい?」

「何かしら」


 この世界の仕組みを聞いている途中から、どうしても気になっていたことがあった。


「千歳は、ずっと戦っていたんだよね?じゃあ・・・・・




 誰かを・・・・・他の街を殺したの?」




 返事は分かっている。

 聞きたくないでも、私は聞かなきゃいけないと思った。



「・・・・・・ええ」


 その言葉を聞き、私は彼女のある意味狂人じみた冷静さの道理を理解した。


 彼女は、戦っていた。

 人知れず。

 街のために。

 いつから戦っているのかは、わからない。


 でも、


 彼女は眉一つ動かさずに人が殺せるほど・・・戦ってきたんだ。


 ずっと。


 ずっと。

3話から15話の文章を一部改稿しました。

 おおまかな内容は変更されていませんが、千歳のセリフや性格が大分変更されています。


 ・・・・・それにしても街を殺すってどっかの魔眼持ちが言いそうなセリフ。

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