15話 戦場と偽善者
戦闘が終わった。
圧倒的な力を見せつけて千歳は敵に―――――私たちと同じ人間に勝利した。
はっきり言ってこの時私は惚けていた。
コックピットの中、私が座る操縦席の横に立つ少女の華麗とも表現出来る戦いにすっかり見とれ感激していた・・・。
私の時には雑魚にすら苦戦するような戦いしかできないこの機体が、千歳が操るだけであんな屈強な相手をほぼ一方的に倒してしまった。
隣の少女にただただ嘆賞し、ただただ憧れた・・・。
このロボットであんな戦いができるのなら、私にもできるかもしれない。
もちろんすぐにとはいかないだろうが、練習を重ねれば千歳と遜色ない戦いができるかもしれない。
普段思考がネガティブよりな自分が前向きなことを考えるほど、今の私は浮かれていた。
そう、浮かれていたんだ。
私はまだ根本的なところで理解していなかった。
いや、目をそらしていたのかもしれない。
これで戦いが終わりだと・・・。
しかし、違う。
戦いの真の意味は?
戦闘に勝つということの意味は?
それはつまり―――――、
千歳は倒れ伏した敵に近づいていく。
『てめえぇ・・・・・!殺してやる!殺してやんぞテメエえええええええ!』
伏した敵からは悪態が響く。
もう何もできない状態なのに荒い言葉は止まらない。
『殺す!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す――――――――――!!!!!」
千歳は叫び続ける敵に、
――――――――太刀を振りかぶった。
「・・・・・え」
それはつまり――――――
相手の命を奪うってことだ。
そして千歳は、太刀を振り下ろ―――――――――
「だめえーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
私の叫びに刀身がびくりと制止する。
・・・・・・よかった。
「なにしてるの千歳!」
私の言葉に少女はそちらに視線を向ける。
「決まっているわ・・・・倒すの、敵を」
「だったらもういいでしょ!こ、こ、殺す必要なんてない!」
「・・・・・何を甘いことを言っているの」
その言葉は重みをもっていた。
本当にこの子は十代の・・・私より年下の女の子なの?
そんな錯覚を覚えるほどに、彼女に得体のしれない何かを感じた。
「この戦いは、相手を殺すまで終わらない。それが絶対なのよ」
「さっきからわけわかんないって!どうして人間同士で戦わなくちゃいけないの!なんで殺さなくちゃいけないの!」
「いい加減聞き分けのない言葉をやめなさい!」
普段の千歳では考えられない激高した声。
「うるさい!大した説明もされないで納得なんかできるわけないだろっ!」
それでも私は声を出した。
私は平穏が好きだし。なるべく人に反論せず、対立もせずただただ取り繕って生きていた。
自分が安全なら、他の人間が不幸になったところでかまわないと考えるような人間だ。
でも・・・・・それでも!
「いや、説明されたとしても・・・納得できる理由があったとしても。
人の命を奪っていい訳ないだろうがっ!!」
それでも、人の命が奪われるところを黙ってみているほど腐っている訳じゃない!
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「綺麗事ね・・・」
「うん・・・・」
千歳の言うことは恐らく間違っていないだろう。
千歳はここを戦場だと言った。
つまり、異常が正常で。
千歳の見慈悲さのほうが正しいはずだ。
でも、納得できないものは納得できないし。
見過ごせなかったのだ。
なにより、
・・・・・これが一番大きな理由かもしれない。
なにより私は、千歳が人を殺すところを・・・・・見たくなかったんだ。
「こいつを逃がすことは、私たちの立場を危うくするのよ。また返り討ちにできるとは限らない。・・・・・それでも殺すなというの?」
千歳の非難とも、失望とも違う。
複雑な感情のこもった視線を受け止め、
「うん」
私はしっかりとうなずいた。
「・・・・・・・・すぐにここを移動しましょう。今時間切れがおこったら、次の戦闘でまたこれと戦うことになるわ」
忘れたけど、さっきから悪態を叫び続けている敵は近くに転がっている。
「・・・・・・・・!うん。ありがとう、千歳」
「・・・・。あなたが移動するのよ。私は疲れたわ、いろいろとね」
ロボットとリンクがつながったのだろう。
頭痛が起こる。
「・・・・・・偽善者」
頭痛に紛れて聞こえたつぶやきが、
深く私の耳に残った・・・・。