14話 実力の違い
胴体へ再び蹴りが落とされる。
申し訳程度の装甲はそれだけで深くへこむ。
『もろいなあ・・・・こんなもんぶっ壊しても全然おもしろくねえぞ・・・』
苛立った男性の声が響いてくる。
声から察するに年上のようだが、言動はまるでひねた子供のようだ。
「やめてください!」
私は叫ぶ。
相手の声が届くのだから、こちらの声も聞こえるだろうと自然と考えてだ。
だが、返事は蹴りだった。
ものに八つ当たりするような、雑な蹴り。
「やめてください!こっちは戦う気なんて・・・・!」
「こっちの声は聞こえないわよ。私が切ってるから」
「え⁉じゃあつないでよっ。こっちに戦う気がないって伝えなきゃ・・・!」
「その必要はないわ」
・・・・・・っ⁉
頭痛。
何かが私の頭の中から引き抜かれるような痛みが走る。
それはこちらに来るときにロボットとのリンクがつながる際のものと似ていた。
つまりリンクが切れた・・・・?
それを理解した瞬間、世界が揺れた。
いや、揺れているのは私たちか。
どうやら自由な脚部でバランスの悪い機体をよろめかせ、そのまま跳ね上りどけたようだ。
そのまま新体操のように回転しながら体勢を整えた。
バク転なんて初めてだ・・・・。
明らかに自分が起こしたわけではない動き。
つまり、今このロボットを動かしているのは・・・・・・。
「これとは私が戦うわ。まだあなたには荷が重いもの。でもよく見ておいて。いつかあなたが戦う時が来るから」
横に立つ少女を見て、息をのむ。
冷たい瞳・・・・。
何の感情もこもっていない。
それでいて鋭い視線。
私たちのロボットは太刀を相手へ向けた。
『おおっ?・・・・ははっ、そうこなくっちゃなあっ!!』
それを敵意だと解釈した男も何故か歓喜の感情がこもった叫びとともにメイスを構える。
「な、なにしてるの⁉これじゃあ戦うみたい・・・・」
「だから、戦うのよ」
「なんで!なんで人同士で戦わなくちゃいけないの!」
訳が分からない。
さっきから情報が不足している展開ばかりで状況が把握できない。
私たち以外の人?他のロボット?つまりあの人もあの人の街のために戦っているの?だったらなんで私たちと戦うの?
「混乱させてしまったわね。ごめんなさい。本当はもっと時間をかけて説明するはずだったから」
一瞬だけ。千歳はこちらを安心させるような視線を向ける。
・・・・ぞっとした。
それはさっきまでの冷たいそれと差があって、一見すれば狂気をも感じさせるようなものだった。
「今全てを説明することはできないから簡潔に言うわ」
彼女は語る。
まだ私が知らない、この世界の絶対のルールを。
「私たちは戦わなければならないの。自分の街の命運をかけて・・・他の街の人間と。それがこの世界のしくみ」
理解できない。
私が混乱する中状況は変化していく。
戦況が動いてゆく。
「・・・・・・ふっ」
短い掛け声とともに、千歳は飛び出した。
私とは違う。流れるような、美しささえ感じるような動きで太刀を振るう。
相手はメイスの柄で防ぐ。金属同士のぶつかる、耳をつんざく音。
武器が触れていた時間は一秒もない。
防がれた次の瞬間、次の攻撃を千歳は起こしていた。
相手を中心に円を描くように移動しながらの連続した斬撃。
見た目通り、屈強な見た目の相手はそれゆえに俊敏なこちらの動きに対応できていない。
だが、こちらも動きながらの軽い攻撃ではダメージにならない。
敵の分厚い装甲には浅い傷しかつけられない・・・。
だが、こちらの一方的な攻撃は相手の苛立ちを増大させた。
『ちょこまか・・・・・うごいてんじゃねえええええっ!』
メイスを苛立ちに任せ薙ぎ払う。
だがそんな短絡的な行動を千歳が予測できない訳がない。
バックステップで軽く躱す。
相手はまた追撃。
メイスを縦に振り下ろす。
先ほどの同じように砂が大量に巻き上がるが、千歳は後ろに跳び引き回避。
『おあああああああああああっ!!』
砂煙を吹き飛ばすようにメイスを突き出す形での突進。
ここで相手は選択を間違えた。
相手の装備は上半身に集中しバランスが悪い。
よってこちらのように軽装備で速く立ち回るこちらとは相性が悪いようだが、こちらには一撃の重さがない。
いくら手数が当たろうが装甲を貫けなければダメージにはならない。
そして速度と比例したこちらの薄い装甲では、メイスをまともに食らえば一撃で重大なダメージになる。
相手は勢い任せに飛び出さず、こちらの攻撃のカウンターをじっくり狙うべきだったのだ。
その突進は砂が目隠しになり不意打ちにはなっただろう。
その点だけはよかったが。
しかし。
「・・・・・・っ!」
千歳が太刀でメイスの軌道をそらし、機体を滑るように移動。
お互いの装甲がかすめるほどの最低限の回避。
躱されたことで、不意打ちは愚策に変わる。
重いうえに、バランスの悪い機体で突進などすれば前につんのめるのは当たり前だ。
その好機を逃すわけがない。
千歳は軽い重量を生かした鋭い切り返しを分厚い装甲の隙間、関節へ放つ。
刀身が相手の肘に吸い込まれ、左腕が宙を舞う。
それは、相手のように力任せの攻撃でなく、速度と技術の技だった。
ともすれば見とれてしまうような動きだ。
いや、実際私は先までの混乱も忘れて千歳の戦いにただただ圧倒されていた・・・・・。
さすがに片手で扱えないのだろう。
相手の手からメイスがこぼれる。
『な・・・・に、してくれんだてめええええええええええええええええ!!』
激高。
先の反省を全くしていないような動きで残った右手を振りかざす。
右手を突き付けた状態での突進。
学習せず、愚策を繰り返す者はもはや哀れだ。
千歳は腕を折りたたみ、突きの体勢に入る。
このまま相手の勢いを利用したカウンターの突きを放つつもりだ。
だが、相手も全くの考えなしではなかった。
右手に取り付けられた装置。
表面が割れ、中から現れたのは巨杭。
いわゆるパイルバンカーという武装だろう。
これこそ完全な不意打ち。
収納された杭が射出される。
しかしその動きは半ばで止まった。
杭の先端に太刀の切っ先が食い込んでいたのだ。
つまり、千歳は読んでいた。
ただの突撃でなく、右手の武装を使った攻撃だと。
だから突きは胴体ではなく最初から武装を正確に狙っていた。
太刀はそのまま杭を貫き、残った右腕をも破壊した・・・・。
先ほどとは逆に倒れ伏すことになる相手。
両手がなければ重い機体を起き上がらせることもできないだろう。
戦いは実質的に決着となった。
私とは比べ物にならない実力で、圧倒的な実力で千歳は敵を撃破した・・・。