12話 ビギナーズラック
まずい。
思い出したら不安がぶり返してきた。
と、とにかくやるしかない!
私、もといロボットは腰の太刀を引き抜く。
引き抜・・・・・。
え?
「なにもたもたしてるの」
「抜きづらいんだってこれ!」
なんか鞘に引っかかって抜けない!
いや正確には徐々に抜けてきる。
でも明らかに遅い。
あれ?時代劇とかではスパン!って感じで抜けるのに。あの感じってもしかしてフィクション?
そんなことしてる間にまた敵が迫っていた。
「ひっ!」
回避ーーーーっ!
また砂の上を転がる。
「だからもっとスマートに避けられないの」
「そんなこと言ったって!」
敵を見る。
今度は向こうも躱すことを読んでいたのだろう、もたつくことなくすぐに旋回。
再度突っ込んでくる。
私も、今度は避けなかった。
「やあぁああっ!」
その手にある太刀を、野球のバッティングの要領で振る。
当たることはなかったが、敵が太刀の軌跡を避けるために軌道を変えたのでこちらも攻撃を受けることはなかった。
なるほど、攻撃は最大の防御とはこのことか。
先ほど転がったとき、どうなってそうなったのかは分からないが鞘から太刀が抜けていた。
・・・・・結果オーライ。
「・・・・・・・・」
なんか隣の千歳から非難するような気配を感じるが。
しょうがないじゃん!私素人なんだから。
一旦離れた敵に切っ先を向ける。
敵も警戒し、ある程度の距離を取ってにらみ合う形に。
敵にとってもこの太刀(私でなく)は脅威なのだろう先ほどのように安易に突っ込んでこない。
そしてそれは私も同様だった。
「何してるの。こちらから攻撃しないと勝てないわよ」
「だからそんなこと言われたって・・・」
軽い膠着状態になる。
「・・・・・・・」
怖い。
安易に突っ込んで返り討ちにあうんじゃないかと考えて足がすくむ。
でも敵は待ってくれない。
チーターは一瞬体を沈めた後、一気にこちらに飛び込んできた。
・・・・あ。
緊張が限界に達したのだろうか。
周りの動きが遅く感じられる。
見えた。
チーターの重心。
それが今までよりも横にずれている。
つまり。
敵は目の前で旋回、弧を描くように背後に回ってきた。
思った通り!
「敵が近づいたら――――!」
私は右足を軸に体を反転。
「外さないように!」
その勢いのまま、
「斬る――――――――っ!」
太刀を振りぬいた。
「・・・・・・・勝った」
脱力し、背もたれに身を投げ出す。
なんだろ。実際に身体を使ったわけでもないに妙に疲れた。
「こんなのにその調子だと、これから先が思いやられるわね・・・」
こんなの、ことチーターさん(残骸)。
「辛辣だなあ・・・。それにしてもやけにあっさり勝てたな。結構拍子抜けかも」
私の太刀はなんともあっさり敵を一刀両断した。
見た目にも固そうな機械でできた敵を、豆腐を切るみたいに何の抵抗もなくズバッと斬ってしまったこの太刀の切れ味は何なんだ?
思わず自分が強いのかと勘違いしてしまいそうなほどだ。
「それはそうでしょ。むしろ負けるほうが難しいと思うわ」
私の言葉にあっさりとそんなことを言う千歳。
「・・・・・え?」
ち、千歳さん?それはつまりなんですか?
「千歳・・・・この敵弱いの?」
「ええ。誰が戦っても十中八九負けないでしょうね」
「雑魚ってことですかー」
私は強くないが、少なくともこの敵よりは強かったってことか。少なくとも。
「っていうか、それならそうと先に言ってよ!」
「?言っていたでしょう。負けることはないって」
「そんなんじゃ分かんないって!はっきり弱いなら弱いって言ってよ!」
「私はきちんと伝えたわ。あなたの読解力の問題でしょう」
「なにそれ!・・・・・あっ!読解力といえばあのマニュアルも何⁉あんな書き方で分かるわけないでしょうが!」
「人が細かくまとめたものに何て言い草よ」
「細か過ぎんだっての!限度を知ろ限度を!要約してよ!読むのにどんだけかかったと思ってるの!」
「知識は持っていて損はないでしょう。すべて重要だからあますことなく伝えたのよ」
なんでこっちがおかしいみたいな、不思議な顔されなきゃいけないの。
・・・・・いや、なんも変わってなーなコイツの顔。
「まとめるのが苦手な奴はすぐそう言う!全部大事とか、捨てきれないとか!」
「なによ。実際戦闘で私の説明は役に立ったでしょう」
「立つかあんな雑な説明で!なんで戦闘のことになると説明が一気にフィーリングな感じになるの⁉」
「仕方ないじゃない戦闘での立ち回りを説明する語彙なんて持っていないわ」
「その知識こそ今は重要だろーーーーーーーーーーーーー!」
しばらく意味のない言い争いをする私たち。
自分のことながら何をやってるのやら・・・。
「とにかく、次の敵が出るかもしれないわ。移動するわよ。次の敵が弱いとは限らないし、前回のように都合よく戦闘が終わる保証はないわ」
「へいへい・・・・」
これからのことにそこはかとない不安を感じる。
そしてそれはすぐに現実となるのだった。
「・・・・!」
?
千歳は珍しく端から見ても驚いていると分かる(それども乏しい)感情を見せる
「ん?どうしたの」
「まずい・・・・まさかこのタイミングで!」
千歳の視線を追いそれを見る。
それは、人だった。
いや、人型だった。
「私たちと同じ・・・・?」
そう、私たちと同じ。
人型のロボットがこちらへ近づいてきていた。