11話 説明下手?
「ふう」
私はノートを閉じた。
一区切りまで読み終えたのでいったん休憩。
ノートには戦闘の概要がこと細やかに記されてあった。
とりあえず戦闘の概要・・・というよりルールという方が正しいか?
ルールを簡単に要約すると以下のようになる。
『戦闘は慣例的に起こるが、決まった法則性はない。短い場合1週間、長いときは3週間のスパンが空く。どれだけの頻度で戦闘があるかは分からないが少なくとも一月に一度は必ず戦闘が起こる』
『戦闘開始地点は前回タイムアップになった地点の半径約5キロに無作為に配置される』
『タイムアップ、つまり制限時間にも決まった設定がない。数時間で終わる場合もあれば数日に及ぶ場合もある』
『ロボットの受けた傷は次の戦闘では全て修復される』
『ロボットがどれだけ傷ついても負けにはならない。中に居る私たちが死亡したとき敗北となり街の生物が死滅する。ちなみに向こうの大気は人体に対して有害であるため空気が漏れるほど傷がつくと実質の負けとなる』
こんなところかな?
なんか疲れた。
文字を読んだことではなく、文字の意味を解読することに時間を取られてしまった。
千歳のノートを読んでいて真っ先に思ったことは、あいつ頭いいなということだった。
頭がいい故に頭が硬いというか・・・。
なんだかお硬い論文を読んでいる気分で気が滅入った。
というか要約すれば5文ほどで終わるような説明をノートをほぼ使うってどうなんだよ・・・。
文字自体は綺麗なので読むことに苦はなかったが、これは活字を読むことに慣れていない人間なら3分で投げ出すだろう。
私の場合は父親の仕事柄、本を読む機会が幼い頃からあったため大丈夫だったが。
これは読む人間のことを全く考えていないと思った。
読みやすさなんて欠片も考慮されていない。
というか、多分あいつ自分の書く文章を当然他人も理解できると勘違いしてるんではなかろうか。
天才は説明が下手と言うが、
いやはや・・・・。
しかし、この内容は本当なんだろうか。
別に千歳を信用していない訳ではない。
でも、負ければ街の生物が死滅するって結果だけが記されているだけで。
どうやって死ぬのか、なんで街の人々も死ななければいけないのかが記載されていない。
そもそも、どうしてこんな戦いがあるのか。
その理由さえない。
単純に千歳も知らないのか。
それとも・・・。
意図的に隠しているのか。
だとしたら何で?
・・・・・。
「あー!やめやめ!」
頭の中で深く考えてドツボにはまるのが私の悪い癖だ!
大した知恵もないのに考えるなんて時間の無駄!
下手な長考休むに似たり!
千歳のことだからまだ伝えるべきじゃないと考えてのことだろう。
あえてそうしたんだ。
そういうことにしておこう!
悪い予感があるとすぐに逃げるのも、私の悪い癖だと思う。
だから、気付けたはずのことも結局そのときになるまで分からなかった。
そのときになってうろたえてしまった。
私は再度ノートを開き、まだ読んでいないページを見る。
そこには私たちの乗るロボットの説明が書かれていた。
いや、描かれていた?
「千歳、絵上手・・・!」
そのページにはロボットの絵が写実的に描かれていた。
素人目でもかなり上手い。
「へえ・・・こんな感じだったんだ」
コックピットに乗っていたときは、いわゆるロボットの一人称視点の視界しか見えなかった。
そのため絵とはいえ全体像を見たのはこれが初めてだ。
「・・・・」
外見の第一印象は、鎧武者だろうか?
その大きな要因はロボットが腰に帯びている刀だろう。
いや、刃が下を向いているからこれは太刀か?
太刀なら帯びるでなく、佩くというんだっけ?
ま、細かいことはどうでもいいか。
大きな特徴はその太刀。
どうやらそれ以外の武装は無いらしい。
近接武器1つだけ・・・?
なんか、思いっきり玄人向けな機体なんじゃないこれ・・・。
それ以外の特徴といえば全体的に細いということだろうか。
昔見たアニメのロボットと比べてだが。
もちろん鎧武者と言った通り、鎧のような装甲を付けている。
ただ頭部、胴体、前腕部と手の甲、太ももと拗ねに最低限のものしか付けていない。
それ以外の部分は素肌が丸出しという感じだ。ロボットにその表現が正しいのかわからないけど。
しかも装甲部分も薄い。
お世辞にも頑丈には見えなかった。
「・・・・不安だ」
その不安は、貧相な身体のロボットから『だけ』来る訳ではない。
ノートには絵のそばにロボットの説明文も書かれていた。
ロボットの太刀を矢印のように指している線の先には、
『とても強い』と書かれていた。
・・・・・はい?
ちょっと意味が分からん。
他にも、むき出しの素肌の部分を指して『脆い』。
装甲の部分には『やや脆い』と書かれている。
やっぱり脆いのか、というか装甲も脆いことには変わりないのか・・・。
ちょっと待って。
さっきの論文のような長文と比べてこれは何だ?
何だこの高低差は?
もしやこんな言葉じゃないと理解できないと思い直されたのか?
どれだけ馬鹿だと思われてるんだ私は。
訝しい思いを抱きながらページをめくる。
今度はロボットだけでなく、前回の虎だかチーターだかを模した敵がセットで描かれている。
そして『敵が近づいたら 外さないように 斬る』と、
それができりゃあ苦労せんと言いたくなる説明がついていた。
「ええ・・・・・」
不安だ・・・。
不安というスポンジケーキに不安という生クリームをぶっかけ不安というメープルシロップを浸し口の中にぶち込むぐらい不安だ。
頭の中が暗雲で埋め尽くされる中、
ノートに描かれたロボットの頭部を見て『なんか鯱みたいな顔だな・・・』とどうでもいいことを私は思った。




