変化
『よ、っと』
指を引っ掛ける場所が分かっているかのように、ウィルはスイスイと登っていく。
随分と手慣れている。
盗賊団、というからにはこういう風に侵入したこともあるのだろうか?
『……』
ふと、ウィルが下を見る。
随分な高さだ。 およそ、30メートルほどだろうか。
祭りを行き来している人達が、蟻のように見える。 僕にとっては、未知の高さだ。
僕が経験した高さというのは、せいぜい学校の最上階ぐらいの高さしか経験したことしかない。
それを命綱なしで登っている。 頼れるのは己の肉体だけ、といったところか。
……正直、僕からすると、今の光景は見てられない。
自分がしろと言われたら、まず無理だと抵抗する。
それだけは自信がある。 まず、何も訓練できてない人間がこんなのできる筈がない。
―――――でも。
何故だろうか?
何故か、これをやった記憶がある。
それどころか、弓を射る、跳躍する、森を駆ける、といった、自分にはやったことのない記憶が脳内に駆け巡っている。
「……ウィルの記憶、なのか?」
そう呟いた、瞬間。
脳内に油でも入ったかのように、重い激痛が、雷撃の様に脳内に駆け巡る。
視界がチカチカして、暗転を繰り返している。
「――――始まった、か」
激痛に耐えながら、ルナールを見ると、彼は横目で僕を見ていた。
「なん、だよ、こ、れ? こんな、の、今、まで」
「体と精神の同調が始まっただけさ。 大丈夫、その痛みは想定内だから」
想定内、だと?
ふざけるな。
痛みを感じているのは、こっちなんだぞ。
「悪いね。 僕はただの精神体で、君は宿主だ。 その痛みを受ける権利がある。 それにほら」
「な、に?」
ルナールの体が消えかかっている。
手で触れば、かき消えてしまいそうだ。
「ほら、ボク自身も君に吸収されそうになってる。 真に不本意だけどね」
「ぼ、くは、どう、すれ、ば」
「その記憶が見終わったと同時に、君は目覚める。 ま、その辺は気にしなくてもいいさ」
「ふざけ、ん……ぐあああ!!」
今度は体中に激痛が走る。
まるで皮膚が、そのままひっくり返された様な……そんな痛み。
それに伴い、体中に、少しずつだけど変化が起こっている気がする。
体こそ見えないが、至る所の体の部分のパーツ一つ一つ伸びている……のか?
「じゃ、ボクはここいらで退場するよ。 あとは頑張ってくれ、我が宿主」
あの野郎。
言うだけ言って、消えやがった。
「ぐううう……あぁあ」
もう立ってられない。
そのまま、立つのを止め、床に伏す。
苦痛のあまり、舌を出し、口から唾液が漏れる。
……まるで獣だ。
未だに身体が見れない。 そのことがもどかし過ぎて、不快感が募る。
苦痛で身体が捻れる。 いや、そうしないと苦痛で意識が飛びそうだ。
『ここか......』
映像の中のウィルが呟く。
今まで停止されずにずっと再生されていたようだ。
現に、映像の中のウィルは教会内に侵入し、いつの間にか、扉の前に立っている。
薄暗い。 察するにここが売り子が言っていた地下室か。
「くううっ......」
僕は激痛が走る体を鞭打ち、上半身だけ起こして、その映像を見上げる。
その間、ウィルは扉の前で聞き耳を立てていた。 どうやら、中に誰かいないか、確認している。
『動く音はない、か』
ゆっくりと、確かめるように。
ギギ、と、木の軋むような音ともに扉が開く。
すると、そこには。
『先生ッ!!』
大量の、血のついた拷問器具。
そして、それに磔られ、血塗れになった、ウィルの先生が項垂れていた。




