回復魔術、開始
かつて、人間の王達を陥れ、国を傾けさせた元凶。
そんな彼女が守護者として人間を守っている、と当時の人間に教えたらどう思うだろう。
世界各地に彼女の伝説が残っているが、九割方ありえない、と答えるだろうか?
当時の事情を知らないし、知っても興味がない。
でも、これだけは言える。 変化した彼女からあふれ出る魔力は、今まで見たことのない量だ。
にじみ出て、普通の人間でも見え、知覚できるのではないか、という程だ。
その量に畏怖を覚える。 彼女を怒らせたら、取返しのつかないことになるのは容易だ。
あながち、伝説も過大評価ではない、ということか。
「……よし。 体に異常は無し、と」
畏怖している私をよそに、彼女は自身の体のチェックをしている。
そして私を見ると、先程の私の様にフン、と鼻で笑った。
「なにビビってるの? 昔、この姿みたでしょ?」
「いや、その」
「あ、そうか。 回路開きっぱなしか。 前はビビらせないように全部閉めてたっけ」
……ありえん。
幾ら変化したとはいえ、この魔力量は馬鹿げている。
とんだ食わせ者だ。 何もかもが馬鹿げた存在。
こんな奴が私の知り合いにいたとは。
「ま、魔力を大量に使うんだからいいか。 ……いいよね?」
私は黙ってコクコク、と頷いた。
「なら、今から内容を説明するわ。 分かっていると思うけど、異種による回復魔術は禁忌。 ……理由は分かっているわね?」
「ああ、勿論」
「よし、なら話は早い。 今回の回復魔術はあなたにやってもらいます。 レナード君との契約の際に魔力を分け与えているし、彼の体にも馴染みやすいはずよ」
「そのつもりだ」
「……けど、それでもあなたでは魔力が枯渇してしまう。 だから、私があなたに魔力を供給するわ」
「なに? それはどういう意味だ?」
「分からない? いわば、あなたは変換器よ。 私が供給元でレナード君が供給先。 あなたと私なら魔力を分け合っても問題無いし、こうすれば共倒れになることはない。 それに、あなたが変換に集中することによって、リスクが抑えられるわ」
「成程。 そういうことか」
確かに理にかなっている。
だから、元の姿に戻ったわけか。
「じゃ、早速やりましょう。 なにか、彼がいつも身に着けていたものは?」
「……これだな」
レナードから身に着けていたネックレスを外し、取り出す。
……まさか、こんなところで役に立つとは。
「これで、どうするつもりだ?」
「いつも身に着けていたのなら、そのネックレスに微量だけど、彼の魔力が宿っているはずよ。 それを元に変換しなさい。 多少は近づけるはずよ」
「了解した」
ネックレスを右手にかけ、テーブルに横たわっているレナードの腹部に手をかざす。
そして、目を閉じ、ネックレスに意識を集中する。
……見えた。 儀式の時に感じたレナードの魔力だ。
以前見たときは冷たい青色だった。 しかし、私の魔力を少しだけ取り込み、明るい蒼色になっている。
それを元に私の魔力を変換する。 翠色から蒼色へ。
「……っ」
瞬間、私の体がふらついた。
……少量ならなんてこともないが、これをレナードに流し込むとなると……
「しっかりしなさい!!」
フォクシーの激励が飛ぶ。 魔力を分けてくれたのか、それに合わせて体が楽になった。
「いい? そっとよ。 じゃないと拒否反応を起こすわ」
「あ、ああ」
高価なシャボン玉を触れるように、そっと送り込む。
が、レナードが苦しみ始めた。
「ぐうう……あぁ……」
「馬鹿!! 量が多い!!」
「クソッ!!」
魔力を絞り、送り込む魔力を減らす。
すると、レナードの容態が安定した。
「このまま送り込んで。 長期戦になるわ。 あなたも体に異変を感じたらすぐに言って」
「わ、分かった」
これを、このまま……
正直、フォクシーがいなかったら、と考えただけでぞっとする。
持つべきは友、か。




