回復魔術
ウィル視点になります。
非常階段を降り、レナードを抱えながら、懐から携帯を出す。
勿論、下の階で暴れているであろう、フォクシーに電話を掛けるためだ。
すると思いの外、早く繋がった。
「私だ。 そっちはどうだ?」
『あらかた殲滅したわよ。 ……なんか、上の階が焦げ臭いんだけど、レナード君は無事なの?』
「ああ、確保した。 だが、銃弾を受けて重傷だ。 一応、最低限の魔力を分け与えて応急処置を施したが......」
......中々返事が返ってこない。 彼女なりに責任を感じているのだろう。
『......分かった。 なら、入って来た正面玄関で、落ち合いましょう。 細かい話はその後で』
そのまま、電話を切る。 そして、正面玄関に向かいながらレナードの容体を確認する。
正直なところ、レナードの容体は芳しくない。
私の家で人間の医療を施した場合、ギリギリだ。 もしくは間に合わないかもしれない。
そもそも、レナードに手術に耐え切れる体力が残っていない可能性が高い。 先ほど、リスクの伴わない程度の魔力を分け与えて、延命処置をしたが、それも雀の涙程度だ。
ならばどうするか。
最終手段として、回復魔術を使用し、急速に回復させる方法がある。
だが、あくまで最終手段だ。
なら何故、最終手段か。
前にもレナードに説明したことがあるが......魔力というのは、血であり、体を作る設計図であり、生命力。
生命にとって、なくてはならないもの。
そんな重要なものを、何も考えずに分け与えたらどうなるか。
まず、拒否反応を起こす。 この辺は人間医療の臓器移植と原理は同じだ。
そこは魔力を操作し、極力リスクを無くすことができる。 前にレナードに話したように、少量なら対象者の魔力を多少弄ればいいし、応急処置程度ならそれで済む。
これこそが回復魔術と呼ばれるもの。
だが、これは同族同士で行った場合の話だ。
異種同士で回復魔術を行った場合、まず、分け与えられた者は、その魔力で体を回復しようとする。
勿論それは正常だ。 だが、もし分け与えた魔力が今まで魔力とは違い、全く異質なものだったら?
回復魔法を行うというなら、瀕死状態が予想される。 その場合大量の魔力が必要になる。 分け与えられた魔力を体は正常なものと判断するだろう。
そして、大量の異質な魔力を元に今まで通りに体を再生し……
魔力を分け与えられた異種は、分け与えた者の種族に変化する。
更にもっと言えば、魔力に宿った記憶がそのまま、分け与えられた者にいってしまい、記憶や人格を塗り替えられる危険性がある。
つまり、最悪、分け与えられた者は分け与える者のコピーになってしまう可能性がある、という事だ。
リスクは分け与えられた者だけではない。 分け与える者にもリスクはある。
例えば......分け与える方は先程、話したリスクを理解していると仮定しよう。
無論、そうならないように自身の魔力をなるべく変換させて、もしくは分ける者をある程度順応させるために自身の魔力を弄って変化させ、魔力を送ろうとするだろう。
......変換させるというのは、膨大な魔力を消費する。 供給しながら変換するというのは途方もない技術と魔力を要する。
もし、半端な者が異種による回復魔術を行おうとしたら?
最悪、両方とも行き倒れになる。
だからこそ、異種による回復魔術は禁忌とされる魔術であり、その道を志す者なら最初に教わる事だ。
「クソッ!!」
何を言おうが、どうにもならないのは分かっている。 頭でも理解している。
だが、こう悪態をつかなければ、気持ちが落ち着かない。
急いで、怪我人のレナードを揺らしてはいけないとは分かっているとはいえ、焦りで足が急いてしまう。
ちらりと、レナードを見る。 意識が朦朧としていて、目が生気がない。
誰が見ても、一刻も猶予がないのが一目瞭然だ。
……分かっている。 分かっているとも。 この状況を生み出したのは私だ。
あの時、私がレナードに説明していれば。 あの時、私が怒らずにフォクシーにこの世界のことを伝えていたら。
後悔したところでもう遅い。 最愛の愛弟子の命の炎は、私の腕の中で消えかかっている。
「済まない……っ!! 本当に済まない……っ!!」
涙が頬を伝う。 視界が霞むが知ったことか。
すると、玄関が見えた。 その近くでフォクシーが心配そうに待っていた。
「出る準備は出来ているわ。 エンジンも既に点けてある」
私は軽く頷く。 そして、乗ってきた車に駆け寄った。
フォクシーが既に脱出の為に車を動かしてくれたらしい。 すぐに出れるよう、出口に車体が向いている。
私は後部座席にレナードを乗せた。 それに寄り添うようにフォクシーも同じく後部座席に座る。
「私の工房に医療器具がある。 それまで、レナードを頼む!!」
フォクシーも頷く。 それを確認しながら私はエンジンを吹かす。
……若干焦げ臭い。 悲鳴のように甲高い音を発しながら、ボンネットから白い煙が出ているのも見える。
恐らく、さきほど突っ込んだ際にエンジンにダメージを負ったのだろう。 まだ走れるようだが、壊れる寸前なのは確か。
だが、それがどうした。 まだ走れるならそれでいい。
確かめるように、もう一度アクセルを吹かす。 すると、私の感情に呼応するかのようにいつもの音でエンジンが回り始めた。
「行くぞッ!! 飛ばすからつかまってろッ!!」
目一杯アクセルを踏む。 ガクンと横の重力を感じたかと思うと急激に加速する。
これならいける。 そう確信すると、私はギュッとハンドルを握りしめ、二階から黒煙を吹き出す病院を後にした。




