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6話 取り敢えず行動しよう

 「これは……ある意味才能っすね…」


 ようやく口を開いたリッキスの第一声がそれだった。


 分かってるよ!可哀想な奴を見るように俺を見ないでくれ!


 「……家を建てる前に、練習はする」

 「ぼ、僕も手伝いますよ!」

 「……」

 「?」


 黙ってリッキスを見ると、彼は不思議そうに首を傾げた。


 「こんな仮屋を見ても、まだ一緒に住みたいと思うのか?」

 「?もちろんっすよ。兄貴こそ良いんすか?こんな森に住んでも…」

 「俺は元々決めてたからな」

 「そうですか!なら問題ないっす!一緒に頑張りましょう!」


 そう言って親指を立てるリッキスを見て俺は、こういうのもありかもなと思った。






 ここでは公爵家という肩書きはなく、自然に囲まれた中、ただのフィンスという一個人としてリッキスは見てくれている。

 人付き合いは苦手だったが、それは相手が俺をただの高位の公爵家に属している者としてしか見ていなかったからで、人と付き合うのが嫌いな訳ではなかった。

 この何とも言い難い居心地の良さに俺は思いっきり伸びをする。


 「じゃあ、作り直すか!」


 この仮屋は1人用に作った物で、2人でも入れない事はないが少し狭くなる。


 「兄貴!どうせなら仮屋でも立派にしましょうよ!」


 うん。本邸を建てるのに急ぐ必要もないし、練習にもなるだろうしな。

 俺は頷いた。


 「そうしようか」


 そうと決まれば──。

 風魔法を使って歪な仮屋を綺麗に解体した。


 「ふぇっ⁉︎兄貴、魔法も使えたんっすか⁉︎」

 「ん?ああ。どっちかって言うと俺は剣より魔法の方が得意だからな」

 「え!嘘っ!魔物を剣で一撃で倒してたくせに?」

 「あいつらは弱いからな。剣で十分だ」

 「……」


 何故か固まってしまったリッキスを尻目に俺は独りごちる。


 「立派にするなら木材が足りないか…。うーん…ここら辺のを新たに切っても良いが、あんまり切り過ぎると色々と面倒な事になっても嫌だしなぁ…」


 見た目とか…。環境破壊になってもまずいし…。でもそんな早々に環境破壊なんてならないか。ここは森で、切るのは自分の家を建てる辺りだけだし。いやいや、そんな考え方が環境破壊を進めるのだ。十分に注意しないと。

 まぁ、そこを畑やらにしたら問題なさそうだが…。


 だが、やはり色々な所から木を集めるべきだろう。一箇所を集中して全部切ってしまうと、後々再生するのが大変だし、その辺色々な所から貰ってくると、生き残った木が更に成長出来ると聞いた事がある。

 よし、そうしよう。

 そうと決まれば早速出掛けるか。いや、もう日も暮れかけてるし、出掛けるのは明日からだな。


「リッキス、明日から仮屋の木材を探しに森のあちこちへ行ってみようと思う」

 「了解っす!──じゃあ、今日はここで寝るんすか?」

 「あぁ。そうなるな」

 「なら別に今この仮屋を壊さなくても良かったんじゃ……」

 「あ……」







* * *






 そして翌朝。手荷物も特にこれと言った物はなかったので、朝食を食べて即行動する事になった。


 昨日?もちろん野宿だ。

 リッキスも嫌じゃないと言ってたし、俺も今までの旅で慣れてたので苦にはならなかった。


 「すぐここに戻って来るんすか?」

 「そうだな…。数ヶ月はゆっくり森を探索しながら旅をしようと思う。別の場所で良い場所があればそこにしても良いし。嫌か?」


 今回の目的は実は木材だけじゃない。他にもっと良い場所があればここでは無く、そこに引っ越そうと言う魂胆だ。

 まだ、家も建ててない段階で引っ越すと言うのはどうかと思うが…。



 「まさか!楽しみっすよ!」

 「じゃあ行くか!」

 「おーっ!」


 片手を突き上げ元気に返事をするリッキスを見て、まるで無邪気な子供と一緒にいるようで自然と顔がほころんだ。

 そして、俺達は2人で家を建てる為の新たな旅に出たのだった。






* * *






 時は遡り、フィンスとリッキスが出会う2週間前。

 キスツの森とアギール王国に隣接した王国、ザブベン王国の森の奥で、2つの家族が仲良く暮らしていた。

 リュレイン一家とキレイン一家である。

 数十年前までは小さな村で暮らしていたのだが、ある事情から人目を避けるようにここへ移り住んだのだ。


 2つの家族はとても仲が良く、中でも長女たちは大の仲良しで、よく2人で行動する事が多い。


 今日も2人は普段通り、夕食用の山菜を採りに朝から出掛けて行った。


 ──この後何が起こるとも知らずに……。






 「セリア!あそこ!あっちに黄金キノコが生えてるよ!」

 「えっ⁉︎」


 高い木の上に登っていた金髪の少女はある方向を指差して、地面にいるもう一人の銀髪の少女にそう教える。

 セリアと呼ばれた銀髪の少女は目を輝かせて、その指された方向へ走り出そうとするが、


 「あ!待って!私も行くから!」


 そう呼び止められて上を見上げると、ひらりとスカートを翻して飛び降りてくる親友、スーシャの姿が見えた。

 普通の人が飛び降りれば、最低でも骨折は避けられないであろう高さを、スーシャは難なく音もさせずに着地する。


 「さ、行こ!」

 「うんっ!」



 「そぉっと、そぉーっとだよ、セリア」

 「うん、分かってるよ」


 セリアは人一倍、いや何倍も慎重に木の根元に生えたキノコを摘み上げる。


 黄金キノコは一見普通のキノコだが、目に見える黄金の菌が辺りに振りまかれていて、それが普通のキノコとは別物だという見分け方だ。

 滅多に見る事はなく、食べる事が出来れば一生幸せに暮らしていけるだろうとも言われている幻の食料だ。

 形を崩す事なく収穫し終えたセリアを見て、スーシャは微笑んだ。


 「よく出来ました!今日の夕食は豪華だよ!」

 「うんっ!」


 キノコの他にも、木の実や山菜をある程度収穫し、2人は家に戻る事にした。





 ご機嫌で山菜摘みから戻って来た時に2人が見た光景。


 それは──、綺麗に耕していた畑はグチャグチャになり、整頓されていた家の中はめちゃくちゃに荒らされていて、あちこちに大量の血だまりや血痕があった。

 そして、いつもは笑って迎えてくれる両親達の姿が見えない。


 訳が分からず呆然としていると、


 「いたぞ!生き残りだ!」

 「捕まえろ!」


 という2人には全く聞き覚えの無い男達の声が聞こえた。


 慌てて2人は声のする方を見ると、数人の男達がこちらへと向かって走って来る。

 その手には剣や斧、そして縄まであった。


 「っ!──セリア、行くよっ!」

 「でもっ!父さん達がっ─!」

 「皆んなで約束したでしょ!あの場所に逃げるの!私だって、ケヤフ達の事は心配だよ!でもっ!行かなきゃ捕まっちゃう!!!」

 「──っ!スーシャ…。分かった、行こう!」


 男達が持ってる武器と周りの血痕を見れば、捕まればどうなるかは2人の目には明白だった。

 逃げ切れれば、両親達を助ける事が出来るかもしれない。生きていればの話だが……。だが、その僅かな希望に縋って、2人は約束の場所へと駆け出した。






 「──ここが……。本当にここに入るんだよね?」

 「うん…。ここが約束の場所だから。絶対に見つからないはずだって言ってた…」


 武器を持った男達を撒いた2人の目の前には、更に深くなった森が広がっていた。

 そこは何となく、入りたくないような雰囲気を放っていて、思わず2人共立ち止まってしまう。




 「良いかい?セリア、スーシャ、──ケヤフも聞きなさい。もしも私達に何かあった時や、何かの理由でここに居られなくなって、その時私達が一緒にいない時は…約束しよう。キスツの森で落ち合うと。──そして、必ずそこで生き延びててくれ。お前達なら大丈夫だと信じてるよ」


 新しい場所に越して来て日は浅く、まだ彼女達が幼かった頃、スーシャとケヤフの父親は彼女達に向かってそう言った。


 「キスツの森…?」

 「ああ。そうだ。場所はいつも言ってるから分かるよな?いつもは入ってはいけないと言ってたあの場所だ」

 「入ってもいいの?」

 「もしもの時の緊急時だけだ。良いね?」

 「はぁ〜い!ね!おねえちゃんたち!はやくあそぼ!」


 あの時は弟のケヤフの元気一杯の声で皆んなが笑って、詳しい事を聞く事はなかった。本人はそんな話に興味はなく、早く遊びたかっただけのようだったが。





 そして2人の目の前に広がるのは、その時に約束した場所。キスツの森だ。


 こんな事になるんなら、もっと詳しく聞いておくんだったと後悔するスーシャだが、もう遅い。あの時はまさかこんな事になるなんて想像もしていなかったのだから。


 2人が大きくなるにつれて、ここの噂がとんでもないものだという事が分かった。

 噂では、死の森や自殺の森、怨霊の森などと呼ばれており、この中ではとんでもなく強い魔物が現れるだとか、一度入ったら二度と生きて出る事は出来ないなど、とんでもない噂ばかりだったのだ。

 因みにこの情報は、衣服などを仕入れる為に行った町などでたまたま聞いたものである。


 そして、村人達は最後には必ず口を揃えてこう言うのだった。


 「あそこには絶対入らないことさ。死にたくなければ、ね」







 スーシャとセリアは顔を見合わせる。そしてお互い頷き合い、手を繋ぎ、意を決して森の中へと入って行った。



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