5話 少し考えよう
何故だ?何故こうなった?
出来上がった仮屋は歪としか言いようのないものだった。
簡単に作ったのは俺がそうしたんだから分かる。だが、どうしてこうなった?
もう1度考え直そう。
まず、木を切るところ。あそこは完璧と言っても良い出来だった。魔法を使って木を切り倒した後、4本の柱と適当な大きさの板を木を無駄にする事なく作り出した。
板も目立って歪な所はなく、街で商品にして販売出来るんじゃないかと思うくらいの出来前だった。
次。柱を支える為に、土魔法で地面に穴を掘った。これも柱もすっぽりとはまって、完璧だった様に思う。
柱を立ててから更に土魔法で周りを固めたから、倒れる心配のない丈夫な出来になっていたはずだ。
そうして、板で屋根を付け、壁を取り付けていった。
──そして気付いたらこうなった。
これってどう考えても組み立てた時が原因じゃないか?
だとしたら、どんだけセンス無いんだよ俺…。
これでは先が思いやられる……。
ハァ。
こういう時は気分転換だ。散歩に行こう。
俺は一旦現実から目を逸らして、気分転換という名の逃避の旅に出た。
気づけば空は夕闇に染まろうとしていていて、風に吹かれて揺れる木々は俺を嘲笑うかのようだ。
森の中なので、街にいた時より体感温度も下がっている。
明かりはもちろん無いが、そこら辺は魔法があるのでなんとかなる。
ほんと、便利だよな魔法って。
辺りが闇に包まれても、中々帰る気にはなれず、その場で適当な大きさの木に登って月を見上げる。
今夜は新月だ。
この世界にも月はあるんだなぁと、何だか感慨深い気分になる。地球とは違って月は離れた位置に2つあるけど。しかもどちらも全く同じ周期で満ち欠けするのだ。地球にいた俺からすれば不思議で仕方ない。
木にもたれかかり、目を閉じる。
静かだ。自然の音しかしない。それがまた心地良い。
俺はそのまま眠りの世界に落ちていった。
* * *
朝。思いっきり森の空気を吸い込んで、深呼吸。そして木から飛び降りる。
街で少し買い溜めてあった食料を空間収納から取り出し食べ終えると、歩き出した。
昨日建てた仮屋の場所が分からない!なんてバカな事は無い。
森の中で同じような光景だが、ちゃんと場所は覚えている。
今日は少し森の中を探検する事にしただけだ。
決して昨日の仮屋の件で落ち込んでいるとかではない。
家を本格的に建てるには何とかしなくてはならないとは思うが…。今は取り敢えず目ぼしい材料がないかを探しに行くのである。
そうして探した結果。
特にこれと言った物はなく、変わりに大量のキノコを見つけた。もちろん食用である。
キノコについては、昔から森で暮らそうと思っていたので、詳しく勉強していたお陰で食用か、そうでないかを簡単に見分ける事が出来た。
今夜はキノコ汁だな。などと暢気な事を考えながら、襲ってきた魔物を斬り捨てる。
「なっ!?」
…………?
今、声が聞こえた…?
振り返ると、そこには俺と同じ歳くらいか少し歳下の、緑髪碧眼の少年が呆然と立っていた。
???
何でこんなとこに人がいるんだ?
この森は人が入らない事で有名じゃなかったっけ?
まぁ、俺が言えた事では無いんだけど。
という事は自殺か?兄上達に負けず劣らずの綺麗な顔をしているのに勿体無い。
「……お前…ここで何してるんだ?」
先に口を開いたのは、少年だった。
何をしてるか、だって?それはもちろん、
「材料探し」
「──は?」
「いや…少し違うか……。今日は食料探しになったからな」
「……。──いや、僕はこの森で何をしてたのか聞きたいんだ。自殺しようとして来たのかと思えば、魔物を一撃で倒すし…」
おお。相手も俺と同じ事を考えてたのか。そりゃそうか。噂だけを聞けば物騒な森だもんな。
魔物は激弱だけど。
それよりも俺がこの森に来た理由?そんなの決まってるじゃないか。
「家を建てに」
そう言った途端、少年は俺がそう言うのは予想外だったのかポカンとした。
少し沈黙が流れるが、またもや先に口を開いたのは少年だった。
「……そ、それって………」
俺はその意味を理解して頷く。
「ここに住んで、自給自足の生活を送る」
少年はパチクリと瞬きをした後、顔を輝かせバッと勢いよく頭を下げてこう言った。
「兄貴と呼ばせて下さいっ!」
「──は?」
今度は俺が呆然とする番だった。
* * *
少年から話を聞くと、彼はこの森に自殺しに来たのではなく、ただの通りすがりの旅人だそうだ。彼に言わせると、
「自殺?フン、馬鹿馬鹿しい。やるにしてもわざわざこの森に来てまで自殺しないでほしいっす。全く。ほんと迷惑な話っすね」
──だそうだ。
だが、迷惑な話って。旅人の彼には関係ないような気もするが…。
「それよりも、その格好で旅人…か?」
少年の姿は、街で見た旅をしてる人とはまた違う、見た事のない格好をしていて、荷物はと言うと剣が一本だけだ。
服装が旅人って感じではないし、旅人ってもっと荷物が沢山あるものじゃないのだろうか?
もしかすると空間収納を使えるのかもしれない。
「え、そ、それは色々あったんすよ!そう!──ああ!そうだ!自己紹介を忘れてましたね!僕はリッキス・ノモって言います」
あれ?空間収納は使えないっぽいか?
まぁ、彼が言った通り色々あるんだろう。
「俺はフィンス=ハーゲンだ」
「よろしくお願いしますっ!フィンス兄貴!」
「──ああ。よろしく?」
笑顔で差し出された手を握り返した。
「──で?何で俺について来るんだ?」
「さっきよろしくって言ったじゃないっすか!」
「ああ。言ったな。だがあれはたまたま会っただけの普通の挨拶だろう?」
「違いますよ!あれは僕が兄貴について行くっていう意思表示っす!兄貴も了承してくれたじゃないっすか!」
あれか。あの握手だな。
「だが、君は旅人なんだろう?」
「旅人は自由なんすよ!僕は兄貴について行きます!という事で、兄貴と一緒に暮らします!」
「どういう理屈だ!?」
良いでしょ?と言わんばかりに顔を輝かせているリッキスを見て、俺はしばし考える。
本当なら1人で気兼ねなく生活していこうと思っていたが、1人っきりというのも中々寂しくなるかもしれない。
──まぁ良いか。何より本人がそう希望してるし。
あわよくば、彼の手が器用なら何も言う事はない。
…断じてそっちが目当てという訳ではない!
不器用だって何とかなるはずだ!多分…。
俺はリッキスに向かって頷いた。だが、これだけは言っておかないと。
「──ただ、俺が建てた仮屋を見て引くんじゃないぞ?」
「了解っす!」
そして、リッキスを仮屋の前まで連れてきた訳だが……。
彼は絶句していた。
やっぱ連れてくるんじゃなかったかな…。
心のどこかでそう思ってしまう自分がいた。