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31話 移動しよう

 アギール王国からザブベン王国までは、馬を使ったとしても1日で辿り着ける訳ではない。

 道なりで着くとは言え、途中に幾つかの村を通らなければならないのだ。


 毎回日が沈む前に村へ辿り着けるかと言うと、そうでもない。

 途中で野営するのが通常となっている。

 そして、近くを移動していた知らない者同士で一緒に固まり、一晩を共にするという事も珍しい事ではなかった。

 これは、休んでいる間に魔物に襲われないようにする対策でもある。

 人が多ければ見張り番の時間も短くて済むし、もし襲われたとしても、大勢いれば少々強い魔物であったとしてもなんとかなる事があるからだ。


 そろそろ夕日が地平線に沈もうとした頃、荷馬車に乗せてくれた農家の夫婦と共にフィンス達は、道の端により野営の準備を始めていた。


 「野菜しか出せなくて申し訳ないが勘弁しておくれよ」

 「いえ、滅相もないです。乗せてもらってるのは俺達の方なんで、食材はこちらで出させて下さい」

 「そんな若いもんが遠慮しなさんな。野菜だって十分栄養になるはずさね。しっかりお食べよ」

 「ありがとうございます!」


 元気に答えたのはフィンスではなく、スーシャであった。

 ジト目でセリアがスーシャを見るが、スーシャは今にもよだれを垂らしそうな表情で言い訳する。


 「だって…このお野菜、とっても美味しそうなんだもん」

 「仕方ないな…。ありがたくご馳走になります。ただ、肉類はこちらに任せて貰えませんか?」

 「まぁ、私達も肉があると嬉しいけどねぇ…。持ってるのかい?」


 そうは見えないけど…。と不思議そうに奥さんが首を傾げる。

 実際、空間収納に肉は幾つか入っているが、それを出すつもりはフィンスにはない。

 お世話になってるのだ。空間収納でいくら劣化しないとは言え、気分的にも新鮮な肉の方が良いだろう。

 それに、空間収納はあまり見せない方が良いだろうし。

 フィンスが肉を調達しに行こうと立ち上がった時、セリアがフィンスの意図を察したのか勢い良く手を挙げた。


 「あ!私が行くわ!言い出しっぺだし」

 「そうか、じゃあ、任せて良いか?」

 「ええ、勿論よ!任せて!とびっきり大きいの捕まえてくる!」

 「え、捕まえるって…今からかい?それならいいよ。ここに居なさい。この辺、夜は危ないのよ?」

 「大丈夫よ、奥さん!ちょっと待っててね!」


 奥さんの返事も聞かずに森へ飛び込むスーシャ。

 その行動に奥さんとご主人はビックリ仰天したようで、悲鳴に似た声を上げる。


 「ちょっと待ちなさいっ!」

 「そっちはキスツの森に隣接しているのよ⁉︎死んじゃうわ!」


 と言っても、既に走り去ったスーシャに届く訳もなく帰ってくる事はない。


 「ちょっと!あんたらも何で止めてあげないの⁉︎」

 「まぁまぁ、奥さん。落ち着いて下さいよ。スーシャなら大丈夫っすから」

 「フィンス達には敵わないけど、スーシャは十分強いんですよ!」

 「お嬢ちゃんまで…!強いったって、もしあのキスツの森へ入ってしまったら、二度と出てくる事は出来ないって話をよく聞くよ!無事で済むもんかい!早く連れ戻さなくちゃ!」


 セリアの後を追って、森へ入ろうとする奥さんをフィンスが引き止める。


 「スーシャなら、もしキスツの森に入ったとしても全く問題ないですから」


 おそらく、いや確実にキスツの森に行ってるだろうな。あそこにいる魔物の肉や動物の肉は、本当に柔らかく美味しいから。


 「何が問題ないだって⁉︎あんたら、キスツの森の恐ろしさを知らないからそう言えるのさ!」


 いえ、知ってると言うかあそこに住んでます。とは言い難い。


 数十分押し問答した後、俺達3人の内1人がスーシャを追いかけるという事で落ち着いた。


 初めは奥さんが追いかけると言って聞かなかったが、奥さんが追いかけたとしてもスーシャには絶対に追いつかないだろうし、森にいる魔物と遭遇してしまったら1人で戦って勝てるとは思えない。

 それなら3人で追いかけて欲しいと言われたが、ここまで親切で荷馬車に乗せてくれた夫婦2人を置いて行ける訳がない。


 と言うか、そもそもスーシャなら追いかけずとも無事なのだ。

 この1ヶ月は鍛えながらキスツの森で過ごしたのだから。


 「じゃあ、私が行きます」

 「ダメだよっ!女の子が女の子を追いかけてどうするのさ!ここは男2人に任せるもんだよ」

 「私でも大丈夫だと思うのですが…」

 「ダメ!」

 「はい……」

 「じゃあ、俺が──」

 「兄貴!俺が行って来ます!」


 フィンスが言おうとした事を横取りして、森に飛び込む様に入るリッキス。


 ……逃げたな。






* * *






 魔物が襲って来ないか警戒しつつ野営の準備をしていると、2人は魔物から落ちたであろう肉を両腕に抱えて戻って来た。


 「たっだいま〜!」

 「お帰り、スーシャ!どうだった?」

 「見ての通り、上々よ!やっぱ肉はキスツの森にいる魔物に限るよ──むぐっ⁉︎」

 「!それは秘密だって言ったっすよね⁉︎」


 リッキスがすぐにスーシャの口を塞ぐが…。


 「キスツの森…?」


 火の番をしていた奥さんは聞こえた様で顔を上げる。

 物凄い地獄耳だ。


 「いえっ!何も無いんっすよ!ほら、これが狩ってきたお肉っす!是非奥さんに調理して貰いたいなぁーなんて……あははは……」


 乾いた笑いを漏らしながら、リッキスがお肉を差し出す。

 奥さんはそれを受け取り目を輝かせた。


 「こんな綺麗なお肉を見たのはいつ振りかねぇ〜!腕がなるよ!」


 嬉々として調理を始めた奥さんに、俺達はホッと胸を撫で下ろした。





 やがて辺りは夕闇に染まり、俺達は焚き火を囲んで食事をとっていた。


 「それにしても、何だってザブベン王国に行こうとしてんだい?あんたら、そこの出身じゃないだろう?今あの国は荒れてるよ。まだアギール王国にいる方がマシだと思うけどねぇ…」

 「大切な人達を…家族を取り返しに行くんです」

 「…そうだったのかい。そりゃ悪い事を聞いてしまったね」

 「良いんです。終わったら、皆んなで家に帰るんです」

 「そりゃあ良いね!でも…出来るのかい?その……言っちゃ何だが、捕まってるんだろう?」

 「そこは無理やりにでも攫って逃げるつもりだ」

 「そうかい…。気を付けなよ?」

 「はいっ!あの、奥さん達は…?」

 「あそこが故郷なんだよ。嫌でも帰る場所はあそこだからね」

 「そう、ですか…」

 「そう暗い顔しなさんなって。私らの所なんかは子供がいないから、ちょっと税を多く取られる程度さ。他に比べたら大分マシさね」

 「そんなもんっすかね…?──ん?馬…?」


 リッキスの言葉に皆んなが食事する手を止めて、馬が走って来る音の方を見る。

 奥さん達に見つからない様に、煉椰にご飯を分けてたフィンスも首を傾げる。


 この時間帯、辺りではポツポツと焚き火を囲む旅人や商人の姿は確認出来るが、馬を走らせている者は1人もいない。皆が皆、夜に移動するのは危ないと知っているから、夜はある程度固まって野宿するのだ。その中で馬を走らせているという事は余程急いでる者だけだろう。

 だが、その集団…3人は、人がいる辺りになるとスピードを落としてふらふらとあちこちにいる旅人や商人の近くを通った後、こちらへ向かってきた。


 「すみません、今夜一晩ご一緒させて頂けませんか?」

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