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3話 森へ行く為の下準備をしよう

 「クラン?」

 「そうだ」


 バンナと名乗った男は頷く。


 「俺たちは新人教育を目的としたクランに入ってるんだ。たった一年だけでも良い。『冒険の雛鳥』に入らねぇか?」

 「たった一年だけでも良いって…。それはお前達にとって何の特にもならない様な気がするんだが……」

 「言っただろう。新人教育を目的としたクランだって。俺たちのクランは新人を育てる為に作られたクランなんだ。──そりゃあ、出来るなら一年とは言わず、ずっと入っててくれた方がありがてぇよ。だが、一年だけでも後に成長したって姿を見せてくれるだけで育てた甲斐があるってもんよ。そいつらがこのクランを宣伝してくれるとうちの評価も上がるしな。それで良い仕事が入ってきたら尚更ラッキーってとこだな」

 「──そうか。誘ってくれたのはありがたいが、俺はやめとくわ。悪いな」

 「そりゃあ残念だ。だが、困ったらいつ来ても良いんだぜ!俺たちは新人を助ける『冒険の雛鳥』の親鳥的な存在だからよ!」


 その言い方に俺は思わず笑みをこぼす。


 「あぁ。ありがとな」


 その時は頼りにしてる、そう言い残して俺はギルドを出ようとした時、また誰かに遮られた。


 「おいおいおいおい、きれーな顔立ちしてる兄ちゃんよぉー。おめーみてぇな金持ちの小間使いごときが冒険者になれると思ってんのかぁー?」

 「……は?」


 この人…何故か分からないが、俺の事を完全に金持ちの小間使いだと思い込んでやがる…。

 しかも俺の顔が綺麗…だと?どう考えても俺は平凡な顔立ちだ。兄上とマイアスの方がよっぽど綺麗な顔立ちをしている。


 「俺たちが冒険者を教えてやんよぉー」


 男達が気味の悪い笑みを浮かべる。今度は良心的な人達では無さそうだ。

 人数は5人か。余裕だろう。

 俺が了承の意を示そうとした時、横から声が掛かった。


 「ちょっと待ったー!」

 「?──なんだ。冒険の雛鳥のバンナじゃあ、ないかぁ?今日も生真面目に新人育てかい?」


 俺に親切にしてくれた人達を馬鹿にした様に笑う奴等に、俺は少し苛ついた。

 バンナの一歩後ろにいるズーモ、ニック、ギラハも奴等を睨み付けている。


 「お前さんこそ新人潰しで有名なガイルじゃねぇか。そんな奴にこいつはやれねぇな」

 「だが、お前んとこのクランにゃ入ってねぇんだろ?だったら関係ないだろ」

 「それはそうだが、みすみすお前らに渡す訳にはいかねぇ」

 「新人育てしか出来ねぇ、よえー奴等は引っ込んでろ。魔物に殺されるより、俺らに半殺しにされた方が将来が開けるってもんだろぉ?」


 おいおいおい……。黙って聞いてれば、さっきから物騒だな。

 新人潰しで半殺しとか、冗談じゃない!

 面倒な事には巻き込まれたくないし。早くお金を貯めて家を建てる場所を探しに行きたい。

 よし、通して貰おう。


 「すいません。俺、もう行きますね」


 小さい頃から培ってきた丁寧な物言いでわざとそう言って、さらーっと横を通り抜けようとしたのを腕を掴まれ阻止される。


 「ちょっと待ちなぁー。まだ話は終わってねぇよ?」


 まぁ、そりゃそうだろうな。簡単に逃がしてくれる訳ないよなー。


 「俺たちがお前の実力を見てやるよぉ〜。表ぇー出な」

 「だから!やめろって言って「良いよ、バンナ」


 俺は途中でバンナの言葉を遮った。


 「外に出たら良いんだろ?さっさと済ませよう」






 ギルドの庭の様な所で向かい合って立つ。面白そうだとギルドの中で聞いてた奴らが外に出て来てギャラリーと化していた。


 「おい!さっさと剣を抜きやがれぇ!」

 「必要ない」

 「なんだとぉ!!!」


 ガイルが俺に向かって叫ぶが、俺は冷静に答える。

 相手には失礼だろうが、あんな弱そうな奴に負けるとは思えないからな。

 どうせやるんならさっさと終わらせてしまおう。そう思い、ガイルの後ろでニヤニヤしている奴らにも声を掛ける。


 「お前らはやらないのか?」

 「な!!!?」

 「おい!フィンス!やめとけよ!武器も持たねぇで!」

 「そうだ!やめといた方が身の為だ!」


 バンナと周りにいた誰かが制止の声を上げる。だが、俺はやめる気は一切ない。

 そして、1番初めに驚いていたガイルが次第に憤怒の表情になっていく。


 「──っはっははっ…。もう遅い。俺を怒らせたぁ。おめぇら来い。──2度と外に出られない様にしてやる」






 数分後、地面に転がっていたのはガイルとその仲間たちだった。


 「やっぱ大した事なかったな。もう良いだろ。俺は行くぜ」


 フィンスが出て行った後も、周囲にいた野次馬たちは、フィンスの早技に惚けていた。





* * *





 依頼は街付近に生存する簡単な魔物の退治ばかりだったので、すぐに終わった。


 ギルドに早速戻り、換金してもらう。その足で新たな依頼を受け、遂行し、再びギルドへ。




 依頼達成の早さに受付嬢は驚いていたが、そんな事をフィンスが知る由もない。






* * *






 魔物を剣で薙ぎ払う。すると魔物は水滴ととなって飛散し、地面へ消えていくのだ。

 その光景は見ているだけでも綺麗である。


 しかも、使える骨や角、食べる事が出来る肉塊などはそれだけが勝手に落ちてくれるので拾いやすい。


 だが、ただの動物となるとこうはいかない。水滴となるのはあくまで魔物だけなのだから不思議だ。




 街の外周で依頼をこなすべく、魔物を次々倒していると、街の方から手を振ってやって来る4人組の姿があった。バンナ達である。


 「やってるな!──それにしてもさっきのは凄かったな」

 「それほどでもないさ」

 「それほどでもないって事はないさ。あいつらは結構な実力者だったんだぜ。あの実力を見せられちゃ俺達でもお前にゃ負けるかもな」

 「それは…どうだろうな」


 正直言ってこの4人で一斉にかかってこられても、勝てる気がする。慢心だろうか。


 「親分じゃ顔で負けてるのに、力でも負けたらお終いっすね!」

 「うっせぇ!」


 ガンッとズーモの頭に拳骨を落とす。…痛そうだ。


 「それはそうと、フィンス、お前魔物のランクって知ってるか?」

 「…?知らないな」

 「そうか。なら教えといてやる。魔物には名前が付いてない。その代わり、ランクで大雑把に分けられてるんだ。そのランクは冒険者と大体同じだ。ただ、自分と同じランクだったら、五分五分かそれ以上の強さだと見とけ。Fランクの内はそうでもないが、上のランク程馬鹿みたいな強さになるからな」

 「分かった」

 「俺達はこれからちょっと遠くまで依頼なんだ。お前もあんま無理はするなよ」


 どうやらこれを説明する為にわざわざ声を掛けてくれたらしい。優しい人達だ。


 「ああ。ありがとな。バンナ達も気を付けて」

 「あぁ。また会おうぜ!」

 「じゃーな!」

 「しっかりやれよ!」

 「またな」


 4人と別れた後、ふと疑問に思う。

 ……魔物のランクってどうやって分かるんだ?






* * *






 3回の依頼を達成した報酬で、フィンスは近くの工房で工具を購入した。





 ちょうど昼過ぎになっていたので、昼食を食べてから街を出ようと、近くにあった小さなカフェに入る。


 「いらっしゃいませー!」


 髪を下で2つに結び、眼鏡をかけた女の子が笑顔で迎えてくれる。

 適当な席に座り、幾つかのメニューを注文した。


 少し古い建物の様だが、綺麗にされていてどこか落ち着ける雰囲気だった。

 料理が来るまで店を見回していると、フィンスはある貼り紙を発見した。



 ──情報、提供します。



 「お待たせ致しましたですー。──何か欲しい情報、ありますですか?」


 俺の目線の先にある張り紙を見て、さっきの店員がわざわざ聞いてきてくれた。


 「いや…少し気になって」

 「そうでございますですか。うちは沢山の情報を提供しておりますですよ。よければまた今度利用して下さいませです。有料ですけれどね」



 へぇ、情報…か。覚えておこう。必要な時もあるかもしれないからな。






 食事を終え、店を出たフィンスは森を目指して街を出た。






 約半年ほど散策していたキスツの森は、結構良い場所だった。

 死の森と呼ばれているからか、人があまり来ないようで、自然に溢れ空気も良く、綺麗な所だ。


 家を建てるならあそこらが良いだろう。


 という事で、フィンスはキスツの森を目指す。


 キスツの森までは、ここアギール王国から徒歩で約一月ほどかかる。

 それは、ここがアギール王国の中心部にあたる場所だからだ。




 アギール王国は2つの大きな街と周辺の小さな村々、そして戦争で手に入れた植民地から成り立っている。

 フィンスが住んでいたこちらは中心都市と呼ばれ、国王が住む街である。

 もう1つの大きな街は産業が発達しており、アギール王国のもう1つの心臓部とも呼ばれている。そこは都市プロペトという。



 この詳しい説明は置いておくとしよう。



 フィンスは約一月ほどかかる距離を魔法を使い、約1週間で走り抜けた。


 別に急ぐ旅でもなかったのだが、夢だった自分が建てる家の事を考えると、待ちきれなくなってついつい魔法まで使って走ってしまったのだ。





 そして、いよいよフィンスはキスツの森に足を踏み入れる。

 ゆったりとした生活を夢見るフィンスだが、波乱万丈な生活になっていく事など、この時はまだ知る由も無い事だった。

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