23話 アギール王国のギルド長に会おう
「あいつ、なんか嫌ーな感じね」
「そうだね」
「それにしても兄貴、なんか面倒な事になりましたね。つけられてるっすよ」
「はあ…。こんな事ならギルドカードを空間収納にしまっとくんだった…」
「あー、お腹空いたぁ。ねぇ、先にセリアと狩って来て良い?早く終わらしてご飯行きたい!」
「まぁ、スーシャの言う通りだしな。2人に任せる。だが、実力は隠せよ。後、依頼以外の魔物とは戦わない事」
「オッケー!」
「分かりました!」
「ね、セリア。あいつら撒いて行こ」
「うんっ!」
「じゃあ、また後で!」
走り去っていくスーシャとセリアを見送る。今横に居るのはリッキスだけだ。
「僕達はどうします?」
「つけてくる奴らを引き付けておこう。釘を刺したとは言え、セリアはともかく、スーシャがいつまで隠し通せるのか心配だ」
「了解っす!」
クロとシロは少し前から俺達とは少し距離を置いてついて来ている。
距離を置いているのはつけて来ている奴らを警戒しての事なのだろう。恐らくタイミング良く料理を注文した時にでも紛れ込んで来るはずだと考え、俺は先程あった事を思い返す。
* * *
受付嬢の人が急いで2階に上がってから、少し待って降りて来たのは、先程とは違う女性だった。
「フィンスさんですね?」
「はい」
「お待たせ致しました。魔物の討伐報酬の件でギルド長がお呼びです。一緒に来て下さい」
有無を言わせない言い方に俺は渋々頷く。
「兄貴、僕達は適当にそこらで待ってますね」
「あ、ご一緒の皆様も一緒に来る様にとの事です」
「…彼らもですか?」
「はい。そう仰せつかっております」
「そうですか」
ふと、クロとシロの姿が見えない事に気付いたが、足元にいた2匹の事は見てないかもしれないと思い黙っておく。
「いやー、初めまして。フィンスさんですね?私、ここアギール王国ギルド支部のギルド長を任せて頂いております、イズニと申します」
「初めまして。フィンスです」
「いやぁー、Sランクの魔物を倒したと聞いたので、どんな屈強なお方だろうかと想像していましたが、まさかこんなイケメンだとは!戦ってるところなど全く想像出来ませんなぁ!はっはっはっ!」
遠回しに本当は弱いんだろうみたいなバカにした言い草に、ちょっとイラッとしたが俺は笑って誤魔化した。
「後ろの方々はパーティで?ささっ、皆さんお入りになって下さいな」
ギルド長に促されるまま足を踏み入れたのは、ギルド長室。
案内してくれた人は静かに部屋を出て行った。
「──ほう!ではパーティのお仲間さんはたった今ギルド登録されたばかりだと!それでは実力が分かりませんなぁ!実に残念だ。そう言えば、フィンスさんのギルドカードを確認させて頂きましたよ!強い魔物ばかりを相手にされていたようだ。一体どこに行ったらそんな強い魔物ばかりと戦えるのかぜひお聞かせ願いたい!最近では街が整備され警備隊が周囲を警戒してるので、滅多な事ではCランクの魔物も街の側まで寄り付かなくなっていますし。しかも、Fランクの内にSランクの魔物を倒したと記録にありました!どうです?昇級試験受けてみません?飛び級で一気にAランクでもいかがですかな?」
1人で弾丸のように喋る小太りのおっさ…イズニさん。
質問の一つ一つに丁寧に答えると面倒な事になりそうなので、取り敢えず一つだけ答える事にした。
「昇級試験は結構です。別に称号が欲しくてギルドに入った訳ではありませんし」
「ほう!では何故?」
「お恥ずかしい話、お金の為ですよ。ギルドに入った時は無一文だったもので」
「ならば、尚の事昇級試験を推奨しますよ!受けられる依頼の数も、受け取る金額も大幅に増えます」
「いえ、最低限生活出来るだけあれば充分ですから」
ニコニコと笑い合う俺とギルド長。
「…何だか2人の後ろに真っ黒なオーラが見えるわ…」
「そうだね…」
聞こえないように言ってるつもりかもしれないが、俺にははっきり聞こえてるぞ2人共。
「ですが、我々ギルドの方もSランクを倒せる冒険者を放って置く訳にはいかないんですよ。何かあった時は、皆んなで協力せねばならない事もあります。分かるでしょう?ま、そもそもギルドカードに偽装を施してなければの話ですがね!はっはっはっ!」
…このおっさん嫌いだな。いっその事、偽装してる事にでもしてさっさとここから逃げるのもありか。
「それじゃあ、報酬は貰えませんね!要件は済みましたし俺達はこれで失礼します」
俺の意図を察したのか、全員が立ち上がる。
「あぁ、お待ち下さい!まだ報酬を渡していませんから!」
…は?何を言ってるんだ?
報酬を渡したくなくて、あんな事を言ってたんじゃないのか?
「いえ、結構ですよ。俺が倒したという証拠なんてないでしょう」
「何を仰いますか!その為のギルドカードでしょう?」
偽装だの言うと思えば、ギルドカードだから疑わないと。コロコロと意見を変えるギルド長の真意が分からない。
「……何が目的で?」
「なぁに、ただ、我が国に危機が訪れた時、協力して欲しいだけですよ」
「…危機とはどんな時です?」
何か嫌な予感がする。
「魔物が国を襲って来た時など、国が滅亡の危機にある時などにその敵を倒して欲しいのですよ」
国の危機。
…それは国同士の戦争にも参加しろと言っているように聞こえる。
アギール王国は領土を増やす為、積極的に戦争を仕掛けているというのを幼い頃、両親が密かに話しているのを聞いた事がある。
最終的には守るだけでなく、戦争に駆り出される可能性もありそうだ。
せっかく見つけた、俺達の森の中での静かな生活を壊す事なんてしたくない。絶対にお断りだ。
「お断りします。俺達はまだFランクです。そんな大それた事、出来る訳ありません」
「後ろの方々の実力は分かりませんが、あなたはSランク級の魔物を倒していらっしゃる。これは事実でしょう?」
「たまたま弱ってた所を見つけたんでしょう。運が良かったんです」
「…そうですか。──しかし、倒した事は事実。報酬をお渡ししましょう。こちらになります」
ガシャンと置かれた袋の中は、金貨がぎっしり詰まっていた。
「Sランクは一体でしたが、Aランクの魔物を中心に数多く倒していらっしゃいましたよね?350金貨が今回の報酬です」
あまりの金額の高さにしばし呆然とするが、気を取り直す。
「少ない額とお聞きしましたが…?」
「Sランク一体、Aランク、Bランクを山程倒してらっしゃったのです。このくらい当然でしょう」
「魔物のランクなんて分からないで戦っていたので、正直実感がありませんね」
「なんと!魔物のランクが分からないまま戦っていたのですか!それはすごい!」
あ、しまった。余計な事を言った。
「このギルド専属の冒険者になってみませんか?」
「お断りします。あと、これも受け取りませんから」
目の前に置かれた金貨を指す。
「それはいけませんよ。ギルドの決まりなんですから」
「いえ、結構です。俺達はこれで失礼します」
「──それでは、またお会いしましょう。それまでこれはお預かりしておきますね」
ギルド長を一瞥して俺達は部屋を出た。
フィンス達が部屋を出た後、ギルド長のイズニは彼専用の裏の部下を呼ぶ。
「あいつらは使える。周りの奴らは分からんが、フィンスという奴は相当な実力者だ。何としても仲間に引き入れて国王陛下に忠誠を誓わせるんだ。まずは、あいつらの情報を仕入れてくれ。接触しても構わん」
「はっ!」
こうして秘密裏に動き出したイズニの部下達。だが話は冒頭に戻り、早々に本人達に気付かれている事を彼らはまだ知らない。