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22話 街に入ろう

 「遅かったにゃ」

 「待ちくたびれみゃしたのみゃ」


 俺達に気付き、街の側で日向ぼっこをしていたクロ達が俺達に話しかけてきた。


 「悪いな」

 「流石、2人は早いっすね〜」

 「ここに来るのも久し振りだな」


 街の門前には、中に入ろうとする行商人や旅人で列が出来ていた。

 戻って来たのは3ヶ月ぶりくらいだろうか。


 実はこの街を訪れたのはネジの為だけではない。

 セリアとスーシャの家族についての情報を集める為でもあった。

 だがこれは本人達には知らせてなかった。

 彼女達には悪いが、手遅れの時はどうしようもないのだ。だが、もし生きているとなると、ある程度戦えるだけではすぐに2人共捕まってしまうだろう。

 そこで、短いがこの1ヶ月を訓練に費やした。


 元々の素質が良かったのか、2人共あっという間に魔物を瞬殺出来るような強さを手に入れたのだ。


 これなら大丈夫だろうと判断し、現在に至る。



 「やったぁ!私の勝ちだね、スーシャ!」

 「酷いよセリア!木を倒すなんてずるい!」


 森の中から勢い良く飛び出して来たのはセリア。その後を追ってすぐにスーシャが出て来た。その頭には赤い花が…。


 「最下位はスーシャっすか」


 リッキスがニヤニヤしている。


 「なっ、ちょっと不意打ち食らっただけだもん!」

 「ふーん?でも負けは負けっすよねー?」

 「分かってるわよ!フィンスー!リッキスが虐めてくるんですけど⁉︎どうにかして!」

 「え、俺に振るか?」

 「だってフィンスの言う事なら聞くじゃない!」

 「そんな八つ当たりされても…」

 「後もうちょっとだったのに…」


 項垂れるスーシャを横目に、セリアにこっそり聞いてみる。


 「最後はどうなってたんだ?」

 「実はゴールの直前まで私が鬼だったんです。でも最後の最後でスーシャが走ってた木を押し倒して、落ちてきたスーシャに鬼を返したんですよ」

 「あー。なるほど」


 セリアの説明に納得した俺。


 「早く行くにゃ。お腹空いたにゃ」

 「あぁ、そうだな」


 このゲームの間、食事は各自別々で好きな時に食べるようにし、この数週間、朝から晩までゲームを続けていた。

 おそらく、みんながまともな食事をせずにここまで来たのだろう。

 クロの言葉に、言い合ってたリッキスとスーシャ、ジッとしてたシロ、セリアも顔を上げた。


 「私もお腹空いたー!」

 「僕もっす!」

 「ワタシもみゃ!」

 「実は私も…」

 「じゃあ、さっさと街に入るか!」


 俺の言葉にみんなが笑顔で頷いた。






* * *






 街に入る列に並んでやっと俺達の番が来た。


 「身分証をお願いします」


 門番の人にそう言われ俺はギルドカードを提示するが、ふと気になって3人を見る。


 「…身分証持ってるか?」

 「持ってないっすー」


 1番に平然とリッキスが答えるが…。


 「お前、旅人じゃなかったのか?」

 「……」


 明後日の方を見て口笛を吹く真似をするリッキス。


 「…まぁ、良い。2人は?」

 「家にあると思うんだけど…」

 「あーなるほど。しょうがないな」

 「すみません…」

 「謝る事はないさ。仕方ない事だしな」


 確か身分証がなければお金を払えば良かったはず。


 公爵家の身分証を見せて、友人達だと言えば何も言わずに通してくれるだろうがそれはしなかった。

 権力に頼るのが嫌なのと、リッキス達には俺が育った国であるという事以外、何も言ってないからだ。


 門番に1人いくらか聞くと1銅貨との事だったので、ポケットから取り出したように見せかけ、空間収納から取り出して5銅貨渡した。その時、俺はある事実に気付いたが今は黙っておく事にした。

 ちなみにこの世界の通貨は、石貨、銅貨、銀貨、金貨となっている。

 大体ではあるが、1円が1石貨、100円が1銅貨、1000円が1銀貨、1万円が1金貨だ。


 「?なぜ5銅貨?」

 「こいつらも連れなんだ」


 そう言ってクロとシロを示すと門番は納得したように言う。


 「ああ。ペットの分は要りませんよ。3人分で大丈夫です」

 「そうか」


 門番が親切に返してくれた分はありがたく受け取り、中へ入った。


 「うわぁー!大っきい街!セリア!見て!人がいっぱい!」

 「本当だねー!すごい!」

 「本当に大きい街っすね」

 「あー、お腹空いたー」


 スーシャの言葉に、俺はさっき気付いた重大な事実を告白することにする。


 「すぐに飯屋へ行こうと言いたいとこなんだが……」

 「?」

 「残念ながら金がない」

 「「「え────っ!!!!!!」」」

 「にゃっ⁉︎」

 「みゃ───っ⁉︎」


 全員が項垂れる。


 「と言う事でまずはギルドに行こうと思う」

 「ギルドっすか?」

 「ああ。みんなの身分証も作れるし、依頼を受ければ少なくとも飯代くらいすぐに稼げるだろ」

 「なるほど!じゃあ行こう!今すぐに!」

 「スーシャ、焦り過ぎっすよ」

 「だってお腹空いたもん!早く終わらせてご飯!」

 「そっすね!兄貴!早く行きましょ!」

 「そうだな」






 そうしてやって来た久し振りのギルド。


 扉を開け中へ入ると、騒がしいはずのギルドがフィンス達一行を見て一瞬シンと静まり返った。

 そして徐々に騒がしさを取り戻す。

 だが主な内容は、今入ってきた一行についてだった。


 「おい、あのお嬢ちゃん達ベッピンさんじゃねーか」

 「誘うか?」

 「バカ。見てみろあの男達を。俺達じゃ無理だよ」

 「だよなー」

 「見てるだけで目の保養だ」

 「確かに」


 「きゃあ!あの緑髪の人カッコ良くない?」

 「いーえ!絶対に金髪のお方の方がカッコ良いって!」

 「俺はあの銀髪の女の子だなー。お前達よりも気品が溢れてる」

 「「何ですって⁉︎」」

 「何より胸もでか……」


 ゴスッ。男に遠慮のない2つの拳骨が落ちた。


 「まぁまぁ。落ち着きなって。俺は君らみたいな小さめの子も好きだよ。ほら、気の強そうな金髪の子も小さめじゃないか。でも美少女だよね。やっぱ美少女は良いよね」


 ゴスッ。もう1人の男の方にも2人から拳骨をもらう。


 「私、このパーティ抜けてあそこに入れてもらおうかしら」

 「ちょ!待ってくれ!君は俺達のパーティで唯一の魔法使いだ。居なくなったら困る!」

 「なら、私なら良いって言うのね」

 「君だって大事な仲間さ!何より仲間に女がいると、良い所を見せようと頑張る奴が多いしな。……こいつらのどこが良いんだか」

 「って言うか、あそこに入れる勇気あるの?」


 男達の余計な一言に、女達は黙ってそいつらをボコボコにした。





 一方で注目の的となってるフィンス達は周りの事なんか一切目に入らず、掲示板を見ながらお昼ご飯は何が良いか話し合っていた。


 「やっぱパンが食べたいよ!森では一切手に入らなかったし」

 「いやいやいや。ここはガッツリと肉っすね」

 「何よリッキス。森であんだけ食べといてまだ食べ足りないって言うの?」

 「本場の街の料理って食べてみたいじゃないっすか!」

 「まるで街で食べた事のないような言い方だな」

 「そっ、そんな事ないっす!」

 「お魚料理も良いなぁ〜」

 「セリア…それも散々森で食べたでしょ」

 「そうだけど…。美味しいじゃない」

 「まぁ、すぐに帰るわけじゃないんだし。ここにいる間は色々食べれば良いさ」

 「それもそうね」

 「──これにするか」


 俺はざっと掲示板に目を通して、一枚の討伐依頼の紙を引っぺがす。


 受付に行き、3人の新規の登録を済ませた後、依頼の紙を渡す。


 「フィンスさん、お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」


 受付のお姉さんは微笑んで迎えてくれた。依頼を受ける時は、ほぼこの人に渡していたので覚えられていたのだろうか。


 「先にカードをお預かりしても?依頼以外の魔物の討伐記録が残っていたなら、少しですがその報酬が支払われますよ」

 「じゃあ、お願いします」


 にっこり笑う完全余所行きモードの俺に、セリア以外の全員が引いてる気がするが無視する。


 それにしても魔物を討伐しただけで報酬って出たのか。それなら俺、結構倒してるんじゃないか?


 何かの画面を見ていた受付のお姉さんは、突然素っ頓狂な声を上げた。

 そして俺とカードを見比べる。そして何やらブツブツ呟き出した。


 「えぇっ、これって…。カードの故障?いや…壊れてなんかないわ。でもそれって…ふぇっ⁉︎」

 「どうしました?」

 「あ、あの…魔物…倒してますよね?」

 「まぁ…倒してますね」

 「正確にどれくらい倒したか覚えてます…?」

 「いえ。忘れました」


 大量に倒してるのだから一々そんなの覚えてる訳がない。


 「もっ、もしかして、Sランクの魔物…倒されました……?」

 「Sランク?さぁ?魔物のランクってどうやって見分けが付くのか分からないもので」

 「目。目です。金色の目をした魔物、倒しました……?」


 金色の目……。あ、いたな。喋るカマキリ。喋るので印象的だったから覚えてる。


 「確かに倒した事がありますね」


 ガタッ。ゴッ。

 そう言った瞬間、お姉さんが勢い良く立ち上がった。


 「しっ、少々お待ちくださいっ!ぎっギルド長ーっ!!!」


 可哀想に、勢い良く立ち上がった時に膝を打ったようで、膝を抱えながら勢い良く2階へと駆け上がって行った。


 「一体どうしたんでしょう?」


 首を傾げたセリアに俺もさぁ?と返す。


 「そっそれにしてもフィンス…くくっ。人が変わり過ぎっ!」

 「あんな接し方も出来るんすねっ!」


 肩を震わせて笑うスーシャとリッキスに軽ーく一発お見舞いし、足元で声を出さずに笑ってるクロとシロは見ない事にした。

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