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21話 走り去ろう

 周りの気配に気を配りながら、静かに素早く森の中を移動していく。

 普通の人が見れば、まるで流れる様に走っている様に見えただろう。


 「とうっ!」


 前方にいる魔物の存在に気付いたセリアは、周りに誰もいないかを確認して魔物に飛び蹴りを食らわした。

 その一発で、魔物は水滴へと姿を変える。


 「うわっ⁉︎」


 そのまま着地しようとしたのだが、着地点に沢山の何かが動いているのを見て慌てて身体を丸め一回転するようにし、空いている地面に片手をつき反動でその場所から離れる。


 「何?魔物…?」


 恐る恐る近付いてみると、そこにはセリアの方を見てひれ伏している大勢の小さな者達がいた。


 「……失礼しましたー」

 「待って下されぃ!」


 セリアは何も見なかった事にして、鬼ごっこを続けようと背を向けるが、小さなおじいちゃんに呼び止められてしまう。


 「……何でしょう?」


 普段のセリアであれば、見た事もない可愛らしいこの小さい者達の存在に飛び付くだろう。実際、撫でてみたくて仕方がなかったセリアだが、直感がこの人達を信用してはダメだと告げていた。


 「まずはお礼を言いたい!我等を救って頂いた事、感謝する」

 「私、何もしてませんが…」

 「魔物を倒して下さったでしょう?」

 「あれは私が進む方に居たからです。あなた達がいた事なんて知りませんでした」

 「それでも助けて下さった事に変わりない」

 「そうですか」

 「そんな貴女を見込んでお願いがある。儂達の街は魔物に襲われ、今もまだそこから逃げ出せずにおる者がおる。その者を助けて欲しいのだ」

 「……それは、脅しですか?」


 話しながら、セリアは何故この人達を信用出来ないのか考えていた。

 そして、周りに隠れている沢山の気配に気付いたのだ。

 しかも、僅かだが殺気が漏れている。何かあれば襲いかかって来るつもりだろう。


 「なっ⁉︎そんな事は…」

 「あるでしょう?じゃないと周りにいる人達の説明がつきません」

 「それは…」

 「私はこれで失礼します」

 「お待ち下さいっ!彼らの事は儂の罪ですじゃ。申し訳ない。…どうしても、助けて欲しい者なのです」


 正直、この小人族の族長は目の前に現れた銀髪の少女を甘く見ていた。人間は集団となれば厄介な存在だが、たった1人でそれも娘となると同情か、脅しで簡単に言う事を聞いてくれると思ったのだ。


 ただ族長は、ここがキスツの森であるという事を失念していた。

 そのキスツの森に人間が立ち入らないと言う事も。

 そしてこの森で、普通の人が一発で魔物を倒せる事が出来るのが、どれだけおかしいのかという事も。


 これは長い間、他の種族に関わる事をやめた小人族のミスであった。





 周りに隠れていた者も皆んな出て来て、セリアに向かって頭を下げていた。あまりにも真剣なお願いに、どうしようかと悩んでいた所に背後から良く知る気配が。


 「セリア、みーっけ!」

 「しまっ」


 避けようとするが、間に合わず背後から捕まってしまう。


 「次、セリアが鬼だからね!」


 セリアの髪に赤い花を付け、さっさと離れようとするスーシャの手をセリアはがっしり掴んだ。もちろん、怪我をしないように優しくだが。


 「スーシャ、ちょっと待って!」

 「どうしたの?──あれ?この人達は?」


 周りにひれ伏している小人達に、ようやく気付いたスーシャ。そんなスーシャにセリアは始めから説明していった。




 「──なるほど。どうしても助けて欲しいと」

 「どうしよう?」

 「うーん…。やっぱフィンス達の意見も聞かないとね」

 「時間がありませんのじゃ!どうか、どうかお力添えを!」

 「そう言われても……。ねぇ、そこに現れた魔物って2、3体?それならすぐに助けてあげる」

 「それは……」

 「やっぱり。数が多いんだね?だから私達を向かわせようとしてる」

 「……」

 「私達が戦っている隙に仲間を助け出して、自分達だけ逃げようって思ってるんじゃない?」

 「スーシャ!言い過ぎだよ!」

 「だけど、信用出来ない。殺気駄々漏れだし」


 スーシャが言っている事は正しい。現に一部から2人に向かって殺気が放たれている。


 「これっ!やめろと言っておるじゃろっ!──すみません、儂の教育が行き届いていなかったようですじゃ」


 本心から申し訳なさそうにしている、小さいおじいちゃんを見て2人は顔を見合わせた。

 そして、セリアは頷いた。


 「お力になれるかは分かりませんが、協力しましょう」

 「おお!ありがとうございます!──名乗るのが遅くなりましたな。儂はこの小人族の族長、凰雅おうがと申します」

 「セリアです」

 「スーシャよ」


 そして3人を中心に、取り残された小人の救出作戦が話し合われ、行動に移されていくのだった。






* * *






 「なぁ、リッキス。なんかちっこいのがいるぞ」

 「え、マジっすか?」

 「ほら、あそこ」


 どこどこ?と身を乗り出しているリッキスに、俺は指差して教えてやる。


 「あ、本当だ。あれは小人族っすね〜」

 「小人族?知ってるのか?」

 「あっ、ほらっ、僕色んなとこ旅してましたから!あはは〜」

 「ふーん…」


 俺が疑いの目を向けると、リッキスは慌てて話を逸らしてくる。


 「兄貴!早く助けてあげないと!彼、1人で戦ってますよ!」

 「それもそうだな」


 範囲を魔物だけに設定した火魔法で一気に片付ける。

 内から爆発するように、魔物は次々と水滴に変わっていった。


 ……しまった。派手にやり過ぎたか?これでは4人に気付かれる可能性が高い。


 そんな事を内心で心配になったが、顔には出さずに小人の前まで行き話しかける。


 「大丈夫か?」


 赤い髪の小さな小人は地面に両手をつき、肩でゼイゼイと息をしていた。

 俺の声は届かなかったのか、ぶつぶつ呟いている。


 「た、助かった…?なぜ奴らは急に…?俺は…生きてる…?」


 下を向いて必死に息を整えている彼に回復魔法をかけてやると、不思議そうに自分の身体を見つめ、顔を上げて俺と目が合う。


 「これは貴方が…?」

 「そうだ。治ってない所はないか?」

 「いえ、ありません。…もしかして魔物も?」

 「まぁ、そうだな」


 そう言うと、彼は地面に擦り付ける勢いで頭を下げてきた。


 「ありがとうございます!貴方のお陰で俺は生き残る事が出来た…!」

 「そんな大袈裟な」

 「そんな事はありません!実際、自分は死ぬつもりでここに居ました。生き残れたとなれば…約束も守ってくれるでしょう」

 「約束?」

 「あぁ、失礼。部下と約束したのです。もし俺がここで生き残れたら甘い物を奢ってくれると」


 その言葉に俺とリッキスは顔を見合わせる。

 失礼だが、外見の彼はあまりにも甘い物好きだとは思えなかったのだ。


 「俺は煉椰れんや。お2人の名前を伺っても?」

 「俺はフィンスだ」

 「僕はリッキス」

 「それじゃあ、改めて。フィンスさん、リッキスさん、この度は助けて頂きありがとうございました」

 「僕は何もしてませんから」

 「俺だって大した事はしてない。だから気にする事はない。さ、リッキス。そろそろ行くぞ」


 ある事に気付いた俺は、その場を離れようとリッキスに促す。


 「あ。そうっすね」


 リッキスもそれに気付いたようで頷いた。


 「えっ!もう行かれるのですか?」

 「ああ」

 「でもまだ何のお礼もしていません!」

 「そんなのいいって。じゃあな」


 そう言って俺は木の上に飛び上がる。

 それに続いて来たリッキスを後ろに感じながら、木の上から木の上へと移動を開始した。


 「ちょっとっ!フィンスっ!待ちなさいっ!リッキスも止まれーっ!」


 と言うスーシャの声が遠くから聞こえて来たが、止まるわけにはいかない。今はゲーム中。どんな事情であっても、罰ゲームである1週間の飯作り係になりたくない。

 どんな小さな事でも楽はしたいからだ。


 そう言う訳で俺達は走り続けた。






* * *






 「やられたっ!」

 「2人共必死だもんねー」

 「セリアが1番のんびりしてる場合じゃないと思うけど…。今、セリアが鬼なの分かってる?」

 「あ…」


 会話をしている2人に声をかける者がいた。


 「あの…君達は?」


 呼びかけたのは、赤い髪の小人。それを見てスーシャは驚く。


 「貴方がA部隊の隊長?」

 「正確には元隊長。今は快稀かいきが隊長だ」

 「そう。魔物は?」

 「あの方達が倒して下さった」

 「あいつらが…。隊長も無事のようだし、私達は用無しね」

 「そうだね」

 「「「隊長ー!!!」」」

 「なっ!お前達なんで…」

 「さっ!セリア!さっさと2人に追い付くよ!」

 「うんっ!」


 小人達の感動の再会には目もくれず、スーシャとセリアもまた、フィンスとリッキスを追って走り出すのだった。

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