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19話 交替しよう

 翌日は俺とセリアが食料を調達係、リッキスとスーシャが建築係、クロとシロが薪調達係だ。

 俺が建築係になれないのは不満だが、食料調達も命に関わるので絶対に外せない。

 しかも、昨日リッキスと明日は魚にしようと話した事で、何故か自然と俺が食料調達係に任命されてしまった。

 という事で、俺たちは川へ向かって歩いている。




 昨日の夜に食べた黄金キノコは、絶品だった。今まで食べた事のない味で、みんな目を輝かせていた。

 シロ達とも喋って少しは仲良くなれたようである。ただ、クロは人見知りなせいかあんまり喋ってなかったが。でも、それなりに楽しんでいたようなので今後の心配は全く無い。




 そして、家の周りに散らばった木材の事を思い出し、隣を歩いている少女を盗み見る。

 ふわりと風に揺れる銀色の長い髪、しっかりと前を見据える紅い瞳、平均よりは少し細めの身体。どこか守ってあげたくなるような雰囲気を彼女は持っている。

 ……普通の少女だ。どこをどう見ても。

 どこにそんな力があるのか…。

 実際に見た訳ではないが、気になる。


 俺が無意識にジッと見ていたからか、この沈黙に耐えれなくなったからなのか分からないが、セリアが急に俺の方を見て話しかけてきた。



 「リッキスはどうやってあの強さを手に入れたんですか?」

 「どうやってって言われてもなぁ…。小さい頃から森に行くのが趣味みたいなものだったから。森に行くと当然魔物に会うし、身を守る為に自然とこうなってたな。って言っても、俺はそんな強くないぞ。──そう言えばセリアは魔物を倒す時、何も持たないで戦っていたけどそれは大丈夫なのか?」

 「大丈夫です!寧ろ武器があると、私の場合邪魔になっちゃうんですよね」

 「?何でだ?」

 「私が使うと、魔物に攻撃するまでに武器が先に壊れちゃって…」


 困ったように笑う彼女は、おしとやかな少女そのものなのだが、言ってる事は普通ではない。

 攻撃するまでに武器が壊れるなんてあり得ないし、あってはならない事だ。

 やっぱり彼女の力は常軌を逸しているようだ。




 セリアはキョロキョロと周りを見渡し、何かを発見したようでそこまで走って行く。俺もついて行くと、そこにはおよそ半分くらいは地面に埋まっている、大きな岩があった。地面から出ている部分でも俺より頭1つ分小さいくらいなので、地面に埋まってる事を考えると相当な大きさがあるのだろう。


 「私、力にだけは自信があるんです。そのせいで色んな物を壊しちゃうんですけど…」

 「?」


 訳が分からず首を傾げると、セリアは岩に手をかけた。


 「ちょっと見てて下さいね」


 「せーのっ」っと声を上げると、ズズズッと岩を引っ張り出し頭の上まで持ち上げた。


 あまりにも簡単にやってのけてしまうので、俺にも出来るんじゃないかと錯覚しそうになってしまう。


 そして……


 「えいっ!」


 メキメキメキッ──バコォォン


 少し力を入れたように見えた後、岩は粉々に砕け散った。


 「……」


 ……もう一度言おう。岩が、粉々になった。


 「これくらいしか出来なくてちょっと恥ずかしいんですけど…近くにこれ以上の大きさのは無かったから…」


 え⁉︎セリアさん?それは恥じる所が絶対違うと思う!


 そう思いながらも口から出たのは「そ、そうか…」という何とも情けない言葉だった。


 ……て言うかこれ、2人共修行なんて要らなくね?







* * *






 俺達が魚を釣り終えて家に帰って来ると、リッキスとスーシャが何やら言い争ってる声が聞こえて来た。


 「何があったんだ?」


 既に帰って来ていたクロ達に聞いてみる。


 「ボク達も今帰って来た所だから分からにゃいのにゃ」

 「そうか」

 「でも仲良さそうみゃー」


 2人の様子を見ると、シロの言う通り険悪な雰囲気ではないな。

 ちょっと聞いてみるか。


 「2人共、どうしたんだ?」

 「あ!兄貴!聞いて下さいよ!スーシャがネジを…」

 「ちょっと!私の所為にするつもり⁉︎リッキスだって共犯なんだからね!」

 「?ネジがどうしたんだ?」

 「すみません、全部使い切ってしまったんすよ。まだ2階も出来てないのに…」

 「何だそんな事か」


 スーシャが小さくなってる。


 「ごめん…」

 「別に気にすることじゃない。いつかは無くなるしな」

 「そもそもスーシャがネジを失くさなかったら、こんな事にはなってないっすよ!」

 「それは共犯だって言ったでしょ!」

 「いや、スーシャがネジを投げたりしなかったら良かったんすよ」

 「リッキスだってノリノリでやってたじゃない!」

 「う……」

 「……2人共、一体何をしてたんだ?」

 「実は……」






 「ふーん、それでネジを失くしたと」


 事情を聞いた俺達に、正座して座ってる2人はそれぞれ謝ってくれる。


 「すみません…」

 「ごめんなさい」

 「スーシャ…」


 セリアは呆れたようにスーシャを見ている。




 ネジを失くした原因、それは2人が遊んだ事によるものだった。

 始めは真面目に壁の取り付けを行っていたようである。だけど、途中から戦闘の時の話になり、自分はどれだけ素早く動けるだとか、戦闘中でも精密さは欠かさないだとかいう話になり、それじゃあこの小さいネジを使って勝負しようという事になったそうだ。

 壁を打ち付けながら、スーシャが不意に投げたネジをリッキスが受け取る…と言うより受け止める。

 という作業がだんだんエスカレートして、家の周りを使い、ネジを受け取る鬼ごっこ的なものになっていったそうだ。


 最終的には2人共本気になってしまって、リッキスも投げ返すようになり、スーシャが投げたネジがあらぬ方向へ飛んでいってしまったとか。


 雪合戦ならぬネジ合戦だな。


 怪我がなくて良かったが。




 セリアと顔を見合わせ、噴き出す。


 「まぁまぁ、ネジなんかまた買えば良いんだし。楽しそうで何よりだよ」

 「スーシャがそんなにはっちゃけるなんて……よっぽど楽しかったんだね!」

 「なっ!」

 「セリア!そんなんじゃないからね!」


 笑いが収まった俺は、真っ赤になった2人を横目に家を一周する。


 「で、壁を取り付け終わってくれたのはありがたいんだが……どこから入るんだ?」

 「え…」

 「あ…」


 クロとシロは呆然としている2人の横で、お互いに毛繕いしあっていた。

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