15話 ボスに挑もう
リッキス達を見てドヤ顔をするシロ。
自分にも魔法の制御が出来たと言わんばかりの清々しい顔であった。
今この状態のシロに、魔法の無駄遣いが多過ぎると指摘すれば、シロはまともに聞いてくれるのだろうか…。
いや、今は何も言うまい。
そう思ったリッキスは、即座に切り替えた。
「僕達も頑張らないとっすね!」
そう言いながらも、ここはクロとシロがいれば十分だろうなと思うリッキスであった。
* * *
一瞬で魔物の元まで辿り着いたフィンスは、カマキリの魔物に向かって剣を振り下ろす。
カマキリは自身の大きな鎌で受け切った。
──へぇ、他の魔物より結構出来るな。
そう感じたフィンスは、少し本気を出す事にした。
キィンキィンキィンキィ──ン
立て続けに攻撃を仕掛けるが、こいつは全て塞いでくる。
もう少し攻撃速度を上げて、ほんの少しだけだったら魔法を使っても、もしかしたら倒れないかもしれない。
今までの魔物では、剣の一撃で全てが決まっていた。
魔法なら言うまでもなく、瞬殺だった。
それに飽き飽きしていたフィンスは、だんだんと楽しくなってきた。
この魔物がどこまで着いてこれるか、試すように少しずつ攻撃を速くしていく。
だが、魔法はまだ使わない。
「ッ!」
カマキリが鎌を下から上に振り上げて、フィンスから距離をとった。
「ナ、ナカナカ……ヤルナ」
「?まだまだこれからだぞ?」
「ッ⁉︎」
平然としているフィンスに対し、カマキリの魔物は冷や汗を流し、肩で息をしていた。
その時。
ドゴォォォン──と後ろから凄い音が聞こえてくる。
「派手にやってるなぁ。あれは……シロか。もたもたしてるとあっちが先に終わりそうだからな。俺も終わらせるか」
「ソレハ、コノワタシヲ侮辱シテイルノカ?ワタシハ、コノダンジョンノヌシゾ」
「うーん、でもなぁ。倒せない程じゃないと思うし。てか、ぶっちゃけ魔法使えばすぐかも」
「ナッ!」
「それか、俺達を普通に出してくれるか?それなら戦わずに済むが…」
「ソンナコトスル訳ナイダロウッ!」
「だよなー。喋れる魔物ってお前が初めてだったからちょっと面白かったよ」
「フン、ソコラノ魔物ト一緒ニスルナ。ワタシハ魔父ノ実子ゾ」
「魔父?」
「ソンナコトモ知ラヌノカ。フンッ。知ラズ二死ヌガイイ!グランディールファイアボール!!!」
そう言って魔物が放って来たのは、サッカーボールくらいの大きさの火の魔法だった。
しかし、それはフィンスに辿り着く前に人一人は余裕で超える程の巨大な火の塊に成長した。
だがフィンスは焦る事なく、剣を振り下ろしその巨大な魔法を斬り裂いた。
「じゃあな」
魔物が気付いた時には、フィンスは目の前まで迫っており、その剣で止めを刺そうと振り翳しているところだった。
「ッ!コノワタシガッ!負ケルワケガ──ッ」
詠唱する間も無く、鎌で受け止めようとするが、あっさりと自身の手が斬り裂かれてしまう。
「グワァアアァァ──ッ!!!!!」
最後に叫び声を残し、魔物はフィンスに倒され水滴へと姿を変えたのだった。
* * *
「…終わったか」
俺がカマキリの魔物を倒し終え、リッキス達の方を見ると、ちょうど向こうも魔物を全部倒し終えたところだった。
「大丈夫か?怪我は?」
「大丈夫っすよ!みんな無傷っす!」
少女達もリッキスの言葉に頷いてる。
シロはドヤ顔で誇らしげに胸を張ってるし、クロはいつも通りだった。
みんな大丈夫だったようだ。良かった。
「じゃあ、ここから出ようか」
「晴れてると良いっすね!」
「そうだな」
「…やっと、出られる……!」
「!うんっ!」
少女達は外に行ける事に感激しているようだ。
2人で手を取り合って、今にも踊り出しそうな雰囲気だ。
どのくらいの間ここに居たのかは知らないけど、こんなに喜んで貰えるんなら俺も嬉しい。
帰りは一切の魔物に出会う事なく、出口まで辿り着いた。
外は幸い晴れてはいたが、夜だったので話し合ってダンジョンの入り口で一夜だけ過ごす事になった。翌日に建設途中の家に帰る予定だ。
夕食の準備をリッキスと始めようとしたのだが、少女2人に少し話がしたいと止められた。
2人は姿勢を正し、俺達に深々と頭を下げてきた。
「今回は私達を助けて頂き、本当にありがとうございました。あなた方は私達の命の恩人です」
「いや…別に大した事はしてないし…。なぁ、リッキス」
「そうっすね〜。そんな、かしこまらなくても大丈夫っすよー」
金髪の少女はそう言い、銀髪の少女を見てお互いに頷いた。
「私の名前はスーシャ」
「私はセリアです」
「私達はある約束の為、この地に来ました。そして偶然この中に入ってしまい、出れなくなってしまった訳なんですが…。…失礼ですが、あなた達はどうしてここに?」
「俺はフィンスだ。どうしてって…雨降ってきたから…かな?」
「僕はリッキスって言います!よろしくっす!」
「こっちの黒いネコがクロで、白いネコがシロだ」
途中で挨拶を交えながら、質問に答えていく。
「え、雨降って来たからってわざわざこんな森に雨宿りの為に来るの⁉︎」
「こんな森……」
リッキスが遠い目をしているが、放っておこう。
「スーシャ、口調戻ってるよ」
「あ。ごめんなさい」
「別に良いよ、普通で。気にしないし」
「そう?」
「あぁ」
「じゃあ…。あなたは雨が降るとわざわざキスツの森に来る変わり者って事であってる?」
「ふっ、雨降るたびにわざわざ来る訳ないだろ。俺達はこの森に住んでるんだ」
「えっ!」
「嘘っ!」
「…本当っすよ。兄貴は偉大なんす!」
「偉大って事はないが…。ただ、ここは自由で楽だから好きなだけだ」
「……すごい」
2人は再び顔を見合わせ、俺達に向かって頭を下げてきた。
「お願いしますっ!私達もそこに一緒に住まわせて下さい!」
「どうか、お願いします!」
「私達を駒として使ってくれても良い!私達は本来ならあそこで死んでた。だから、私達の命はあなた達のもの。だけど…お願いします。私達は家族を救いたい。迷惑だろうけど、それまでの間、私達を鍛えてはくれませんか?」
金髪の少女、スーシャの突然な話に俺はストップをかける。
「ちょっと待て!展開がおかしな方に広がってるぞ!取り敢えず、きみ達を駒として使うとかそんな事はしないし!家族を救いたいとはどういう事だ?…順番に話してくれ」
「…分かった。ちょっと長くなるかもだけど…」
あぁ…。これを聞いてしまえば、もう戻れない様な気がする…。だが、聞かないといけない。そんな気もするのだ。…直感でしかないのだが…。
俺はスーシャの言葉に静かに頷くのだった。