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13話 腹ごしらえしよう

 金髪の少年は、魔法を放った魔物に向かって一気に距離を詰め一撃で仕留めた。そして、セリアのいる方へ振り向いて消えたかと思うと、セリアが止めていた魔物は水滴となって消えていた。

 セリアは何が何だか分からなかったが、取り敢えず助かった事に安堵し、地面にへたり込んでしまった。


 それを見た金髪の少年が声をかける。


 「大丈夫か?少しそこで休んでると良い。後は俺がやる。──リッキス!」

 「りょーかいっす!」


 スーシャがいた方へ向かって少年が叫ぶと、緑髮の少年がスーシャをお姫様抱っこして、魔物を容易く避けながらこちらへと走って来た。


 「えっ、なっ…っ⁉︎」


 セリアの隣に降ろされたスーシャは顔を真っ赤にして、口をパクパクさせている。


 「スーシャ、大丈夫…?」


 セリアが心配して声をかけると、スーシャは隣に座るセリアを見て声も出せずにコクコクと頷いた。

 こんな状態のスーシャを見るのは初めてかもしれない。

 そんな事を思いながらセリアは目の前に立つ2人の少年を見上げた。


 誰も入りたがらない死の森とも呼ばれる危険な場所にいて、しかもこんな洞窟の中に何故いるのか全く分からない。

 だが、この人達は自分達の命の恩人だ。

 しかもこの人達であれば、目の前の魔物達を倒してくれるだろうとさえ感じる。

 もし、助かったならこの人達にちゃんと恩を返さなくては。そう考えるのは、おそらくスーシャも同じだろう。


 生きてこの洞窟を出る事はほぼ困難だろうと思っていたセリアの胸に、希望という光が宿った瞬間だった。






* * *






 2人の少女を保護した後、フィンスは残った魔物達と向き合った。


 「クロ、シロ、危ないから退いてな」

 「みゃ〜」

 「…にゃ」


 2匹がリッキスの近くに行くのを見て、何の魔法でこの量の魔物を一掃するか一瞬考える。


 別に剣で相手をしても良いんだが、数が多いから面倒だ。


 さて、どうするか。

 火はこのダンジョン内の酸素がなくなる可能性があるから即却下だし、水もダンジョン内をビシャビシャにして天井ごと崩れてきても嫌だ。


 うーん…他なら何でもいっか。


 光にでもするかな。シロの参考になるかもしれないし。


 魔物の方に向けて雷を出そうと、手を向けた先から静電気のようなパチッパチッとした音が鳴る。すると、隣にいるリッキスが目に見えて慌てだした。


 「うおっ!ちょ、兄貴!ここじゃ危ないですって!ね?それはやめましょ?てかやめて下さい!」


 どうやらさっきの事がトラウマになってしまったようだ。

 俺はそんなミスはしないけどな。ま、遊びで少し当たるくらいは…。


 「ちょ、今変な事考えたっすよね?」


 …なぜ分かる。


 「少しニヤってしてたっすよ」

 

 仕方ない。今回はやめといてあげよう。


 じゃあ、風魔法にでもするかな。一気に倒しやすいし。


 「分かったよ。リッキスも念の為下がっとけよ?」

 「了解っす!」


 リッキスが俺より少し下がったのを見て、風魔法を発動させる。

 風魔法の斬撃を一気に周囲に向けて放つと、魔物は次々に水滴へと姿を変えていった。


 「終わったぞ」

 「ほんとデタラメっすよね、その力。普通は一瞬でこの数の魔物は倒せないと思うんっすけど…」

 「そうか?」

 「そうっすよ」

 「ま、良いじゃないか。それよりも…」


 そう言って後ろを振り返ると、蹲り呆然と目を見開いて固まっている2人の少女達を見る。


 「…どうしようか?」


 2人に聞こえないようにコソッとリッキスと話し合う。


 「そうっすね…何でこんなとこにいるか分からないっすけど、ここに置いて行っても危険ですし…連れて行きます?」

 「そうだな…。それが良いか。クロとシロにはもうちょっとの間我慢してもらうか」

 「そうっすね」

 「にゃ!」

 「みゃ〜!」


 俺達の言葉が2匹には聞こえていたようで、大丈夫だと言うように鳴いた。


 ごめんな、と2匹をひと撫ですると2人の少女の方へ向き直る。


 声を掛けようと口を開きかけた時に、クゥゥゥとかわいらしい音が金髪の少女のお腹から鳴った。

 それにつられるように銀髪の少女からも同じような音が聞こえてくる。


 「ぁっ⁉︎」

 「っ!!!」


 2人は顔を真っ赤に染めてお腹をおさえ下を向く。

 さっきまで殺されそうになっていたというのに、気が抜けた途端に自分の欲求を伝える正直な少女達の身体に、俺達は悪いとは思いながらも、思わず顔を見合わせ少し笑ってしまった。


 「2人共お腹空いてるんっすね。兄貴、まずはご飯にしませんか?」

 「そうだな」


 俺は空間収納から鍋と幾つかの食材を取り出し、魔法で火を起こしシチューのようなものを作る。


 この程度の小さな火ならばここの酸素がなくなる事は無いだろう。


 次第に良い匂いが辺りに広がり、ゴクリとそれを熱心に見つめる少女達。


 ちょ、怖いからそんなに身を乗り出すな。どう見ても具まで火が通ってるとは思えないし。

 一体どれくらいの間、この2人はご飯を食べていなかったのだろうか。


 やがて煮え立ったそれをお椀に入れて2人に渡してやる。


 おずおずと受け取った2人は、俺とリッキスの顔を伺っている。

 さっきは今にも食べそうな顔をしてたのに…。


 「良いよ。食べな」

 「─ありがとう」

 「ありがとうございます」


 俺が頷くと2人はそれぞれ礼を言って、一口スプーンですくって口に入れた。


 「…おいしい」


 そう言ってポロリと涙をこぼしたのは銀髪の少女だった。

 隣で金髪の少女も何度も何度も頷いている。その子も涙を流していた。


 もしかすると、結構長い間ここに閉じ込められていたのかもしれない。


 俺はクロとシロにもスープを入れてやり、2匹が食べる様子を眺めつつ俺達も食べ始めた。






 俺の予想ではこの下の階にボスがいると思う。

 他の魔物より少し大きな魔力の塊を感じるので、多分それがそうなんだろう。


 見た所、2人の少女はだいぶ疲弊しているようだが、ここに置いて行くわけにもいかないだろう。

 一応、ここら辺に集まって来た魔物は一掃したが、また集まって来る可能性もある。

 そうなれば、俺達が助けに行く事は出来なくなるわけで。

 危険でも連れて行った方が良いのだろう。


 あ。でもリッキスをここに残して行く方法もあるのか。


 リッキスの方を見てみると目が合った。


 「僕も行きますからね?」

 「お、おぅ…」


 バレてる…?何故だ!

 そりゃ、さっき連れて行くって話したが、この方法は思いついて無かったのに!


 ま、良いか。

 全員が食べ終わったのを見て、俺は2人の少女に声をかけた。


 「俺達はこのままボスを倒しに行こうと思うんだが、一緒について来てくれないか?絶対に守れるという保証はないが、ここにいるよりは俺達と一緒にいる方がまだ安全だと思うし…」


 2人は一瞬顔を見合わせて、お互い頷き合い、笑顔で答えてくれた。


 「もちろん!足手まといだとは思うけど、連れてって」

 「私も…よろしくお願いします!」


 2人の言葉を聞いた俺は立ち上がる。


 「じゃ、さっさとここから出ますか!」

 「そうっすね!」

 「みゃー!」

 「にゃ」

 「おー!」

 「はいっ!」

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