12話 ダンジョン内を探索しよう
「ごめんなさいみゃ……」
つぶらな瞳をうるうるさせて、見上げてくるシロ。
耳はペタンとなり、尻尾も元気をなくしたように垂れ下がっている。
こんなに反省している姿を見てしまったら、何でも許してしまうだろう。
それはリッキスも例外ではなかったようで。
「ま、まぁ今回は僕も無傷だったですし、初の魔法実践っすからね。仕方ないっす。次は魔法の制御の訓練っすね」
「みゃ!頑張りみゃす!」
驚く事にリッキスはあの雷の嵐の中を、魔法を使わず自力で避けまくり、無傷だったのだ。
リッキスによると、あの時は必死で魔法を使う事を忘れてたとか。どうなってるんだ、あいつの身体能力は。
進む度に出てくる魔物を俺は剣、リッキスは木魔法、クロは毒攻撃と交代で倒していき(シロは魔法の制御が出来てないので、今の所休んでもらってる)、更に下へと続く階段を降りる。
奥に来たところで、俺は大量の魔物の気配と人の気配を察知した。
2つの気配は近いが、戦ってるようではないらしい。
人の気配の周りをウロウロとしている魔物の気配からそう感じた。
「なぁ、人がいるっぽいんだが、どうする?」
「にゃっ⁉︎人がいるにゃ⁉︎そっちに行くにゃらボク達は喋れない事にしてにゃ」
「?別に構わないが…どうしたんだ?」
「…人間は信用出来にゃいのにゃ」
「俺達は良いのか?」
「フィンス達は助けてくれたし…そもそもその前にシロが喋っちゃてたのにゃ」
「あー…」
俺は最初にクロとシロを助けた時を思い出した。
あの時聞こえなかった言葉は、クロがシロを咎めようとしていたのかもしれない。
「それにフィンス達は優しいのにゃ」
「そうか?」
「にゃ!」
「そうですみゃ!」
「シロ、今度は完全に信用出来るまで喋っちゃダメにゃ」
「むぅー、分かってるみゃ」
クロ達は過去に人間を信用出来ない何かがあったのだろう。
今はこうして俺達と普通に喋ってくれているが、仲間になった当初クロは本当に無口だった。
「じゃ、行ってみますか」
「そうっすね」
先程とは変わって俺とリッキスを先頭とし、魔物のひしめく現場に足を向けた。
* * *
「うぅ…何でこんな事に…。お腹空いたぁ……」
「これ、食べる?」
銀髪の女の子が籠から取り出したのは、以前森で採った黄金キノコであった。
今いるのは洞窟内の一部屋。
他に摘んであった木の実などは、とうに食べ尽くしていた。
「食べたいけど…ダメだよ。我慢しなきゃ」
食べる事が出来れば、一生幸せに暮らしていけると言い伝えられている伝説の食料。
2人は家族みんなが揃った時に食べたいと考え、それを食べるのを我慢していた。
「そうだね…早くここから出ないと…」
「でも、魔物も沢山いるんだよね…。はぁ、今、力出ないやぁ……」
「私も…もうダメ…」
2人は寄り添って地面に座り込んでいた。
唯一の出入り口である場所は銀髪の少女、セリアによって岩で塞がれている。
だがそれも、外にいる魔物達に壊されてしまうのは時間の問題だろう。
そして彼女達は、もう戦う体力も気力も残っていなかった。
「私達、ここで死んじゃうのかなぁ…?」
「スーシャ、ダメだよそんな事言っちゃ。父さん達を待つんでしょう?」
「そうだけど…。この洞窟、外に出れないじゃない」
「でも、生きてれば何とかなるよ!──やっぱり食べよう?あのキノコ。食べないで死んでしまうより、食べて身体を動けるようにしたら何か道が開けるかもしれないし」
「セリア…」
「それに、ここで何もしないで死んじゃうより、行動した方が良いよ!父さん達とも生きて会いたいし!ね!」
「!──そうだね。ごめん!私が間違ってた!」
スーシャはパンッと自分の頬を叩く。
「よしっ!やってやろうじゃないの!魔物だって何だって殲滅してやるわっ!」
「その意気だよ!スーシャ!」
そして黄金キノコを食べようと、籠から取り出した瞬間、ドゴォォォンと物凄い土煙りと共に音が響き、とうとう壁が崩れてしまった。
「クッ…、食べる時間がなかったか…。ごめんセリア。私の決断が遅かったせいで…」
「ううん、大丈夫。力一杯やろう!」
「うんっ!必ず生き残ってみせるっ!」
そして2人は大量に押し寄せる魔物に、スーシャは短剣1本、セリアは素手で立ち向かって行く。
二足歩行でトカゲの様な姿をした魔物の猛攻をスーシャはギリギリで躱しながら、短剣で素早く攻撃していく。
だが今は空腹と、この森に入ってから戦い通しで体力がついて行かず、魔物を一撃で倒す事は出来ずに何度も何度も攻撃をしてやっとの事で一体を倒す事が出来るという程度だった。
それはセリアも同じで、素手でゴリラに似た魔物を殴り飛ばしているのだが、決定打に欠けていた。
正直、この調子では魔物の多さに押し負けてしまうだろう。
そう考えたスーシャは、上手く逃げ出す手立てを考えるが、その一瞬が命取りだった。
魔物の大きな腕が、スーシャ目掛けて振り下ろされる。
避ける暇はなく、スーシャは何とか短剣で応戦しようと身構えるが、その体格差から受け止める事は困難と思えた。
スーシャが危機に立たされていた頃、セリアも絶体絶命の状況に陥っていた。
襲いかかってくる1体の魔物を遠心力を上手く活用しながら持ち上げて、他の魔物にぶつけ、追撃で殴り1体1体を確実に始末していたのだが、なんせ数が多過ぎた。
次第に消耗していき、もはや投げ飛ばす体力は残っていない。
「はぁっ、はぁっ……く、うっ!」
少し息を整え、前から来た魔物を相手にしている時、背後から襲って来た魔物の気配に気づいた時ににはもう既に遅かった。
背後から来た魔物は魔法を発動させながら、こちらへと向かって来る。
セリアの両手は、前にいる魔物の相手で塞がっていた。
いつもの調子なら、この前の魔物を身代わりにする事も出来ただろう。だが、今、そんな体力は残っていなかった。
攻撃する事も出来ず避ける事も出来ない。
「──っ!」
あれに対抗出来る魔法も持っておらず、セリアは思わず顔を背けてしまった。
そして、2人は同じタイミングで魔物の攻撃を受ける。
──ドガァァァン
──ズパァ──ン
「ぇ…?」
スーシャの前には緑髮の少年が、スーシャと魔物との間に割り込むようにして立ち塞がり、木魔法であらゆる方向から魔物を串刺しにしていた。
セリアは、いつまで経っても来ない魔法の衝撃に、恐る恐る目を開く。
もちろん目の前の魔物は、意地でも手を離すもんかと捕まえたままである。
「…!」
魔法を放った魔物とセリアの間には、金髪の少年が剣で魔法を叩き斬っていた。




