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愛しています

君を愛していた

作者: 有沢唯


―――君を本当に愛していたんだ―――








生まれてから、何かが自分の中で燻っている感覚が常にあった。



ランドリール王国王太子という重責を背負い勉学や武術に励みながら、何か自分の中で欠如した感覚が。




長い時間それに耐えて、気付かぬ振りにも慣れてきた頃…


俺は君を見つけた。






王家主催の夜会で。

その日、デビューを果たした貴族の娘達の中に君を見つけた。


リラザイト公爵令嬢ラヴィニア・フォン・リラザイト。



前世と同じく艶やかな栗色の髪を腰までのばし、これまた前世と同じ明るい茶色の瞳を煌めかせる、そして左目の下に主張する綺麗な泣き黒子。



君を見つけた瞬間に、前世を思い出した。




アオイ…木原青衣


俺が前世で愛した女性。


幼い頃から傍にいた。


泣き虫で我が儘で…可愛い女の子。

成長するに従い、女性としての魅力を存分に開花させた。

絶世の美女でもスタイル抜群でもない青衣は、それでも持ち前の明るさと可愛い笑顔とで周りの男共を虜にしていた。



俺は気が気ではなかった。青衣は俺に好意を寄せてくれていたがいつか離れてしまうのではないかと。


だから、彼女から中学の時に告白された時も本当は嬉しかったのに、そっけない態度でしか返せなかった。だが、辛うじてOKの返事をだし付き合い始めた…。


だが俺は気のきいた言葉ひとつ言えない。不器用な男子だった。


勉強はできるのに、青衣の事を喜ばせる事にはからっきしで。


泣かせてしまった事もある。青衣はそれでも俺を好きでいてくれた。






初めての別れは高校入学の時。俺達は別々の学校に入り、疎遠になった。



彼女は高校でもモテたから、言い寄る奴は沢山いたと聞いた。

それでもプライドが邪魔をしてか、俺は自分から連絡できずにいた。




再会は高校最後の夏休みだった。共通の友達とカラオケや色々な場所に遊びに行き……

青衣はまだ俺が好きだと言ってくれた。



初めて結ばれた時…青衣が初めてではない事にショックを受けた。

でも仕方ない。高校の二年間、離れていたのは事実だし俺も別れたと諦めていたのだから、その間に他の男と付き合ったのは仕方ないだろう。




それからも、何度か別れたり付き合ったりを繰り返した。


その度青衣の彼氏歴は増えたが、それは俺も同じだった。





……そして20才の時。

青衣が結婚した。











俺は友達からそれを聞いて絶望した。もう二度と彼女を手に入れる事は叶わなくなったのだと…


翌年、青衣が出産した。


これも友達から聞いたのだが。もう俺は本当に青衣を取り戻す事はできないと…死ぬまで会えないと諦めた。





だが、運命は本当にいたずらだった。

青衣が出産して間もなく、共通の友達の結婚式で再会する事になる。





俺は二次会のカラオケで青衣への気持ちを込めた歌を歌った。

周りの友達は気付かなかっただろう。


だが、青衣だけは…泣きそうな顔で俺を見ていた。君にそんな顔をしてもらえただけで俺は報われたんだ。








そこからまた長い……生まれてから初めての青衣と会わない長い年月を俺は過ごした。



その頃には俺も29才になっていて結婚もしていた。青衣は25才で二人目を出産し、幸せな家庭を築いている……


はずだった。




ある寒い冬の夜。

突然青衣から電話があった。



会えなくなってから七年が過ぎていた。



彼女は旦那の自分や子供に対する暴力に、離婚する決意をしたそうだ。


でも、母は強しかな?話し方は明るく笑い飛ばすような…そして何よりも俺に甘えるような事は一切なかった。


昔なら甘えて頼ってくれたのだろう声…その電話の青衣は「またみんなで会おうね」と何か吹っ切れた感じだった。



それが何故か寂しかったんだ。



それから半年後。



俺は離婚した。





青衣の為じゃない……、と言えば嘘になるだろう。やっと彼女を手に入れるチャンスがきたのだ。



青衣が別れる時には俺も一人でいたかった。

幸いうちには子供もいなかったし、俺に好きな人がいる事を薄々感じていた妻はあっさりと別れてくれた。








離婚した青衣を知り合いのライヴに誘った。

青衣は子供を引き取って育てていたが、預けて来てくれた。



それから一年ほど…俺達は今までにないくらい、穏やかな付き合いが出来たんだ。









…ただ彼女は決して俺を子供に会わせてくれなかった。



二人でいる時の彼女は

「こんなに幸せなのは初めて」と嬉しそうに笑う。


俺を受け入れてくれる。



なのに何故か子供にだけは会わせてくれない。





……次第に俺は信頼されてないんじゃないか?愛されてないんじゃないか?と疑心暗鬼になり始めた。












そしてそれが限界にきたのだろう。


これまでは青衣が俺を信じきれなくて何度も別れたが、今回は俺が信じられなくなってしまった。


あんなに愛してくれた青衣が愛してくれない恐怖。



今思えば当たり前だ。


彼女には守るべき子供が二人もいたのに。

俺が最優先される訳がないじゃないか。







そして











俺は青衣に理由も告げる事なく別れを伝えた。




そして生涯、もう二度と出会う事はなかった。





二年後、風の便りに聞いたのは。



彼女が友達みんなから素晴らしいと評価を受ける、七才年下の顔も性格もいい男と再婚したという知らせだった。







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