心霊写真
※GL含みます。ご注意ください。
放課後、友人の家へ行くことになった。夕暮れの中、家までの道を二人で歩く。友人の名前は三上澄香といった。美しい黒髪を持っていて、クラスの中で三番目に可愛い。
澄香が言う。修学旅行の写真、見せ合おうよ。
あなた、私に隠れて好きな男子の写真でも買ってるんじゃないでしょうね、と澄香がにやにやと笑った。私に好きな男子なんていないのに。
「好きな男子がいるのは、澄香の方じゃないの」
「ちっ、違うわよ。私、好きな人なんていないもの」
バレバレな反応に私は緩く笑った。私はわかりやすい澄香が大好きだ。
麦茶を飲みながら、澄香の家で澄香が買った写真を見る。私と写った写真、班のみんなで撮った写真、私と写った写真。私と写った写真がほとんどだ。まあ、修学旅行中はほとんど私といたから当然だろう。
「あー、あんまり違う写真買ってないのね、私とゆかり」
「いつも一緒だったからね」
「修学旅行だってのに、彼氏もできなかったものね」
残念残念と言いながら、澄香はカーペットを敷いた床に寝そべった。私は相変わらず写真を見ている。私と写った写真、私と写った写真――
一枚、違うのが紛れ込んでいた。男子生徒の写真だ。
「やっぱり、私に隠れて好きな男子の写真を買ったのは澄香の方だったみたいね」
「え、なあに、それ」
澄香が私の手から写真を取り上げる。そして頭を掻きながら言う。間違ったかしら。そして、続けて言った。ねえ、これ。
澄香は真っ青な顔で私を見た。私は澄香の手元にあった写真を見る。澄香が指し示したところを見ると、男子生徒の首を虚空から現れた手が絞めているところだった。
「これって、心霊写真よね。初めて見たわ」
澄香がそう言ったので、私は頷いた。私も心霊写真は初めて見た。
「これ、雨宮くんじゃないの。ほら、澄香の隣の席の」
私がそう言うと、澄香はこくりと頷いた。これ、どうしたほうがいいんだろう、と澄香が呟く。私も同じ気持ちだった。
結局、雨宮くんに心当たりを聞くことにした。
恨まれているのは、きっと雨宮くんだ。害が及ぶとしても、やっぱり雨宮くんだ。
人の来ない空き教室に雨宮くんを呼び出す。騒ぎになるのは御免だった。多分、雨宮君も同じ事を思うだろう。澄香と二人空き教室で雨宮くんを待った。
「なんだか、告白のために待ってるみたいな気分になってきたわ」
「澄香は大げさねえ」
そんなことを話していると、ドアががらりと開いた。雨宮くんが現れる。
「何の用かな、木戸さん、三上さん」
「あ、あの、これ」
澄香がおずおずと心霊写真を取り出す。気をつけた方が良いんじゃないのかな、お焚き上げとかもした方がいいかも。そう澄香が言うと、雨宮くんはゆるりと笑った。別に、怖くなんてないよ。
一週間後、澄香が憔悴した様子で私に話しかけてきた。
ねえ、あれは、私の腕なのかしら。私、あなたにも隠してたけど、ずっと雨宮くんのことが好きだったの。あの写真だって、間違って買ったわけじゃないのよ。雨宮くんの写真が欲しくって。ほら、昔の話にもあるでしょう。生き霊ってやつよ。私、雨宮くんが振り向いてくれないから、こんな。ねえ、雨宮くんが、この腕、私の腕に似てるって言うの。私、私、本当に――
澄香の言葉を遮る。大丈夫、あれはあなたの腕じゃないわ。
翌日、放課後、空き教室で雨宮くんと話す。私はいらだった調子で雨宮くんを問い詰める。
なんであんなことを言ったの、あれが澄香の腕だなんて。
私がそう言うと、雨宮くんがしれっとした様子で答えた。そうだな、あれはお前の腕だ。
「俺を殺したいほどに憎んでいるんだろう? 昨日はベッドの中で絞め殺されそうになった」
そう言うと、雨宮くんは、いや雨宮は首に巻いていた包帯を取った。そこには、首を絞められた跡が残っていた。どす黒い、跡。それは私の手のサイズと一致するように思えた。
「原因は三上さんだな。お前、三上さんのことが好きなんだろう?」
友人ではなく、性的対象として。雨宮が意味深げに笑う。私は唇を噛んだ。
真実だった。私は、木戸ゆかりは三上澄香を愛していた。小学校の時から、それは変わらない。けれど、一度も思いを伝えようと思ったことはなかった。私は友情をそれなりに大事に思っていたし、今までの関係を壊すよりは今まで通りの方が良かったからだ。それに澄香の中で私は盤石の位置にあった。私が彼女の中では一番だったのに。なのに、この男は。私の気持ちを、笑った。澄香の中で一番になった。かっと目の前が赤くなる。
「何年もかけて仲良くなって、ぱっとでのクラスメートの男子に惚れられたらたまらないよな」
鳶にあぶらげさらわれたってやつかな。だから、お前は生き霊となってまで俺のことを呪いに来た。生き霊になってる自覚があるのかは知らないけどな。
私は言う。
「そこまで分かってたのに、どうしてあの子の腕だなんて言ったの。そんな、でたらめ」
「嫌いだからだよ」
雨宮が言う。
俺は三上澄香が大嫌いだ。俺の好きな奴に好かれているというのに、そんなこと当たり前と言ったような顔で笑っている。そんな傲慢な奴、好きになれるはずもないだろう?
雨宮が歪んだ笑みで笑った。
「なあ、俺がどうして、あの腕がお前の物だと分かったか教えてやろうか」
私の言葉を待たずに、雨宮は言った。
俺が、殺されたいぐらいにお前のことを愛してるからだよ。
私の手を取り、自分の首に当てる。私は、動けなかった。
「なあ、俺を殺しに来るなら生身で殺しに来いよ」
お前の体温に触れながら逝けるなら、満足だ。
そう言って雨宮は綺麗に笑ったのだ。
オチはお焚き上げされました。