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第五話 その12

 

 『……な……!?』


 目の前の敵の顔が驚愕に歪んだ。

 敵の手を掴んだ東吾の左手が、動く。

 それをひねり上げ――握り潰した。


 ぶちりっ。

 血煙が上がる。


 『ッ!!? ギャオオオーッ!!』

 「――ヴヴヴヴッ! ヴヴシャオオオオォッ!!」


 ヴァンピールスレイヤーを持つ右手が、レヴィアムの顔面を殴りつけた。


 地面がヒビ割れるほどの、踏み込み――拳は音の壁を突き破り、衝撃音を放つ。

 その後に聞こえてきた肉が抉れる、ぐちりという音と共にレヴィアムがきりもんで吹き飛んだ。


 『……グゲェッ!?』


 壁にめりこみ、そのまま突き破っていく。

 血の跡を残し、壁に大穴が開いた。粉塵が舞い上がる。


 「ヴヴヴヴ……!!」


 どくん、どくん――と、鼓動の音が、聞こえてくる。

 東吾の視界が真っ赤に染まっていた。

 瞳は爛々と紅い光を放ち、額にはいくつもの血管が浮き上がっていた。


 「フウウゥゥ……! ヴシャアアッ……!」


 吸血鬼の発する奇声が自然と喉から漏れてくる。

 斬られた腹も、今殴りつけた拳も、痛みを発していた。

 しかしすぐに気にならなくなる。頭の中で大量に血が巡っているのを感じていた。


 「ハアアァァ……! ……ヴヴ……。……」


 東吾は後ろを振り返った。

 気絶したリィーンは壁にもたれかかり、目を閉じていた。

 東吾はそばに転がっていた杖を拾い上げると、屈みこみ、それをリィーンの手に持たせてやる。


 「……リィーン。ちょっト待ってテくれ。悪イ……」


 そう言って、ゆっくりと立ち上がった。

 体の熱がどんどん上がってくる。


 吐く息が、白い。

 全身から蒸気が立ち昇っている。


 熱い。

 体が熱い。


 「……なんダこりゃ。あちイ、目の前が赤イ、牙もそレにちょっと声も……。今の誰だ、ニカじゃネえし」


 じっと手を眺める。

 東吾の手には、指先から手首、腕に至るまで複雑な紋様が浮かび上がっていた。


 白い線――もう光は消えているが、真白いラインが肌の上を踊っている。

 直線、曲線、円。

 様々な形を描きながら、全ては一本の線で繋がっていた。


 「……? セフィ、なンだっけ。どっかで聞イタような声……? どコダっけ、確か……ここに来る、前……? いやアれ違う、えエと」


 と。

 自分のすぐ真上に、何かが出現してくるのを感じた。


 来る。

 そこから。


 『――シャイヤアアッ!!』

 「ッヴッ!」


 東吾は、空中に突然出現したレヴィアムの一突きを見もせずにかわした。

 そして敵の胴体を掴み。壁に思い切り、打ちつける。


 めり込む。

 大きな亀裂が走る。

 轟音と共に、堅牢な石壁が破れる。


 そのまま東吾はレヴィアムを押し込んで、そこにあった部屋の中へ突進していく。


 『ギャアッハァッ!?』

 「ヴゥオ゛オオオオオ゛ーーッ!!」


 獣にも似た咆哮を轟かせ、石の壁を次々にブチ破っていく。

 一枚、二枚、三枚――四枚目の壁を抜いたところで、蹴りを入れてやった。

 盛大な破壊音を残し、レヴィアムが吹き飛んでいく。


 「――ヴオオ゛ッ!」


 手をかざし、掌に力を込める。

 そんなことが最初からできると知っているかのように――掌から、黒い光が飛び出した。


 空気を割り、漆黒の光線が、壁の向こうへ消えたレヴィアムに向かって放たれる。

 離れたところで光が収束して、爆発した。床が震える。

 しかし。


 「ヴ。……あっ外シた」


 今の一撃が敵に当たらなかったのが分かった。相手はどうにかしてかわしたらしい。

 また、相手がすぐ近くに現れようとしているのを感じた。


 背後。

 自分の目で見て何があるのかすぐに分かるように、それが理解できる――


 『――ウリヤァーーッ!!』

 「ヴオラァ!!」


 後ろから来た不意打ちを剣で受け止め、弾き返した。

 火花が散る。


 『シャアアアーーーーッ!!』

 「ヴオオッ!!」


 残像を残す高速の刃が、東吾へと降りかかってくる。

 上から、下から。右から左から。


 無数の連撃。剣撃の雨。

 その全てを、東吾の振るうヴァンピールスレイヤーが凌いでいく。


 眼前を舞う二本の剣の、速度が上がる。

 上がり続ける。


 鉄の塊が弧を描き、風を裂いて、目には見えなくなった。

 目の前が、剣が打ち合い舞い散った火花で満たされていく――


 「――ヴォアアアアッ!!」


 東吾の放った鋭い一閃がそれを終わらせた。

 強引に叩き斬り、バキリと音を立てて――レヴィアムの剣が砕け散る。


 『! ヌウアッ!?』

 「ヴオア゛アーッ!」


 返す刀で、レヴィアムを横薙ぎに切り裂いた。

 剣の軌跡を追いかけて、炎が燃え上がる。


 『ゴガッ!? ガ、ギャアアアアーーッ!!』


 火に巻かれたレヴィアムが奇声を上げた。

 よろめき、一歩、二歩と下がっていく。

 だが炎はそのまま燃え上がることはなく、やがて鎮火した。


 『ッガッ、ゴ、ハアッ……! ウ、ガ……!』

 「フウウゥ――」


 ヴァンピールスレイヤーの柄を取り込んでいる右手が、どくん、とまた脈動した。

 東吾の裡に、さらに力が漲ってくる。

 びしびしと音を鳴らし、口から生えた牙がさらに大きく延びていく。


 「――ヴヴヴヴオオオオアアアアーーッ!!」


 全身から血管が浮いた。体の熱が膨れ上がっていく。

 高揚し、力が溢れていく。

 零れそうになるほどに。


 『! ま、まさかッ!? 貴様、わ、私を……私を喰らってグエッ!?』


 東吾の一太刀がレヴィアムをまたも切り裂いた。

 火が上がり、レヴィアムが大きくたたらを踏んだ。立ったまま炎に包まれていく。


 『うあ、ウアアアーッ! あ、ウガ、ち、力がッ!? 力が消えていくッ!? ギャウアーーッ!!』


 強大だった敵が、東吾の前でもがき弱っていく。

 反対に東吾の体はさらに変異を続け、力が増大していく。


 髪が伸びはじめ、肌には紋様の下に太い血管がいくつも浮かび上がり、爪が鋭く、眼は裂けんばかりに広がっていく。

 ぶしゅっ、と腹から血が噴き出した。上がりすぎた血圧に薄く張ったばかりの膜が耐えられず、血を漏らした。


 「ヴヴヴヴゥ!」


 また声が聞こえてくる。


 

 ――喰え――殺せ――

 ――こいつを喰い殺せ――

 ――欠片も残さず――


 

 「――ヴア゛ア゛ア゛ア゛ーーッ!!」


 それに急き立てられるように、東吾は目の前の男に襲いかかった。

 いくつも剣を浴びせ、倒れたところに腕に長い牙を突きたて、噴出した血潮をすすり出す。


 『ギイッギイイイッ! ギャガッ!? ギャ、や、やめ、やめろォッ!!』

 「ヴオオッ! ヴヴヴ! オオオオ゛!」

 『ギャアアアアーーーーッ!!』


 東吾の下で、レヴィアムが逃れようと暴れた。

 しかしもはやそれは不可能だった。東吾の力は喰らったぶんだけ強まり、そして相手は力をどんどん落としていく。

 レヴィアムは押さえつけられたまま、血が奪われていく。


 『ウアアッ、アッ、ひっ、あア゛! シャ、シャアアッ!!』


 逆に血液を取り戻そうと、レヴィアムが東吾の肩に咬みついてきた。

 そこから、さっきまでなかったはずの東吾の血液が噴き出す――が。


 東吾の手が伸びた。

 レヴィアムの顎を掴み、ぼきゅり、と握り潰す。


 『ギョベッ!? ギュゴボオーーッ!?』


 血の泡を吐いて、のたうちまわる。自慢の牙が粉々に砕け散っていた。

 東吾が、一方的に血と力を吸い上げていく。


 完全に逆転していた――捕食者と、被捕食者の関係が入れ替わっていた。


 「ヴヴヴヴ! ヴヴヴ!! ヴヴヴヴーーッ!!!」

 『ギャ、ギャ、ギャ……!! ぎゃ、ギャオオッ!』

 「!」


 すとん、とレヴィアムが自分の影に落ちた。

 一瞬の隙を突いて姿を消す。


 「ヴ。……あっくそ! 逃すカ!」


 東吾はばねのように跳ね起きて、周囲を見回した。

 勘、というよりも、確信に近い反応を拾い上げる。

 出てくる場所は――ここから三つ壁をまたいだ先。


 「ドうリャア!」


 壁を思い切りぶち壊し、東吾はそこに向かって真っ直ぐに突き進んだ。

 口に残った敵の血をぶっと吐き出し、厚い壁を破壊して、レヴィアムが現れるはずの場所に一気にたどり着く。

 その空間が薄く歪む――出てきたところを、東吾の剣が一閃する。


 『――シャゲエエーーーーッ!?』


 レヴィアムが悲鳴を上げた。

 背中からバッサリと斬られた吸血鬼が、床に血をぶちまけて転げまわった。


 『ウアアッ、ヒッ、ヒイイ!? ヒ、ヒ……! キ、キエエエッ!!』


 レヴィアムが必死に手を振るった。

 いくつもの黒い光が東吾に向けて放たれた。


 東吾の手の先に黒く透けた壁が生まれ、それを受け止める。そして簡単に握り潰す。

 さらには逆に、はるかに大きく太い漆黒の光を撃ち返してやる。

 ボッ。


 『グハァッ!!』


 レヴィアムのわき腹に風穴が開いた。

 まるまるこそぎ落とされ、そこから大量の血が溢れかえる。


 『ガ、カハアッ!? ば、馬鹿な!? なんだ、一体なにが起きた……グゥギャア!』

 「ヴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!」


 東吾の指先から放たれた無数の光線がレヴィアムを射抜いていく。

 たまらず、レヴィアムが黒い障壁を張った。掲げた手の先に、ヴンと薄く透ける壁が現れる。

 しかし。


 『ギャウアーーーーッ!!』


 東吾が放ち続ける攻撃が、易々と壁を貫いていく。

 やがてもろいガラスが割れるように、障壁が粉々に砕け散った。

 レヴィアムは通路を己の血液で血まみれにしながら転げまわり、また消失する。


 「ヴヴッ! 逃がさネえっつってンだろがァ!」


 東吾が走り出す。

 地面が爆発を起こしたようにえぐれ、遠くに見えていた行き止まりまであっという間に到達する。


 「ッヴォりゃあっ!!」


 そのまま行き止まりの壁を、ばご! と突き破った。

 すぐにまた壁を破って追いかける。東吾は轟音と粉塵を後に残し、目にも止まらぬ速さで『サペリオン』を縦横に駆けていく。


 研究室らしき部屋を強引に抜けると、通路の先にレヴィアムが現れたのが見えた。


 「ドラァ!」


 瞬く間に肉薄し、その頭を殴りつけた。

 吸血鬼は激しく地面にめり込み、その端正な顔がめちゃくちゃに破壊される。


 『おブェッ!?』

 「ヴシャアアアッ!!」


 勢いで体が跳ね上がったところを、ヴァンピールスレイヤーが追い打ちをかけた。

 風を斬り、刃が容赦なく敵をメッタ斬りにしていく。


 わずかに遅れて、その背後の壁にまで爪跡が生まれる。剣の軌跡が大気を割り、真空となって壁を穿っていた。

 そして一際大きく、炎が上がった。レヴィアムの片足が斬り飛ばされて灰となる。


 『ア゛ア゛ア゛ア゛アーーーーッ!!!』


 再び、敵が床を転がる。

 東吾は追いついて手を伸ばし、襟首を掴んで持ち上げた。


 「ヴオオオォッ!!」


 腹に一撃。

 必殺の力を込めた拳が、レヴィアムのボディに直撃した。


 拳は黒い風を纏っていた。空気を震わせ、レヴィアムの服の背中が大きく弾け飛んだ。


 間髪入れず。

 東吾の剣が、消えた。


 「――ヴゥオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オオオーーーーッ!!!」


 真横からの刃は、その腹を半ばまで両断するほどに。

 深々と――レヴィアムの腹を切り裂いていた。

 

 

 

 

 

 ……東吾は敵を裂いた剣を、ゆっくりと引き抜いた。

 血が飛び散り、白い床を汚す。


 掴んでいた手を離す。

 敵の吸血鬼は力なく地面に伏せ、血反吐を吐いた。


 『ゲペッ、ゲ、ガゴ……!』

 「……」


 レヴィアムはずるずると地面を這い回り、壁にべっとりと血の跡を残してすがりつく。


 『ヒ、ヒイィ、ヒ……!』

 「……」


 もう、レヴィアムからはほとんど火は上がらなかった。

 ヴァンピールスレイヤー――そして直接喰らった敵の血を通して、東吾は全てを喰らってしまった。

 恐ろしいほどの力の奔流が、自分の中を巡っていた。


 『ア、アア、ア……! やめ、ヤメロッ、もうヤメロ、頼む、ヒググゥ……!!』


 あれほど強力だった吸血鬼はあっけなく、無様に命乞いをはじめる。

 

 ――終わりか――

 ――あらかた喰い尽くしたな――そう大した量ではなかったが――

 

 声が聞こえてくる。


 「……。おえ」


 東吾はレヴィアムを見下ろし、それから口のものを吐き出した。

 痰のような血の塊が地面に落ちる。長く延びた牙からは、鮮血が滴っていた。


 「グエえ、気持ちわる……! なニやってんだ俺、こんなオッサンの血ヲ吸って……」

 

 ――吐くな――もったいなかろう――

 

 「うるせ、黙ってろ。……つーカ誰なンだお前。どッカで聞いたよーな気はするけド」

 

 ――我のことは気にするな――ただ汝は喰らえばいいだけだ――

 

 「ああ? なに言ってンだ、ってあ!?」


 またもレヴィアムが影に沈みこんでいく。

 再び移動した――今度は、かなり離れた場所。

 そこは。


 「! あっ!?」


 東吾はレヴィアムが移動した先になにがあるのか知っていた。

 そこはさっきの場所。

 気絶したリィーンを置いたままの――


 「くそっ油断した! やべ、間に合わネえ!?」


 走って向かうと間に合わないかもしれない。それよりは先に、レヴィアムが向こうに到達する。


 「えっと……! う、ヴオリャ!」


 直感だった。

 東吾は自分の影に飛び込む。ずぶ、と影の世界に入り込んだ。


 暗い――暗黒の世界が目の前に広がる。

 まるで水の中のようにたゆたう、影の世界。


 「ええとエエと!? た、たぶんこっち!」


 泳ぐように、東吾はリィーンのいる場所へと向かう。

 少し先に人影のようなものが見えた。


 「あ、いた! ちクしょう逃すカこら、フンフン!」


 満たされた影を手で掻き、バタ足で東吾は追いかける。

 しかし慣れていない影の世界では、向こうのほうがずっと早い。


 「あーッ!! 待て待てチョっと待テよ!? しまった俺泳ぎ遅いんだっタ!」


 ぎゃあぎゃあわめきつつ必死に後を追うと。

 前に光が見えた。

 そこに向かって進み、水の中から上がるように飛び出す。


 「――ぷはっ! り、リィーン!!」


 振り返る。

 だがそこにはもう、先にたどり着いたレヴィアムが折れた剣をリィーンの首筋に突きつけていた。


 『……フ、フフ、フフフゥ……! う、動くな、動くんじゃあないぞッ!?』


 レヴィアムがこちらを見て、にやりと笑った。


 『ふ、フふ。何もするなよ、この娘の命が惜しければな!』

 「て、テメエっ!」

 『ハ、ハハハ……! う、動くなよ……!』


 リィーンを人質に取り、ニタニタと汚く笑う。

 顎をも破壊されたレヴィアムは、端正な顔をひどく醜く歪ませすでにボロボロであった。


 『ッヒヒヒッ……! か、勝てばよかろうなのだッ……貴様の強さは予想外であったが、まだ私は死んでおらぬ。今はこの娘を盾にとり、退かせてもらう……!』

 「この野郎!!」

 『動くなァッ!』

 「くっ……!」

 『その場に跪けェッ! 変な真似はするんじゃないぞ! フハハァ!』

 「……」


 東吾は押し黙り、レヴィアムを睨みながらその場に座りこんだ。

 レヴィアムが下卑た笑みを浮かべてこちらを見てくる。


 『ヒハハァ……! ずいぶんとやられてしまったが……なぁに、私は喰らえばまだ力を取り戻す……! また獲物を探せばいいだけのことよ』

 「……」

 『この敗北、忘れぬぞ! この娘は連れていかせてもらう。私にかかせた恥は必ず返す、次こそは貴様を殺してくれる……! クックック……!』

 「……」

 『ウシャハハハァ! ではさらばだ化け物ォ!』

 「……オラァ!」

 『!! グェッ!?』


 東吾が自分の影に向けて、剣を突き立てた。

 びくん、とレヴィアムの体が震える。


 影を抜けて――ヴァンピールスレイヤーが、レヴィアムを後ろから一突きにする。

 その胸に、背後から剣が突き出していた。


 レヴィアムの手から、折れた剣がからん、と落ちる。


 『ゴホォッ!? が、ギッ……! オ、オオ……!』


 よろよろと、吸血鬼が地面に崩れ落ちた。

 東吾は立ち上がり、そちらに近付いていく。


 「てめえコイツ。リィーンを人質に取るたぁいい度胸してんな」

 『カッ、カ……あ、うあ』


 リィーンとレヴィアムの間に立ち、東吾は剣先を向ける。


 「覚悟しろ」


 そう言って、見下ろした。

 レヴィアムは絶望的に顔を歪め、


 『……ああ……! やめ、ひい、やめろッ! い、命は、命だけは……!』


 わたわたと逃げようとしはじめる。

 最初の物腰はどこへやら、その姿はあまりにも惨めであった。


 「……。分かりやすイ悪党だなお前……。テンプレかよ」

 『た、頼む! 殺すな、殺さないでくれェッ!? 嫌だ、ひい、ひいいッ!!』

 「往生際わりイぞ。俺だって別にやりたかネえけど……お前、相当殺したダろ。だから許さん」


 東吾は剣を振りかぶった。

 目の前の敵を両断しようとして――


 『ッシャアッ!』


 レヴィアムが東吾の顔に向けて、ぴっと自分の血を振りかけようとした。


 「ほい」

 『!』


 軽く手で防ぐ。


 「……。すげえ、見え見えすぎル……。目潰しとかいまさらかよ。バカかお前」

 『うああ! やめろ、やめろ、ああーーーーッ!!』

 「――ゥ゛オラァッ!!」


 ヴァンピールスレイヤーが一閃した。

 肩から入った剣筋は、大した抵抗もなく、獲物を真っ二つに切り裂いた。

 


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