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第五話 その8

 

 

『……げえっ!?』

 

 東吾の右手こと、モニカが急にうめいた。

 

『な、なな、なんでだぁ!? おいおいなんでアイツが……!』

「わっ。なんだニカ、どうした!?」

『うっそだろぉ!? ぎゃあぎゃあ騒いでたやつって、アイツだったのかよ!?』

「し、知ってるのか? あの吸血鬼、っていうか侵入者って、あれか!?」

『知ってるも何もねえよ!! アイツなんでこんなとこにいやがんだ、ついに頭がイカレやがったのか!?』

 

 なにやら相手を知っているらしいモニカがわめいている。

 それを耳にした目の前の相手が片眉を跳ね上げた。少し不思議そうにして首を傾げる。

 

『むう? どこかで聞いたような声だな。覚えがあるが……それより二人の声がする、とは如何なることか?』

『こ、ここ、このやろぉ……! いまさらあたしの前に出てくるたぁ……!!』

『……。うーむ、やはり新種の召喚生命らしいな。なんとも珍奇なものよ……。まあいい、目的が見つかったことを良しとしよう――化け物よ、我が名はレヴィアムという。姓はもたぬ、すでに捨てたゆえ。会うのはこれで二度目だな?』

 

 右手に持つ剣をぴっと優雅に振り、レヴィアムと名乗った男が薄く嗤う。

 

「え?」

『覚えておらぬか。そうだな、そちらにはそうかもしれぬ……数多の吸血鬼の顔などいちいち覚えておれぬだろう』

「な、なに言ってるかよくわかんねえけど。お前が、例の侵入者ってやつか!?」

『ああ、先ほど建物が喋っておったな。優れた技術だ……オルドビシアにはなかった。あのようなものがあれば実に便利であろうな』

 

 そう言って、レヴィアムが剣を手に無造作にこちらに近付いてくる。

 東吾は剣を構え、片手からゴーレム腕を引き出した。

 

「! て、てめえやんのか!」

『そのつもりでここまで来たのだ。化け物とそれを使役する魔導士――そなたらに会いに。そして喰らいに。フフ』

 

 レヴィアムの口角が釣り上がり、鋭い牙が露になる。

 その口の中は真っ赤に染まっていた。ぬるりと垂れた血の滴が、白い牙から滴って床に落ちる。

 

『そなたらも美味そうだ……! 魔力ある人の魂は、思ったよりも甘露であった。どうやら持つ力こそが味わいに一番大事であるらしい……!』

「……! う、うお……!?」

『ここでの饗宴は貴様らをもってメイン・ディッシュとしようかァ。くははは……シャアアアァッ……!』

 

 不気味な奇声を上げ、レヴィアムが大きく牙を剥いた。

 東吾は目の前の敵から目線を外さず、後ろのリィーンに声をかける。

 

「リィーン、リィーン! 大丈夫か!? 例のヤツが来ちまったぞ!?」

「……う、いたた。ちょっと足をひねったみたい。ゴーレム、わたしを抱え上げて!」

 

 命令に従ったゴーレムが一体、リィーンの体を持ち上げた。

 

「どうするよ!? やるか、逃げるか!? 言ってくれ!」

「う、うん。なんだか不気味だわ……! さっきの放送、たった一人でここを攻めてるなんて……どこまで本当かわからないけど」

「どうすんだ!? こっちに向かってくるぞ!」

「と、とにかく気をつけて! 無理しちゃだめ、様子を見ながらよ! ゴーレム、あの吸血鬼を攻撃!」

『『ヤッ!』』

 

 控えていた二体のゴーレムが、幽鬼のように近付いてくるレヴィアムに向かって突進した。

 巨大な質量を持つ筋肉の塊が、うなりを上げて突っ込んでいく。

 

『『ィィヤアァーー!!』』

『フン。肉のゴーレムか……いまさらこんなものに用はないのだ』

『『ッヤッ!?』』

 

 レヴィアムの体が、地面に向かって消失した。

 自分の影の中に沈みこみ、姿を消す。

 目標を見失ったゴーレムが急制動をかけて立ち止まり、あたりを見回した。

 

『『ヤッ? ヤッ?』』

『――こちらだ、醜いデカブツども。動いてすらおらぬ』

『『!』』

 

 再び、同じ場所に蜃気楼のように現れる。

 そして同時に――持っていた剣を横薙ぎに一閃させた。

 

『キエエイッ!!』

『『ヤアアアアッ!?』』

「あっ!?」

 

 両断された二体のゴーレムたちが、胴体から真っ二つにされた。

 上半身が地面に転がり、残った下半身が力を失って崩れ落ち。

 ゴーレムは砂に還っていく。

 

『……ぬるい、な。今の私には相手にならぬ。動きもひどく遅くなったように見える』

「な、なによ今の!? 自分の影に入ってっ!?」

 

 見たことのない現象だった。

 影の中を渡ることができる吸血鬼でも、自分の影しかない場所に入ることなどできない。自分がいなくなれば影は消えてしまうからだ。

 

『不思議なものだ。力が漲れば漲るほど、思いもよらぬことが出来るようになっていく。フフフ……素晴らしい』

 

 一瞬でゴーレムを屠ったレヴィアムが、にたりと恐ろしい笑みを浮かべた。

 

『そなたらを喰えば、今度はなにが出来るようになるかな? ウハハハハ……!』

 

 近付いてくる。

 急ぎもせず、ゆったりとした足取りで。

 

「……なんだこいつ……!? ふつうの吸血鬼じゃねえのか!?」

「あ、い、いけない、こっちに来ちゃう! トーゴ、下がるわ!」

「え、逃げるのか? でも……」

「相手が分からない! 正体不明よ、危険だわ! 手の内が見えない相手と戦うより他と合流して戦ったほうが安全よ!」

「そ、そうか。そらそうだ」

「ゴーレム、走って!」

『ヤッ!』

 

 リィーンを担いだ残りの一体の肉ゴーレムが、背を向けて軽快に走り出す。東吾もそれにならって駆け出した。

 

「逃げるのはいいけど、そっからどうすんだ!? 他と合流っつっても! それにあいつ壁ブチ破ってたぞ、封鎖の意味ねえじゃん!?」

「そうだけど、今のはさすがに『広域探知』が捉えてるはずよ! とにかくエントランスの通路まで行けば、きっとそのあたりに防御陣地がある!」

 

 自分たちが走って来た道を、二人は急いで戻っていく。

 リィーンの部屋の前を通り過ぎ、下へ降りる階段のある角へ向かい、そこを曲がった。

 

「こっち! 相手がもたもたしてる間に……。……っ!?」

 

 先を行っていたリィーンが、階段の下を見て息を呑んだ。

 

 

 そこは――血みどろになっていた。

 

 

 階段の踊り場は一面、人の血で真っ赤に染まっていた。

 まるで人形のように砕け散った人間の残骸が、無造作に放り捨てられている。

 普段は白く灯っている壁のライトにはべっとりと血が降りかかり、赤く、周囲を照らしていた。

 

「ひっ! あ、うっ……うそ……!」

 

 その死体の集団は、みな鎧を着ていた。

 兵士、のようであった。

 

「げぇ、うえっ!? な、なんだこれ、こ、こいつら……さっき部屋に来た!?」

「ひ、ひどい……!! こんな、……あ……!?」

 

 兵士たちの中に。

 一人、見覚えのない人間が血溜まりに倒れ伏していた。


 リィーンが着ているような服を着た、――まだ若い、一人の女の子。

 

「あ……!! ……う、そ……!!」

 

 居残っていた学生の少女だった。

 目を見開いたまま、ぴくりともしない。

 すでに事切れているのは誰の目にも明らかだった。

 

 

『――なんだ。逃げぬのか?』

 

 

 近くで声をした。

 振り向くと、吸血鬼の男――レヴィアムがそこにいた。

 

「!? いつの間に……!!」

『ああ……そこの連中か。ついさっきな。兵士どもには少々悪いことをしたな、食欲もわいてこない者どもだったのだが。私の食事を邪魔しようとしたものでなァ……』

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべながら、レヴィアムが言う。

 

「……て、てめ、これ、テメエがっ……!?」

『まだ若すぎたが、そう悪い味ではなかった。欲を言えばもう数年寝かせたほうがより美味かっただろうがな』

「……!! この、てめえっ……!!」

 

 東吾の頭に思わず血が上った。目の前の敵に向かって、剣先を向ける。

 しかしリィーンがそれを制止した。

 

「だ、だめトーゴっ! い、今は、逃げるの! 合流を優先するわ!」

「リィーン!? でもコイツ、この野郎! よくもこんな真似っ……!!」

「だめっ!! 今度はわたしたちがこうなりかねない! 相手はおかしな技を使うわ、今だってどうやってこっちに追いついたのかもわからない!」

「……」

「ここを降りるわ! あまり見ないようにして! 行くわ、ゴーレム!」

 

 リィーンを乗せたゴーレムが、血に染まった階段を下りていく。

 

「……くそっ!」

 

 東吾もまた無残な光景から目をそらしながら、急いで階段を駆け下りた。

 リィーンの部屋のあった四階から三階へ、三階から二階へ。ゴーレムの後を追い、一段抜かしで東吾は階下へと下りていく。

 そしてエントランスへ通じる一階まで降りると。

 

「!」

 

 そこにも死体が転がっていた。

 魔導士らしき人間が一人、砕けた壁に半ばめり込み息絶えていた。

 周囲には戦った跡が残されており、高熱で溶けた壁が至るところで煙を吹いている。

 

「だ、ダイアール第三座魔導士……!?」

 

 リィーンがはっと口に手を当てて死体を見ていた。

 

「だ、誰だ!? ひでえ……!」

「わ、私の部隊の、三番目に偉い人……! うそ、そんな」

『――そこの者は、なかなか悪くなかった。多少はてこずったぞ』

 

 道の向こうから声が聞こえてくる。

 

「え!? な、なんでだ!?」

 

 レヴィアムが、通路の向こう側から歩いてきていた。

 階段はすぐ後ろだ。一体どうやったのか、レヴィアムはすでに一階にまで降りてきていた。

 

 その腕には、もう一人――女性の魔導士の姿がある。

 もう死んでいるのか、ぐったりとして動かなかった。

 

『フフ……。シャアアッ……!』

 

 レヴィアムの口が大きく開き、女魔導士の喉に長い牙が突き立った。

 溢れ出した鮮血が、ずぞ、と音を立てて吸われていく。

 

『ズッ、ジュルッ、ズズッ――ハアアアァァ……! 満ちる、満ちるぞォ……! 力が満ちるゥ……!』

 

 物言わぬ死骸から血を喰らい、レヴィアムが喜悦の色を浮かべる。

 そしてひとしきり吸い上げると、ゴミでも放るように犠牲者の体を投げ捨てた。

 

『ウフハハハァ……! そらどうした、そなたらは逃げるのだろう? クハハ……!』

 

 狂気を目に宿した吸血鬼が、再びゆらり、ゆらりと歩み寄ってくる。

 

「こ、このヤロウ……!」

「っだ、だめだってばトーゴ! もうあの人は死んでる! 逃げるのよ、有利な状況で戦うの! こっち!」

 

 ゴーレムの上からリィーンが手を伸ばし、東吾の服のすそを引っぱった。

 だが、東吾は剣を構えて、迫ってくる敵を睨んでいた。

 

「!? トーゴ! 早く来て、こっちよ! 一旦退却して……!」

「……。いや、リィーン。こいつ、置きっぱなしにしていくとたぶんまずい。こっちを追いかけながら……もっと、殺す気じゃねえか」

 

 その男――レヴィアムの口からは、犠牲者から吸い上げた血が滴っていた。

 レヴィアムは東吾を眺めて、より笑みを深くする。

 

『おや……分かったか?』

「なんとなく。お前さ、俺らを逃がさないと思えばできるんじゃねえか? 余裕で追いついてるし」

『クフフゥ。そうだな……だが他にも目移りしてしまってな。最後の一人まで喰らえば、いずれ気様らに辿りつくことになる。それはそれでかまわぬ、なァ』

「……むちゃくちゃなやつだなテメエ……。吸血鬼がなに考えてるかなんて俺は知らねえけどよ」

『奇遇であるな。私の場合は純粋な食欲だが、他の者の考えは私にもいまいち理解できぬな』

「なに言ってんのかわかんねえよ。それに俺は今日昼メシたっぷり食ったばっかだ、お前の食欲なんか知るかボケ」

 

 手元のヴァンピールスレイヤーを握り直し、東吾はレヴィアムに相対する。

 

「トーゴ!! だめ、こっちに来てってば! 戦っちゃだめ!!」

「あー大丈夫だリィーン。どうせ一人だろ、正体不明だろうがなんとかなる。この剣で斬れば燃える」

 

 リィーンの声を聞かず、東吾は逆に相手に向かって近付いていく。

 右手がぴりぴりと痺れて、モニカがどこか嬉しそうな声を上げた。

 

『いーじゃんやれやれやっちまえ! このタコそんな大したやつでもねえって、今日っつー今日こそぶっ殺しちまえトーゴ!』

「ニカ、お前やっぱ知ってんだなコイツのこと。故郷で会ったことあるのか?」

『うっせ! んなことよりやり方覚えてんな、無意味に力むんじゃねーぞぅ!』

「力を抜け、ね。よーし」


 以前に言われたように、肩から無駄な力を抜く。わずかに腰を落とし、手首を柔らかめに。

 すると、剣先がぴたりと静まる。

 自然と意識が目の前の相手に集約していく。


『やる気になったか。フフ』

「……」


 相手が、静かに近付いてくる――ろくに剣も構えずに、無防備に。


 東吾の間合いに入るまで、あと五歩。

 油断しっぱなしの姿だ、ニタニタ笑ってるだけだ。


 あと三歩。

 まだ構えようとしない、こちらの速さに気づいていないのかもしれない。


 あと一歩。

 やれる。たぶん一撃。


 あと――


 

「――ぅおらぁっ!」


 

 地面を爆発的に跳ね、東吾の体が霞んだ。

 ヴァンピールスレイヤーは狙い違わず、一瞬で敵の首を刎ね飛ばそうとして――


 

 ――火花が、目の前で散った。


「!? なっ!?」


 金属と金属が、ぶつかりあっていた――東吾の剣と、相手の剣が。


『……む? この程度であったか?』

『え゛っ。ありゃっウソっ?』


 東吾の剣が受け止められていた。

 構えもしていない状態から、易々と。


『――ふっ!』

『あヤベッ!?』

「!!」


 力任せに押し返される。

 相手の剣が、見えなくなった。


「……がっ!?」


 体に響いた衝撃に、東吾の喉から勝手に声が漏れた。

 そのまま弾き飛ばされるようにして、地面を転がる。


「う、……ぐっ!? う、くそ! あっ!?」


 すぐに立ち上がろうとした東吾の体が、がくん、と揺れた。

 うまく立ち上がれない。

 何が起きたのかを確認しようと、東吾の目線が下を向いた。


「はっ!? ……な、なんだこれ!?」


 ……やられていた。


 東吾の胴体が、半分ほど寸断されていた。

 血は出てこないが、大きな刀傷が――真っ二つに切り裂かれかけた跡が残されている。


「う、うおおお!? なんじゃこりゃあ! わわ、か、かぱかぱする!?」


 真横に倒れてしまいそうになる上半身を強引に押さえて、東吾はあわてて立ち上がった。

 しかし相手は一瞬で間を詰めてくる。

 目前で大きく振りかぶり、さらなる刃が東吾に襲いかかった。


『シャイヤァアアーーッ!!』

「! お、おああっ!!」


 左手の肩から生やした巨大な腕が動き、攻撃を受け止めた。

 人差し指と中指の間から刃が通って、半ばまで簡単に斬り裂かれる。


 だが同時に。

 右肩から出現した剛拳が、真正面から敵を打ち抜こうとして――


『ゥ遅いィッ!!』

「うっ!?」


 そちらも、返す刀で斬り飛ばされた。

 さらに敵のもう片手が歪んで見えたかと思うと。


 すさまじい一撃が――

 東吾の腹に、決まった。


「――!!??」


 黒い風を帯びた掌底の一撃だった。

 足が地面を滑るように吹き飛ばされ、東吾は壁にぶち当たる。そのまま半ばまでめりこんだ。


 服の背中が大きく爆ぜた。後ろで、壁が砕ける音が聞こえた。

 硬い壁に、亀裂が放射状に走る。


「……! あ、が……!!?」


 東吾の膝が――折れた。

 地面に倒れる。


「か、はっ!?」


 目の前がチカチカする。

 意識が飛びそうになる東吾の上から、声が降ってきた。


『シャウウゥ……おかしいな。貴様はもっと速かったはずだが? いや、私が成長したのか。もっともっと速く』

「な、んだ、今の、あ、ぐ……!」


 ひどい衝撃だった。

 威力が体の中で乱反射するかのような一撃。

 体の芯がまるごと破壊されるような――喰らったことのない技だった。


『つまらんなァ。せっかくここまではるばると来たというのに。もう少し、食するのを控えるべきであったろうか……ここで魔導士を20、それに吸血鬼を100ほどか。多すぎたな』


 酷薄な笑みを浮かべ、敵が近付いてくる。


『げ。やべやっべ……!! なんだこいつ、むちゃくちゃ強くなってんぞ!? ザコヤローだったくせに!?』

「んが、このやろ、た、立ち上が、れ、ね……!?」


 床に手をついて起き上がろうとするが、がくがくと震えて身動きが取れない。東吾自身は痛くなかったが、痛みを感じない体のほうが悲鳴をあげていた。

 相手が東吾の目の前に立つ。

 その手が伸び、胸倉を掴まれて持ち上げられる。


「あ゛、はな、せ、コラ、この……!」

『腹を裂かれてもやはり血は出ておらん。これでは喰えぬ……残念だが終わりにするか。ではな、さらばだ化け物』

「……っだらぁ!!」

『! ぶぅっ!?』


 東吾の腹から勢いよく大きな本棚が飛び出した。

 油断していたレヴィアムの顔面に、ドカ! とクリーンヒットする。


 しかし、それも。


『……ふん。最後のあがきか、つまらぬことをやってくれるな……』


 ほとんど効果がなかった。


「く、くそっ! なんだてめえ、何モンだ……!?」

『ただの吸血鬼よ。ただし、おそらくは――なによりも偉大に進化する、だ』

「……。うるせ、今ので鼻血垂らしてんじゃねーか。何が偉大だバカ」


 とはいえまったく効かない、というわけではなかったらしい。レヴィアムの鼻から一筋の鼻血が垂れていた。


『……。不愉快だな貴様。今はもう、食欲以外に人間をどうとも思わぬが……貴様は腹が立つな』

「あーそうかよこの鼻血ブー。オメーの攻撃なんて痛くもかゆくもねーな、俺痛覚ねーし」

『ほほう? それでか、以前刺した時も……。まあ、ならば首でも刎ねてやるとどうなるのか見てやろうか。面白そうだ』

「え。あ、ちょい待て、それはちょっとわかんねえ、ヤバいかも?」

『死ぬがいい』

「ストップストップ!? うおわわわ!?」


 レヴィアムが剣を振りかぶった。

 動けない東吾に向かって、その刃が。


『――イ゛ィーヤ゛ア゛ッ!!』

『ぬうっ!?』


 迫る前に、一際大きな肉のゴーレムが猛牛のように突っ込んできた。

 横合いから突進してきたゴーレムはレヴィアムをカチ上げ、そのまま壁に向かって思い切りぶつかっていく。


 その拍子に掴んでいた手が離れ、東吾の体が地面に落ちた。


「イテ! ……痛くねえけど。今のは……!」


 ビッグサイズの肉のゴーレムだった。

 ゴーレムはレヴィアムを押さえつけたまま力に任せて壁を破り、そこにあった部屋に飛び込んでいってしまう。

 なんとかして横を向くと、杖を構えたリィーンがいた。さっきひねったらしい足をかばい片足で立っている。


「トーゴ!! ああもうひどい、こんなに……!」

「り、リィーン。助かった」

「ばかぁっ! 無茶しちゃだめって言ったのに! う、いたた。足が……」


 リィーンはゴーレムに身を預け、再びひょいと持ち上げられる。


「早く逃げるわよ、今のうちに!」

「す、すまん。あ、でも動けない。痛くはなくてもめっちゃやられた……しかもわりとあっという間に」

「もう! だめって言ったのに聞かないんだから! ゴーレム、トーゴを持ち上げて。エントランスの方に向かうの!」


 リィーンの命令に『ヤッ!』と頷いて、ゴーレムはリィーンと東吾を担ぎ走り出した。

 


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