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第四話 その3

「仕舞うこともできるんだな。便利なことは便利だけど」


 東吾はベンチに座って、配給された昼食のパンをかじりながらつぶやいた。

 東吾の前には広場があり、そこでは大勢の兵士や魔導士が、交代で食事を摂っている。


 さらにその先に何メートルもの高さがある大きな城壁がそびえ立ち、改修の工事の音が響いてきていた。


「……よっ」


 軽く念じてみると、東吾の肘のあたりから、ずぼっと大きな手がはみ出す。

 握れ、と考えてみると、新たな手は力を込めて固く拳を握った。また逆に、離せ、と思うとだらりと力を抜く。


 そして、戻れ、と念じると、手はするすると肘の中へと戻っていく。

 いくらか試してみたところ、ちゃんと意識して動かせば東吾の意思の通りに動かすことができるものらしい。


 ついでに、どうやら好きな場所に腕を生やすことも可能なようだ。

 やろうと思えば足のつま先からも出るようで、見た目は多少キモいが、使ってみるとパワーもあるし便利ではある。


「でも、妖怪だなこれじゃ。かっこよくねえ」

「別にそんなことないでしょ。便利ならいいんじゃないの」


 東吾のとなりに座るリィーンが、コップに入ったスープを飲みながら言った。

 その傍らには、脱いだ帽子と杖を持たされた肉のゴーレムが、にこやかに白い歯を見せながら近侍している。


「そうは言ってもな。もっとこう……イカすやつは出せないのか? 筋肉腕って暑苦しいし」

「じゃあ、先生にまた何か摂取させてもらえばいいんじゃない? 取り込んだものなら出せるのが肉のゴーレムだし」

「……それはイヤです。なにされるか分かったもんじゃないって……」


 今度は棚どころかもっと巨大なものを飲み込まされてはたまらない。痛くはなくても拷問である。


「あ、そういやさ。変な夢を見たんだよな、さっき起こされる前に」

「変な夢?」

「なんつーか……スケルトンの男女がさ、俺の中から出せってさ。そんで弔ってくれ、って」

「? スケルトンなのに、男……女? どういうこと?」

「男みてーな女ってこと。この間、お前の先生に色々突っ込まれた時にスケルトンがいたんだ。そいつの生前の姿らしいんだけど、そいつが俺の中から出してくれ、だってよ」

「なにそれ。スケルトンに意思なんてあるの?」

「知らね。ま、夢の話だけど、やけにリアルだったからなんか気になってさ。俺の中に入った物って出したりできんの?」

「肉のゴーレムに入れたものを、出す? うーん、聞いたことがないわ。ていうか、無理なんじゃないかしら」

「え、マジで? 無理なの?」

「わたしは肉のゴーレムの専門魔導士だけど、そんなことできないはずよ。魂が一体化しちゃってるんだもの」

「うーんそうか……なんか、寝覚めがわりーな」

「あとで先生にも聞いてみる? もしかしたらだけど、何か知ってるかも知れないわ」

「え゛。それはいいけど、俺、あの人トラウマなんだよなぁ……。あんま会いたくねえ……」

「だいじょうぶよ、ちゃんと守ってあげるから。ごちそうさま、っと」


 スープを飲み干して、リィーンはゴーレムに預けていた帽子を手に取った。

 昼食を平らげると、二人は再び工事の続く城壁の方へ向かう。


「しっかし、まだ工事すんのか? もう十分でっかいじゃん」


 石の階段を昇り上から眺めて見ても、このバージェスの城壁はずいぶんと立派なものである。


 魔導士が呪文を唱えると、地響きと共に地面から新たな石の壁が生えてくる。

 それを、職人が建材を使って隙間を埋め、きっちりと補強をしていく。

 最後に兵士たちの人手で矢よけの土嚢を積んで、資材などを並べて戦争の準備を進めていく。


 城壁は相当な速度で厚みを増して、堅固になり、ますます巨大化を続けている。


「このバージェスは国の端の方にあるから、ここさえ陥落しなければ他の場所は安全なのよ。逆に、ここが取られたらそれこそ大変なことになるわ」

「ふーん。そんなもんなのか」

「結局ここで迎撃するみたいだし。そういえば、作戦会議もあるって聞いたわね」

「作戦? なんだそれ」

「さあ? わたしは半分見習いだし、会議に参加できるほど偉くないもの。でも、あとで先生について行っていいらしいから、あんたの体から入れたモノ出すのも含めて聞きに行きましょ」

「うえ。だから、あの先生に会いたくねえんだって。もう実験されたくねえよ」

「もう弄くり回させないってば。さ、仕事してね。『プロ・トビオント』っと」

『『『イィヤハッ!』』』


 リィーンが杖を振るい、肉のゴーレムたちを呼び出す。

 にこやかな微笑みの全裸男達は兵士に混じり、さっそく仕事にかかりはじめた。


「はいはい。結局無賃なんだもんなぁ……。筋肉腕があるから大して疲れないけど」


 東吾は両肩からゴーレム腕をにゅっと生やし、近くにあった土嚢に手をかけた。

 それほど力も入れていないのに、土砂のたっぷり詰まった土嚢は軽々と持ち上がった。

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