進化を求められるVR世界
VR技術がもたらした世界の発展は誰もが認めることであり、世に馴染むのも時間がかからなかった。
その中でもっともVR技術が貢献したといわれるのがIFのシミュレーションである。
例えば、地震、噴火などの災害が起こった際に間違った行動を取ればそれは命取りとなるが、現実には災害が起こるまではどうなるか予想して心構えをすることぐらいしかできない。
まさか訓練のために地殻に振動を与えて、あえて巨大な地震を起こすなんて事はできないし、噴火にしても、何かしらの方法でマグマを活性化させて噴火させようものならそれはすでに天災ではなく、人災といっていい。
だが、VR空間ではそういった現実の被害はなく起こった後の訓練すらも可能となる。これは実際に災害が起きたときの対処ができるという点では大きな成果をもたらしていた。
もし、シミュレートの中で自身が死んでしまったとしても現実では生きているのだから、何が悪かったのか考察できるし、それは実際に災害が起きたときに大きな経験となる。
だが、VR技術がもたらしたのは発展だけではなく、相応の事故、事件とて起こっている。
レジスタンス・オンライン(Resistance・Online)というタイトルのVR空間を利用したMMMORPG(多人数同時加型オンラインRPG)はその最たる例だろう。
ログアウト不能の事態におちいった同タイトルは悲劇はそれだけに終わらず、ログイン状態にある人の死亡が次々と確認された。
死亡する人に関連性はなかったが、調査の結果、レジスタンス・オンライン(通称レジィ)内で死亡判定を受けることにより現実でも死亡することが確認された。
この事件は結局のところ、現実からの解決は叶わず、レジィ内でのゲームクリアを持って悲劇に幕をおろすこととなった。
この時点ではVR世界史上最悪の出来事と呼ばれていた。
VRネット上に人によって作られるインターネットで言うサイトに当たる存在を作るにかかる労力というものはインターネットとは比べ物のにならない。
なぜなら、電脳空間に人の六感を投影するということは必要とする情報量は空恐ろしいほどとなる。ましてや個人の嗜好という問題も立ち上がってくる。
例えば、ピーマンを例をあげると現実世界では品種や栽培環境によって味に差異が生まれるとはいえ、大別すればピーマンという野菜の味の大元は変わらない。
だが、そのピーマンという味を電脳世界で再現したとしても、それを万人が同じ味の様に感じていては仮想『現実』とまで言っていいのだろうか。
その求める情報量はインターネットを海とするならば、バーチャルネットは宇宙である、とまで言われるほどに大きな差があった。
そして、何時の頃かVRネットワーク上に作られた電脳空間を『星』と呼ぶようになった。
前述したレジィが存在する電脳空間は、優秀な星といえた。正確にはレジィという電脳空間を構築しているシステムといえるだろうが。
それこそ、一般的な電脳空間を上回るどころではなく、現在ある電脳空間の中では最高峰といっても過言ではないほどに。
だが、それに故に問題となる。
現存するどの星よりも優れたる星は事件の解決後、破壊されるべきだった。
いまだ開発されていない高度な技術が用いられていることは確かであり、使用されている技術の解明がされればVRネットの更なる発展に貢献することは明白であったが、同時にもっと恐れるべきでもあったのだ。
いまだ世界の技術者たちが追い求め、たどり着かない程の技術を持ち、人を殺すことを可能とするという解明不明なシステムが構築されているということを。
破壊ではなく、VRネット上からの隔離。正確に言うならば、VRネットの深部にアクセス不能という形で残り続ける。それは一部の研究者のみが閲覧できる最高の研究材料でもあった。
だが、貢献に発展する前にそのゲームは再び稼動を始める。隔離されていたはずのその星は再びVRネットワーク上に浮上する。
それが、新たな悲劇の幕開けとなった。