奇才テュルゴ①
状況や目的、世界観の説明回です。
1話だけに纏めたかったのですが思ってたより長くなったので分けます。
タイトルの人物は次に出す予定です。
2026.3.4 本文一部修正&追加しました。
西の国の遺跡から経って3日目。
教団から支給された陣術が描かれた魔紙を使って、ジンは東の国のある町にいた。
この町は教団管理外だが、魔物等寄せ付けない結界の陣術がはられている。西の国の遺跡同様、東の国の神の大地前までの陣術が描かれた魔紙を使えばこの町に行く必要は無かったのだが――そうせざるを得ない理由があった。
(この町にいんのか――奇才テュルゴって奴が)
『東の国の神の大地は、今とある集団が占拠してて行けないんだよねぇ』
昨夜――野営中にジンの脳内に「声」が響いた。ジンにとっては聴き慣れた、コウの声だ。
このコウという少年――と会ってもう直ぐ2年経つ。
といっても初めて会った時しか姿を見た事はなく、以降この「声」を通して彼と会話している。どうやら魔法の一種らしい。この「声」はジンにしか聴こえず、彼との会話は傍目から見るとジンが独り言を言ってる様にしか見えないのだ。だから他の人と話してる時や人が多い町中では話し掛けてくるな、と常日頃コウに言ってるのだが彼はお構い無しに話してくる。それがジンにとっては鬱陶しかった。
2人の関係は仕事の――コウが依頼者でジンが請負人だった。仕事内容は「各国にある神の加護のある大地に行く事」であり、ジンがその場所へ行きコウが報酬として金を払う。教団から支給されている魔紙も、コウが教団関係者故手に入れるのは容易だった。
1つの大地に行く度に貰える路銀含む報酬はそれなりにあった。教団関係者直々の仕事なので非合法な仕事でもない。だが1つ目の国に行った時から、ジンはこの仕事を受けた事を酷く後悔していた。――過去に戻れるなら仕事を受けるな!と自身をブン殴りたい程に。
一度仕事を辞めたいと愚痴を言った事があった。その時彼に、
『ボクの依頼を完遂するまで、君に「声」を送る魔法は解かないよ?――依頼を完遂するまで一生こうしてずーーーっと君と話す事になるけど……それでもいいの〜?』
と脅された(?)事があった。この「声」が一生付き纏うなんて真っ平ごめんだ。なので今は彼から――この「声」から解放されたいが為に、彼の依頼を遂行する日々が続いている。
ジンは野営地に座りながらコウの話を聞いてた。時刻は夜――周りには人も魔物も誰もいない。
「とある集団?」
『そ。――東の国の神の大地までの陣術が描かれた魔紙は用意出来ても、その場所を彼等に占拠されちゃってるっぽくてねー、他の教団の兵士や使者を何人かその場所に派遣してるんだけど誰1人帰って来ないんだ』
「…マジかよ」
ジンは眉を顰めた。
『その集団からしたら自分達が勝手に占拠した場所に不法侵入してる様なモノだからねー、そんな場所に陣術を設置した教団もアレだけどさ』
「けど神の大地ってのはアンタら教団が管理してた所なんじゃねーのか。だったら不法侵入したのはその連中が先なんじゃねぇの?」
『いや、神の大地はこの世界が神に造られた時からあった場所で教団は特に管理等してない――公共の場みたいなモノなんだよね。あと東の国と教団は信仰している神が違う』
「……神サマってのは複数いんのか」
『世界を創った「神」、ボク達教団の信仰対象である「女神」、東の国は確か……「竜の神」だったっけ?4つの国の中で唯一信仰対象の違う国だから、教団があまり管理してない国なんだよ』
「……」
コウの話をジンは黙って聞いている。
『だからその場所に行くには陣術からじゃなくて直接行くしか無いって事。その先に東の国の神の大地があるんだから――そ・こ・で、』
声色の変わった声を聞いてジンは嫌な予感がした。この声色になるとロクな事がない――
『道中までにある頼み事を……君にして欲しいんだけど』
まただ。と言いたげなウンザリした表情になった。今のコウはジンを通して見聞き出来る状態なので、自分のこの表情は見えていない。
彼の依頼は「4つの国の神の大地に行く事」。
なのでそれ以外はする必要が無いのだが、度々「ある頼み事」と称して彼から色々と頼まれるのだ。勿論その追加報酬は貰っているが――
この「ある頼み事」には散々振り回されてロクな思い出が無かった。何度か断った事もあるが、そうするといつまでも延々と自分の脳内で「声」で愚痴られる。そうした経験から断るよりも受ける方がマシだと半ば諦め気味だった。
深い溜息を吐いた後、口を開いた。
「…………今度は何だ」
『受けてくれるの〜?ありがとう〜!』
白々しい態度の口調にジンは「早く言え」とウンザリとした態度のまま急かした。
『頼み事と言っても大した事じゃないよー、全部道中までに出来る事だから寄り道しろって事じゃないし〜』
「…待て。全部?1つじゃねぇのか?」
『うん。先ずとある集団の調査――東の国の神の大地に行く為には必要な事だね。場所は東の国の山奥でー地図出してよ』
夜なので辺りは暗い。渋々ながらジンは手元にあったランプに火を灯し地図を広げた。教団から魔紙と共に支給された東の国の地図だ。
コウはジンを通して地図を見た。
『この1番大きな山だよ。竜の山と呼ばれてるんだ、その集団も神の大地もここにある』
「山って……はあ」
こんな所に行かなきゃいけないのか、とジンは深く溜息を吐いた。こんな依頼受けるんじゃ無かったと改めて後悔した。
『そしてこの山の中に小さな村があるんだ。竜の村って呼ばれてる、そこにいる「怪物」とやらの事を調べて欲しい』
「怪物?」
『人なのか魔物なのか……そもそも生き物なのかもわからないけど、いつしか「竜の村の怪物」って呼ばれる様になったんだ。東の国神の大地の道中にある村だから何も寄り道しろって言ってないよ?――これが2つ目の頼み事。3つ目――最後の頼み事は、明日行く町にとある人物がいるって最近噂されてるんだ』
「噂ァ?」
訝しげに尋ねるジンに、コウは続けて言った。
『奇才テュルゴって二つ名のある呪術師の事さ――』
大して大きな町ではない。昨夜コウの話した奇才テュルゴとやらがここに居るのか調査するには先ず聞き込みが無難だろう。とりあえず人が集まりそうな所に行こうと歩き始めた。
(呪術……陣術…ねぇ)
ジンは顔を顰めながら昨夜の話の続きを思い返していた。
「……なあ、その呪術?とか陣術って何の事なんだ?魔法か?」
ジンの問いに暫し沈黙が流れた。やがてコウは呆れる様な口調で話し始めた。
『……君魔法は全部一括りに魔法って認識してたタイプでしょ』
「ああ」
『それで間違ってはいないけど……そうだね、ボクの依頼請負人様が世間知らずなのも嫌だから、この際に教えてあげるよ』
嫌味と上から目線な態度が「声」で十分伝わって来た。この少年は度々こういう風になる。出会ったばかりの頃は腹を立てていたが、こいつはこういう人物なのだと徐々に理解して行き最近は受け流す様にしている――腹が立つ事に変わりは無いが。
「……ああ」
広げた地図を荷物入れに直しながら抑揚の無い声でジンは返事をする。コウと話す時は先に自分が折れた方が会話が進むからだ。
そんなジンの様子に気付きもせず、コウはその態度のまま説明し始めた。
『魔法は3つに分類された呼び方があるんだ。先ず魔術っていうのが一般の――御伽話とかに出て来る火を出したり凍らせたりするヤツさ。1番オーソドックスな魔法の事だね、君もこれくらいは知ってるだろ?』
「まあな」
『次に陣術。魔法陣を描いて使う魔法の事で主に町中にある結界や魔紙に描いて移動時に使ったり出来るね。でも陣術ってぶっちゃけそれだけ使えれば十分なんだよね』
「…どういう事だ?」
『魔法陣を描かなきゃ使えないから魔術より使い勝手がイマイチなんだよね〜。陣術のメリットとして「描いた場所に設置・固定して魔法が使える」ってあるけどさー、単純に魔法を使うだけなら魔術の方が簡単に使えるんだよ』
魔法とは人間の頭部に魔力を生成・貯め込む魔力器官という器官が存在する。コレがあるから人間は魔法を「使う」事が出来る。
魔法を使うという意識と知識、魔力器官、器官内にある魔力を用いて人間は魔法を使う――これはこの世界における一般常識である。ジンもそれくらいは知っていた。
『だから西の国の遺跡で――ルシカだっけ、彼女程器用に陣術ばかり使う人初めて見たよ〜。普通に魔術使えばいいのにね〜』
「……」
西の国の遺跡で会ったあの女を思い返した。確かに彼女は終始魔法陣を描いて魔法を――陣術ばかり使ってた気がする。一度使ってた魔障壁、アレは一般的な魔法―魔術の一種なので陣術に分類されない筈だ。
『差し詰め彼女は陣術師っていうのかな。魔障壁も使ってたんだから魔術師としても十分やって行けると思うんだけどな』
「……おい、話逸れてンぞ」
『……ああゴメンね〜、何処まで話したっけ……――そうそう呪術!コレが3種類目の魔法の一種で、ボク個人的には1番強い魔法だと思ってる』
「強い?」
ジンは首を傾げた。
『呪術は魔力の消費が1番多い魔法で、ある条件下でのみ使える。例えば……今君にボクの「声」を送っているのも、呪術の一種だよ』
「……!」
『この呪術を使ってる時ボクの本体は身体も動かせず眠ったまま――意識だけこっちにある状態で、使ってる今もずーっと魔力を消費しっぱなし。これがこの呪術を使うのに必要な事だよ』
「魔力消費で疲れねぇのか?」
魔力は魔力器官を用いて使う、身体の器官の一種だ。人間走り続けると疲労するのと同様、魔力器官も疲労する。
『大丈夫だよ、君と違ってボク魔力多い方だし』
ジンなりに彼を気遣った筈なのだが、さらりとこう言われ直ぐ様気遣いの言葉を言った事に後悔した。
「……あっそ」
ぶっきらぼうにボソリと呟いた。
『呪術は強い――けど1番扱いの難しい魔法でもあるんだ。だから二つ名のある程有名な呪術師・奇才テュルゴを一眼見てみたいんだよ、同じ呪術師としてね』
それがコイツの今回の頼み事ってコトか――ジンはランプの火を消して薄い毛布を取り出して自身の身体に包ませた。
「わかった。けどそのテュルゴってヤツを探すのは明日1日だけだ。それ以上は探さねー」
『……それでいいよ。あ!あと呪術師の特徴として、彼等は顔を隠す習慣があるんだ』
「習慣?」
尋ねるジンにコウは続けた。
『最初にボクが君と会った時みたいに…ボク顔をフードで隠してただろ?帽子やマスク…仮面は今どき居るかな?そういう風貌の人は呪術師と思っていいよ。ボクもテュルゴって名前以外の事はどんな人物なのか何も知らない呪術師だから』
コウなりに助言(?)をしてくれたのだろうか。息を吐き、ジンは目を閉じた。
「……一応覚えとく。俺ァもう寝る」
これ以上話す事は無い――そういう態度を察してか、コウは『わかった』とだけ「声」を送り、彼に意識を――呪術を使うのを止めた。




