生きる
オリジナル小説です。
ジャンルはファンタジー。
今後も続けて行きたいです。
あなたは…生きて――
それが彼女の最期の言葉だった。
昔この世界に神が居た。
神は世界に生物を創り、創った生物の一種・人間に「魔力」という力を与えた。
人間はその魔力を使い世界を創造していった。
やがて神は世界から消え、世界の東西南北に神の加護が遺る大地が遺された。
世界は今、神を信仰する「教団」という組織が安定を保っており、世界の中心部にその教団本部が存在している。
そして4つの国――「北の国」「南の国」「東の国」「西の国」が存在し、その半数以上が教団の管理下にある。
ここはその神の加護が遺る大地の1つ――西の国の遺跡。
風化されつつある白い建造物――遺跡を見渡しながら、少女は息を付いた。
「はあ…ここが…西の国の遺跡――神の加護が遺る4つの大地の内の一つ……」
栗色の長い髪を後ろで縛り、膝下程度の長さまであるノースリーブコートを着て大きめのウエストポーチを身に付けている。藍色の眼で辺りを見渡す。
(空気が静かだ。魔力も人の気配も――あれっ?)
遺跡入り口の階段に、自分より大きいサイズの足跡がある。少女は自分の履いてるブーツの裏面を見て、その足跡が自分の物でない事を確認する。
(…誰か居る?)
神の加護が遺る各大地で、年に1度行われる祭事―神の生誕祭でもないのに、こんな人里離れた場所に人が居るなんて珍しい――それに、この神の大地に入るには教団の発行する許可証が必要だ。
許可証が無くても入る事は出来るが、あるとその場所の魔法陣―陣術が描かれた場所まで転送してくれる、魔紙が渡される――つまり、許可証がある方が「簡単に」この大地に行く事が出来るのだ。
(道中魔物は全然出なかったけど――用心…しといた方がいいかな)
少女は手から魔力を出し、杖を出した。それを片手に取り辺りを警戒しつつ、もう片方の手には魔力を込め小さな魔法陣を浮かべて直ぐ消して、遺跡の中へと入って行った。
遺跡の中は外より静かで、コツ、コツと自分の歩く足音のみ遺跡内で響いている。
この遺跡に付くまでの道のりもそうだったが、遺跡内にも魔物は全く居ない。
これも神の加護か何かの力なんだろうか――そう考えながら歩き続けて少し広間の所へ進んで行くと――
ガンッ!!と激しい、だが聞き慣れない音が辺りに響いた。
少女はビクッと肩を振るわせ思わず足を止める。杖を強く握り、音のする方を見ると壁に小さなヒビが生じていた。
「あ……?」
低い少年の声がした。少女はそちらを見ると、左手に見慣れない、筒状の様な鉄の塊をこちらに向けて構えている少年と目が合った。
赤毛混じりのボサっと整ってない茶髪に、赤い半袖のジャケットを着て、背には大剣を背負っている。下はシンプルなズボンに自分より大きなブーツを履いている――遺跡入り口の足跡はこの少年の物だったのかー――と考えてる内に再び先程の激しい音が少女の右側辺りで響く。ひっと短い悲鳴を上げながら音のする方を見ると壁に小さなヒビが生じていた。
ここで少女は気付いた。先程の激しい音と壁のヒビはこの少年の仕業だと。そして自分は今――見慣れない鉄の塊を使ってこの少年に攻撃されている事に――
「なっ……ななな何するのよ〜!」
少女の悲鳴が遺跡内に響き渡った。
「!?……幻、じゃねぇ……――本物…?」
少年は驚き、怪訝そうな顔で呟いた。
鉄の塊を握る左手を下ろし、何かしら操作しつつベルトに巻き付けてるホルダーにそれを直しながら少女を見つめた。
「……いきなり撃って悪かった」
短く謝罪(?)をし、少年は踵を返しながらそのまま遺跡の奥へと進んで行ってしまった。
「え…?」と少女はポカンと立ち尽くしたものの、直ぐに我に返り、「い……一体何なのよーッ!」と叫んだ。
少年から少し離れて少女は歩いていた。両手には杖をしっかり握り締めて。
2人の足音のみが遺跡内で響く。先に沈黙を破ったのは少年の方だった。
「……ンで付いてくんだよ」
溜め息混じりにそう呟く少年に、少女は少しムッとした表情をした。
「別にあなたに付いて行ってる訳じゃないわ。この遺跡に用があるだけよ――そういうあなたこそこの遺跡で何してたの?」
「――うるせぇ、アンタはもう黙ってろ」
「なっ…!?」
ぼやく様に言った少年の背を見、少女は絶句した。先程の事といい何なんだ、この態度の悪い少年は。
少年はハッとなり、不意に足を止め少しこちらに振り向いた。
「……今のはアンタに言った訳じゃねぇ」
ポツリと言った少年と目が合い、少女も足を止めた。
「え…?」
「遺跡で何してたかって話だったよな――……"あるヤツ"に頼まれてここに来たんだ。そういうアンタは?」
少女の方に向き腕を組みながら少年は尋ねた。
「えっわ、私?私はその……この遺跡に特に用とかは無くて、えっと…その…」
しどろもどろになりながら要領を得ない事を言う少女を少年は眉を顰めながらジロリと見、ハッ、と呆れた様な声を出した。
「つまりただのカンコー客って事かよ。神の生誕祭で人も居ねーのに物好きだな」
「なっ…!そういうあなたこそ人も居ない時期に遺跡に来るなんて物好きじゃない!」
「俺ァ人が居ねー方が都合良いんだよ」
「都合…?」
首を傾げながら言う少女に少年は目を逸らした。
「…ンでもねぇよ。観光だが何だが知らねーけど俺の邪魔すんじゃねーぞ」
この話は終わり、とでもいうかの様に少年は進行方向に向き直り、再び歩き始めた。
「あっ…ちょっと!待ちなさいよっ」
慌てて少女も駆け、少年の横に並びながら歩き進めた。少年は横目で少女を見る――何並んでんだよ、と不満を言いたげな様に。
構わず少女は少年の腰に付いてる鉄の塊を見た。ホルダー内に収まってるそれは、やはり見覚えのない形状の物だ。
「ひとつ聞いていい?」
不意に尋ねてきた少女に、少年は眉を顰めた。
「……ンだよ」
不服そうな声を気にする事なく、少女は続ける。
「その腰に付いてるモノは何?」
少女は指を指しながら尋ねた。
「何って…銃だよ。武器。知らねぇの?」
「じゅう…?そんな武器、見た事ないわ。魔法の類いとは…違うのよね?」
指してた指を顎に手をやりながら聞く。少年は一瞬目を丸くして直ぐに眉を顰めながらため息を付いた。
「あー……銃は今じゃ殆どねぇ武器だからな。知らねーのも無理ねぇか」
「殆どない?何で?」
少年は銃という腰にぶら下げている鉄の塊に手をやりながら続けた。
「詳しー事は知らねーけど魔法の所為だってのは聞いた事あんな」
「魔法の所為…?」
腕を組みながら少女は考え込む。少年は手を離し前を向いた。
「――だからアンタは黙ってろって言ったろ」
「え……」
呟く様にいった少年の方を少女は思わず顔を見上げだ。少年はチッと舌打ちをし目を逸らした。
「っンでもねぇよ。これ以上自分の武器の話はしたくねぇ」
「あっ……そ、そう…答えてくれてありがと」
「……おう」
お礼を言った少女に、少年は目を逸らしながら短く返事をした。
(そういえば名前…聞いてないな――)
2人は遺跡の奥へと歩き続け、暫く沈黙が続いた。やがて、この遺跡の最深部であろう場所が見えて来た時、不意に少年の足が止まった。
「…どうしたの?」
少女も足を止め、少年の方に振り返る。
少年は険しい表情で遺跡の奥の方を見ながら、腰に付けている鉄の塊――銃を手に取った。
「……奥に何かいる」
少年の言葉に少女も遺跡の奥を見る。薄暗くてよく見えないが何の気配も感じなかった。
この遺跡内も道中でもそうだが、魔物と一度も遭遇していないのだ。人には遭遇したがそれもこの少年ただ1人のみだった。
「……?何もいないじゃない」
少女は先へ進み遺跡の最深部に行った。
ここは本来神の生誕祭という年に数度行われる儀式でのみ使われる場所で、その時のみ教団関係者や各地からその儀式を見に訪れる人が集う所だ。今はその儀式が行われていないので誰も居ない。
少女も昔何度か神の生誕祭の時にここに訪れた事がある。この最深部で儀式が行われたのを見た事がある――そう思い返しながら辺りを見渡していると、少女の頭上に不意に大きな影が出来た。
「オイッ!上――」
少年の声に少女は顔を上げるのと同時に、その巨大な影は少女の頭上に落ちて行った。
「えっ」
呆気に取られる声と共に少女の頭上には影――ではなく、巨大なこの遺跡と同じ建造物の白い石が落とされた。激しく地面と衝突する音が遺跡内に響く。
自分はそれに押し潰されてしまう――とキツく目を閉じたが痛みは無かった。恐る恐る目を開けると、目の前には白い石で崩壊している地面に、片手で少女の襟首を無造作に掴んだ少年がいた――視線は少女の方を全く合わせず前方を睨んでいる。
あっと声を上げようやく少女は今の状況を理解した。この石に押し潰されかけた所をこの少年に助けられたのだという事に――
「あ、ありがとう……」
「前見ろ!――ありゃ何なんだ?」
少女から手を離し、前を見据える。少年と同じ方を見ると、遺跡最深部奥の壁が一部盛り上がってる所があり、その中央にある宝石の様な石が赤く光っていた。その光はまるで一つ眼の様でこちらを睨んでいる。その両脇には先程の白い石が複数個連なり巨大な手を形取ってる様に見えた。
自分を押し潰そうとした白い石の正体はコレなのだろうか、と少女は考えた。
「これ…神造兵器!?何で動いてるの!?」
「ごー……魔物か?」
少年の問いに、少女は首を横に振った。
「違うわ。神の時代の時に造られた兵器の一種で、普段神の生誕祭以外では動かない筈なのに――」
少女の話の途中で、再びこちら目掛けて白い石が襲って来る。チッと舌打ちしながら少年は片手で少女の腰を抱えて避けた。
「じゃあ何で今動いてんだよ!?」
「わかんないわよ!――今から調べるから、その間さっきみたいに逃げて!攻撃しないで!」
「はあああー!?」
少年の叫び声が遺跡内に響いた。
ゴーレムとかいう赤目の攻撃パターンは単調だ。あれから何度か白い石を投げて来る攻撃を見てパターン化してる事に気付いた。遺跡であったこの女抱えても俺なら余裕だ。だがらこの女が言った「逃げて」っつー事やるのは全然大丈夫だった。だが――
(攻撃すんなって…それは何もすんなって事じゃねーか)
攻撃を避ける行動ばかりの現状に嫌気がさし、自分の腕の中で手に魔法陣?の様なモノを出して何か考え込んで微動だにしない女を見て、苛立ちを覚えた。
「オイ!さっきから何してんだアンタ!――もう銃で攻撃しちまうぞ!」
女を抱えてない方の左手で銃を持ち、構える。
すると女は考え込む姿勢を崩さないまま声を上げた。
「それはダメっ!この神造兵器は歴史的価値のある重要文化財なのっ!傷付けたらこの世界の歴史に傷をつけるのも同義で――」
「〜〜じゃあどーすんだよっ!」
女の言葉を遮る様に声を上げた。
「待って!あと少しで神造兵器の魔力解析が終わるから!そしたら動いてる原因がわかっ……ん?」
ふと女の表情が変わった。何かに気付いたかのか?
女は出してた魔法陣を消し、ふう、と息を吐いた。
「……神造兵器が何で動いてるのかわかった」
先程の真剣な様子とは違い、女は淡々とした口調で話す。俺は思わず足を止めて聞いた。
「先ず前提としてあの神造兵器とこの遺跡は同化しているの。この西の国の遺跡自体が神造兵器とも言えるわ」
「……で?」
女は続ける。
「この神造兵器は今何かの衝撃を受けて動き始めたの。――差し詰め緊急時の迎撃行動をしてるって所かしら」
「あ?何かの衝撃ぃ?そんなん――」
言い掛けた所で女の言葉を思い返す。
ゴーレム=遺跡。
遺跡に衝撃。
カチャリ…と自分の左手に持つ銃の音がした。
「…………」
「…………」
俺は女を無言で下ろし、左手の銃を見た。
「………………俺か」
今こんな目に遭ってるのは自分が原因なのだと――察してしまった。
「……貴方が銃で遺跡を傷付けちゃったから!今!私達は神造兵器に攻撃されてるの!!」
「うっせぇ!全部言わなくてももうわかったわ!」
女と向き合い言い合いになる。だが構わずゴーレムは再び白い石をこちらに向けて落として来た。
「危ない!」
女は魔法で壁を作って防いだ。確か魔障壁とかいう名前だったか?自分は魔法を使わないから詳しくは知らないが――
宝石っぽい赤目部分をよく見ると光ってる部分が徐々に減っていってる。これは魔力の残量を表してるのか?先程から攻撃頻度が減ってる様な気がした。左右白い石が複数個連なり巨大な手を形取っていたのも、今は形状が崩れて小さくなっていた。
ゴーレム=遺跡という事はこの白い石はこの遺跡の一部という事か?となると、このままアレを放置してたらこの遺跡は崩れてしまうんじゃないか――そこまで考えた所、女は魔障壁を消し息を付いた。
「とにかく、あの神造兵器を止めないと。行動を止める魔力を送るには――」
女は杖を置き、左手首に巻いてるブレスレットに付いてる小物入れを開け、右手人差し指で突っ込んだ。その指には光る塗料の様な物が付着している。その指を宙に円描く様に動かして魔法陣を展開させた。
「…!なんっだそれ……」
宙に浮く魔法陣なんて見た事が無い。魔法の一種という事はわかるが――驚く俺に女は構わず魔法陣を俺の銃に向けた。
「説明は後!貴方の武器に行動を止める魔力を付与したわ。それで神造兵器の赤い所に――」
女が言い終わる前に俺は銃で赤目――赤い宝石部分を撃った。銃音が響く。
そこに銃弾が当たり魔法陣が展開して赤い光が消えて行く。巨大な手を形取ってた白い石が崩れて地面に落ちて行く。
「当て、て――」
言ってる最中に撃ったので、女は目を丸くしながらその光景を見ていた。
俺は銃を下ろし、ホルダーにしまうと女の方に向いた。
「――これでいいんだろ?」
女はゆっくりと俺の方に向きながら、眉間に皺を寄せた。
「……言い終わる前にしないでよ」
不服そうに言う女に、俺はへっと舌を出した。
「俺ァさっさと終わらせてぇんだよ。この遺跡観光をな」
少女は崩れて落ちた白い石を見つめながらため息を吐いた。神造兵器を止められたものの、遺跡自体は完全に守れなかった。
自分の魔力を使えば遺跡の修復は可能だろう――そう考えながら、この遺跡がこうなった原因ともいえる少年は「先に行く」と言い残し1人奥へと進んで行ってしまった。
あの少年に対して多少苛立ちを感じつつ、自分はここへ何しに来たんだろうと、この西の国の遺跡に着いてからの行動を振り返った。
本来ならこの遺跡の最深部に行って――行って…自分のしたかった事は――少女はぼんやりとしていると、奥に行ってた少年がこちらに来た。
「……アンタさっきから何してんだ」
ぼんやりとした少女を少年は訝しげな顔で見た。
そんな少年のぶっきらぼうな声に少女はハッと我に返った。
「え!……や、何も…ない、わよ」
「ふーーーーん」
しどろもどろに答える少女に、少年は納得してない様な態度で続けた。
「俺ァもう用事済ませたんだけどよ、アンタは?何か用事あんじゃねーの」
「用事?……ああ…用事、ね…うん……」
抑揚のない声を出す少女を見、少年は眉間に皺を寄せながら腕を組んだ。
「アンタに聞きてえ事があんだけどよ、さっき俺の銃にしたアレは何だったんだ?」
唐突な質問に少女はぽかんとした。少年は続ける。
「その腕に付いてるインクみてぇなヤツでよ――魔法なのはわかるけど初めて見た」
少女の左手首に付いてる小物入れに指差しながら聞く。
少女はその小物入れを開け、再び右手人差し指に突っ込んだ。
「これは陣術に使う様のインク。私の魔力が込められてるてて私以外には何も反応しないただのインクと同じだけど」
その人差し指には光る塗料が付いて、宙で器用に動かし魔法陣が浮かび上がった。
「本来陣術は壁や床に描いて使う魔法。だけどこのインクと魔力を使って魔法陣を正しく描けばいつでもどこでも陣術が使えるの」
そう言いながら魔法陣を白い石が落ちて半壊した地面に向けて放つ。するとひび割れてた地面が徐々に塞がって行く。
「じん…じゅつ…」
「さっき貴方の武器には神造兵器を停止させる魔力を込めた陣術を付与させたの。直接停止させるにはある程度近付かなきゃ行けなかったし、貴方のその武器はよく知らないけど――遠くに攻撃出来る武器、なんでしょ?」
「ああ……」
抑揚のない声で少年は頷く。少女は再びインクを右手人差し指に付け、陣術を宙に描きながら少年の顔を見上げた。
「ね、そろそろ名前教えてよ。――私はルシカっていうの」
少女――ルシカが名乗り、微笑む。すると少年は苦虫を潰した様な表情になり、目を逸らした。
その態度にルシカは不思議そうに見ながら、陣術で遺跡の修復作業を続ける。――名前を聞くというのはそこまで不愉快な事なのだろうか。
少しの沈黙の後、少年はボソッと呟いた。
「…………ジン。俺の名前」
別に変わった名前ではない。ルシカは少年・ジンを見ながら、あ、と声を出した。
「……ジンと陣術……」
ルシカはポツリと呟き、図星を突かれたジンはキッとこちらを睨んで来た。
「〜〜っだっから言いたく無かったンだよ…!」
「ええっ!?そ、そうなの!?」
ルシカは目を丸くした。チッと舌打ちをしジンは彼女を目を合わせずその場を去ろうとした。
「ンじゃーな!物好きな観光客!」
出口に向かう彼を見、ルシカは陣術で遺跡の修復作業を続けながらポカンとした。はっと我に返った後、彼は既に神造兵器のいる個室から出た後だった。
「何よ!この遺跡荒らし〜!」
少女の叫びが遺跡内に虚しく響いた。
少年――ジンは遺跡に来る前に教団から支給された、折り曲げた魔紙をズボンのポケットから取り出して広げた。
するとその魔紙に描かれた魔法陣が光り、ジンの姿を包み、光となってその場から姿が消えた。
西の国の遺跡から離れた場所に光と共にジンは現れた。辺りを見回すと「教団管理・西の国の遺跡の魔法陣」と書かれた石碑が目に付いた。魔法陣が描かれた石畳の上にジンは立っていた。
ああ、元の場所に戻って来たんだな――魔紙を使っての魔法陣――陣術の移動は何度かした事があるものの、目の前が急に別の場所に出るこの感覚は慣れない。
ここから移動しようと足を進めると、脳内に聴き慣れた「声」が響いた。
『――今回もお疲れ様〜。陣術を知らなかったジン』
人を小馬鹿にする様なその声に、ジンは眉間に皺を寄せた。
「……コウ、知ってて黙ってやがったな?」
ジンの問いに、脳内に響く「声」は嘲笑うかの様に続ける。
『何の事だい?』
「とぼけんな!――あの遺跡がゴーレムっつーのと同化してた事だよ」
『あ〜〜、知ってたけど君…ボクに2度も黙れって言ったじゃないか』
「遺跡に入る前に言えよ!」
不機嫌なままジンは歩き、石畳の上から降りた。
『……確かに、言わなかったボクも悪いけど――あんな所で撃っちゃうとは思わなかったなよ。ボクが止める前に撃ってたじゃないか』
「声」――コウという人物の言葉にジンはムッと言葉に詰まった。
『まあ西の国の遺跡で誰かに会うとは君もボクも思ってなかったからね〜……でも君らしくなかったよね、あんなに動揺するなんて」
「…………」
この言葉にジンは物思いにふける。確かにあの行動はいつもの自分らしくなかった。
「……似てたんだよ」
『ん?』
「――それよりあと一つ――東の国の神の大地に行ったらアンタとはおさらばだ。……そういう約束だったよな?」
話題を変えたジンに、コウは人を小馬鹿にする態度を止め真面目に答えた。
『……そうだね。ボクの代わりに君が各国の神の大地に行く――ボクは君を通してその場所を見聞きして魔力感知する事が目的で、報酬として君に金を渡す約束――次で最後だね』
「ああ…」
あなたは…生きて――
彼女の最期の言葉を思い返す。
「俺は生きる為にやってんだ――」




