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第四部・第十八話(第88話) 信の間

 星座の広間を越えた先に、重々しい扉が待っていた。

 刻まれた文字はひときわ鮮明で、こう記されていた。


 ――「己を曝け出し、互いを信じよ。さすれば道は拓かれん」


 ルビヤが眉をひそめる。

 「……つまり、“信頼の試練”ってわけ?」

 ライガは短く頷いた。

 「裏切れば即、死。そういう類の仕掛けだろう」


 私は深呼吸し、扉に手を当てた。

 「行こう。逃げるわけにはいかない」





 扉の先は、広大な円形の部屋。

 床は鏡のように星を映し、空気は重く澄んでいた。


 ――「聖女よ、お前は嘘をついている」


 声とともに、私の目の前に幻影の私自身が現れた。

 「前世の知識で優位に立ち、聖女の名を騙っているだけ。

  本当はおっさんのままなのに」


 胸が締め付けられる。

 (……そうだ。俺は、異世界で若返っただけの中身おっさん。

  “奇跡の聖女”なんて呼ばれる資格、本当はないのかもしれない)





 隣でルビヤもまた幻影に晒されていた。

 「お前の瞳は災いの色。友などできはしない」

 紅い瞳の幻影が彼女を嘲笑う。

 ルビヤは唇を噛みしめて震えていた。


 「……分かってる。ずっと一人だった。

  でも、レティシアが“綺麗だ”って言ってくれたんだ。

  だから私は、この目を信じたい!」


 彼女の瞳が強く輝き、幻影を打ち払った。


 ライガの前にも影が立ちはだかる。

 「お前は群れを追われた獣。忠誠を誓う相手を失い、ただ彷徨うだけ」


 ライガは黙って剣を握り、そして静かに答えた。

 「俺の忠誠は今ここにある。親友と、その仲間たちに」

 ひと振りで幻影を斬り捨てた。





 私は自分の幻影に向き合う。

 「そうだよ。私はただの元おっさん。聖女の器なんかじゃない」

 胸が痛む。でも――仲間たちの声が背中を押す。


 「それでも……私は、今を生きる聖女だ。

  過去の俺を恥じても、この世界で誰かを救えるなら、進む!」


 叫んだ瞬間、幻影が砕け散り、部屋全体が光に包まれた。





 床の鏡に、三人の姿が映し出された。

 それは孤独でも偽りでもなく、互いを支える仲間の姿だった。


 扉が静かに開く。

 「……試練は終わったのね」私は息を整える。

 ルビヤは微笑んで肩を叩いた。

 「女親友、ちゃんと“自分”を認めたじゃない」

 ライガも頷く。

 「これでようやく、迷宮が仲間として認めたのだろう」


 私は二人を見渡し、小さく笑った。

 (俺はもう、ただのおっさんじゃない。聖女レティシアとして、この世界で生きるんだ)

次回予告


第89話「砂の守護獣」

試練を越えた先に待つのは、砂迷宮を守る巨大な存在。

力任せではなく、調律と知恵で鎮めなければならない――。

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