第四部・第十六話(第86話) 砂迷宮の入口
星図回廊の封を解いた先には、砂漠を南北に断ち割る巨大な渓谷が広がっていた。
吹き抜ける風が唸りを上げ、底の見えない暗闇が口を開けている。
「……ここが、迷宮への入口」私は息を呑む。
「確かにただの洞窟じゃないな」ライガが剣を握り直す。
ルビヤの紅い瞳は、闇の奥で微かに光を反射していた。
渓谷の橋を渡ろうとしたとき、砂がうねりを上げた。
**砂人**が姿を現し、通路を塞ぐ。
「くっ、やっぱり守護者か!」
ルビヤが拳を握り、ライガが剣を抜いた。
ゴーレムの腕が振り下ろされ、石橋が軋む。
私は即座に精霊に呼びかけた。
「風よ、重みを削げ!」
突風が巻き起こり、攻撃の軌道が逸れる。
「今だ!」ライガが剣を叩きつけ、ゴーレムの腕を切り落とす。
砂が飛び散り、形を失った腕が崩れ落ちた。
「こっちも負けてらんない!」ルビヤは跳躍し、拳をゴーレムの胸へ。
紅い瞳が瞬き、拳が砂の核を直撃する。
ばきぃん!
光を弾けさせ、ゴーレムは崩壊した。
「……やるじゃない」私は感嘆を漏らす。
(やっぱりこのチーム、筋肉と力業が強すぎる……俺は頭脳担当でよかった)
崩れ落ちた砂の中に、黒い石片が混ざっていた。
私は拾い上げ、眉をひそめる。
(やっぱり……黒幕の呪具が仕込まれてた)
「闇はここにも入り込んでる。迷宮の奥で必ず待ち構えてるわ」
ルビヤが私の肩を叩き、力強く笑った。
「なら、親友。正面突破あるのみ!」
ライガは静かに剣を担ぎ直し、低く言った。
「親友。どんな闇でも、俺たちが斬り払う」
渓谷の底から、光を帯びた石門がせり上がった。
星図盤とルビヤの瞳が反応し、扉に紋章が浮かぶ。
「……これが、砂迷宮の入口」
私は唇を引き結ぶ。
「行こう。星譜の心臓を見つけるために――そして、黒幕を暴くために!」
仲間たちと共に、私は砂の闇へ足を踏み入れた。
次回予告
第87話「知恵の間」
迷宮最初の試練は、星座を模した知恵比べ。
前世の“可視化”スキルを駆使し、聖女レティシアが攻略に挑む!




