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第四部・第十四話(第84話) 裏切りの白風

 砂鯨の暴走を退けて数日後。

 私は砂盗団〈白風〉との接触を試みていた。

 「補給路の安全を取り戻さなければ、大迷宮には挑めない」


 夜の砂丘。篝火を囲み、盗団の頭目ラシードと向き合う。

 「聖女よ、俺たちだって無闇に奪ってるわけじゃねぇ。

  だが……最近、妙な連中が入り込んでる」


 ラシードの表情は硬い。

 その言葉に、私は胸がざわついた。

 (……やっぱり、“黒幕の手”だ)





 そのとき。

 背後から乾いた笑い声が響いた。


 「聖女殿はお優しい。盗賊にまで情けをかけるとは」


 現れたのは、白風の幹部を名乗っていた男――ザヒル。

 ラシードの隣にいたはずの彼が、暗い黒布の袋を掲げていた。


 「見よ、この石を。海を蝕んだ呪具と同じものだ。

  これを砂に埋めれば、水も、星も、好きに操れる!」


 「貴様……!」ラシードが立ち上がる。

 しかし、ザヒルの笛の音に応じて、部下の一部が剣を抜いた。


 「まさか……内部にまで?」

 私は息を呑んだ。




 ラシードは短剣を抜き、仲間に裏切られながらも叫んだ。

 「白風は弱き者を守るためにある! お前のような外道に穢されてたまるか!」


 「守る? 笑わせるな。力こそ正義だ。

  聖女を差し出せば、この国を揺るがす力が手に入る!」


 黒い石からは、ぞっとする瘴気が立ち上る。

 精霊たちがざわめき、砂丘の影が不気味に揺れた。





 「レティシア、下がれ!」ライガが即座に前に出る。

 巨体のザヒルの配下が一斉に襲いかかり、剣と槍が火花を散らす。


 ルビヤは拳を振り抜き、裏切り者を砂に叩きつける。

 「白風を穢すな、この裏切り者ども!」


 私は星図盤を掲げ、精霊に呼びかけた。

 「風よ、炎を攫い、影を照らして!」

 風が巻き上がり、篝火の炎が広がって敵の目を焼く。





 ザヒルは黒い石を掲げ、狂気の笑みを浮かべた。

 「ははは……砂も星も、闇に呑まれる! だが今は退く!」


 黒煙に紛れ、彼は砂丘の闇に消えた。

 残されたのは、呻く裏切り者たちと、動揺する白風の団員たち。




 頭目ラシードは膝をつき、深く頭を下げた。

 「聖女殿……すまない。白風の名に泥を塗った」


 「謝る必要はありません。裏切ったのは彼らです」

 私は静かに答えた。

 「でも、このまま放置すれば、また利用される。共に黒幕を追いましょう」


 ラシードの瞳に、決意の炎が宿った。

 「――ああ。白風の名にかけて、必ず闇を討つ」





 その夜。

 私は黒い石の欠片を手に取り、心の奥で呟いた。

 (これはまだ始まりにすぎない。黒幕は……もっと深く、この砂漠に根を張っている)

次回予告


第85話「封鎖された回廊」

神殿地下に眠る“星図回廊”が開かれ、秘宝への道が見え始める。

だが、そこにも黒幕の影が待ち受けていた――。

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