第四部・第十三話(第83話) 砂鯨の暴走
評議会からの帰り道。
砂漠の地平線に、奇妙な振動が走った。
「……地震?」私が足を止める。
「いや、違う。これは……群れだ!」ライガが剣を抜く。
砂煙を巻き上げ、巨大な生物が突進してくる。
**砂鯨――**砂の下を泳ぐように移動する、砂漠の主だ。
その群れが都市へと直進していた。
「きゃー!」「砂鯨だぁぁ!」
都市の人々が悲鳴を上げ、広場から逃げ惑う。
商人は屋台を放り出し、兵士は呆然と立ち尽くす。
「お姉さま、どうしましょう!」セレナ……ではなく、今回は同行していない妹を思い出してしまう。
(あいつが見たら確実に“またにぱぁで解決するんでしょ?”とか言うんだろうな……!)
ライガが叫ぶ。
「俺が前に出る! 少しでも進路を逸らす!」
巨体に立ちはだかる彼の剣が砂煙を裂いた。
ルビヤは腕をまくり、素手で瓦礫を抱えて投げる。
「ほらほらこっちよ! こっちに来なさいっての!」
(いやいや、砂鯨に瓦礫投げる女戦士って何!? でも効果はあるっぽい!?)
私は即座に頭を回転させる。
「砂鯨は音と振動に反応する。なら――進路を変えられる!」
私は市場に転がっていた太鼓を掴み、全力で叩いた。
どん、どん、どん!
「こっちに注目ー!」
ルビヤが吹き出す。
「聖女が太鼓芸!? 新しいわね!」
「黙って、リズムに合わせて!」
ライガも半ば呆れ顔で剣を振り、リズムを取る。
「……親友、何でもありだな」
奇妙な合奏が続いた数分後――。
砂鯨の群れは方向を変え、都市の外れを大きく迂回して去っていった。
都市は救われた。
人々が広場で膝をつき、歓声を上げる。
「聖女様が……砂鯨を追い払った!」
「太鼓で!? 太鼓でぇ!?」
私は太鼓を抱え、へたり込んだ。
「……ぜぇ、ぜぇ。前世で太鼓ゲームやっててよかった……」
(あの『リズム天○』と『和太鼓の達人』、ここで役に立つとは……!)
ルビヤは大笑いしながら私の背中を叩いた。
「最高だった! 女親友どころか、砂漠一のエンターテイナーよ!」
ライガは眉間に皺を寄せつつも微かに笑う。
「命は救われた。……だが親友、次はもう少しまともな策を頼む」
喜びの声の裏で、私は砂に残った黒い刻印を見つけた。
(……やっぱり。自然な暴走じゃない。黒幕の“手”が関わってる)
都市を救った喜びと、胸に残る不安が交差していた。
次回予告
第84話「裏切りの白風」
砂盗団〈白風〉に潜む黒幕の手がついに牙を剥く。
信じるべきか、討つべきか――仲間たちの信念が試される。




