表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/192

第四部・第十三話(第83話) 砂鯨の暴走

 評議会からの帰り道。

 砂漠の地平線に、奇妙な振動が走った。


 「……地震?」私が足を止める。

 「いや、違う。これは……群れだ!」ライガが剣を抜く。


 砂煙を巻き上げ、巨大な生物が突進してくる。

 **砂鯨――**砂の下を泳ぐように移動する、砂漠の主だ。

 その群れが都市へと直進していた。





 「きゃー!」「砂鯨だぁぁ!」

 都市の人々が悲鳴を上げ、広場から逃げ惑う。

 商人は屋台を放り出し、兵士は呆然と立ち尽くす。


 「お姉さま、どうしましょう!」セレナ……ではなく、今回は同行していない妹を思い出してしまう。

 (あいつが見たら確実に“またにぱぁで解決するんでしょ?”とか言うんだろうな……!)




 ライガが叫ぶ。

 「俺が前に出る! 少しでも進路を逸らす!」

 巨体に立ちはだかる彼の剣が砂煙を裂いた。


 ルビヤは腕をまくり、素手で瓦礫を抱えて投げる。

 「ほらほらこっちよ! こっちに来なさいっての!」

 (いやいや、砂鯨に瓦礫投げる女戦士って何!? でも効果はあるっぽい!?)





 私は即座に頭を回転させる。

 「砂鯨は音と振動に反応する。なら――進路を変えられる!」


 私は市場に転がっていた太鼓を掴み、全力で叩いた。

 どん、どん、どん!

 「こっちに注目ー!」


 ルビヤが吹き出す。

 「聖女が太鼓芸!? 新しいわね!」

 「黙って、リズムに合わせて!」


 ライガも半ば呆れ顔で剣を振り、リズムを取る。

 「……親友、何でもありだな」





 奇妙な合奏が続いた数分後――。

 砂鯨の群れは方向を変え、都市の外れを大きく迂回して去っていった。


 都市は救われた。

 人々が広場で膝をつき、歓声を上げる。

 「聖女様が……砂鯨を追い払った!」

 「太鼓で!? 太鼓でぇ!?」




 私は太鼓を抱え、へたり込んだ。

 「……ぜぇ、ぜぇ。前世で太鼓ゲームやっててよかった……」

 (あの『リズム天○』と『和太鼓の達人』、ここで役に立つとは……!)


 ルビヤは大笑いしながら私の背中を叩いた。

 「最高だった! 女親友どころか、砂漠一のエンターテイナーよ!」

 ライガは眉間に皺を寄せつつも微かに笑う。

 「命は救われた。……だが親友、次はもう少しまともな策を頼む」





 喜びの声の裏で、私は砂に残った黒い刻印を見つけた。

 (……やっぱり。自然な暴走じゃない。黒幕の“手”が関わってる)


 都市を救った喜びと、胸に残る不安が交差していた。

次回予告


第84話「裏切りの白風」

砂盗団〈白風〉に潜む黒幕の手がついに牙を剥く。

信じるべきか、討つべきか――仲間たちの信念が試される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ