第四部・第十話(第80話) 砂盗団の影
◆ 砂漠の市で
星見台での出来事から数日。
私たちは次の旅路に必要な食糧と水を求めて市に出ていた。
すると広場の中央で、怒声が響いた。
「砂盗団〈白風〉がまた物資を奪ったぞ!」
「昨夜、補給路が襲われたらしい!」
人々は怯え、商人は取引を中止して店を閉ざしていく。
私は眉をひそめた。
(おかしい……あのとき“取引の仲介をする”って約束したはずなのに)
◆ 疑念
ライガが低く唸る。
「俺の目から見ても、あれは完全に組織的な動きだ。少人数のはずが、兵のように動いていた」
ルビヤが険しい顔で頷いた。
「〈白風〉は義賊に近い。弱者からは奪わないはず。……誰かが裏で動かしてる」
私は心の中で確信した。
(黒幕の“手”が、砂盗団を操っているんだ)
◆ 内通者の存在
その夜。
砂盗団の使いが密かに現れた。顔を覆った少年が、私の前に跪く。
「……聖女様。俺たちの中に、裏切り者がいます」
驚く私に、少年は震える声で続けた。
「黒い石を持ち込んだ奴が……団長を焚きつけ、暴走させています。
俺たち全員が賊じゃない……どうか、信じてください」
差し出された布袋の中には――呪具の欠片。
海底で見つけたものと酷似していた。
◆ 神殿の反応
翌日、私は神殿で報告を行った。
だが巫女長ナービアは眉をひそめる。
「砂盗団と繋がりを持つなど言語道断。聖女、貴女は彼らを庇うのですか?」
「庇うのではありません。真実を知りたいのです。
黒幕は砂盗団を利用している。放置すれば、国そのものが闇に飲まれます」
しかし神官たちの多くは耳を貸さなかった。
「砂盗団は敵!」「紅眼の女も同罪だ!」
ルビヤが立ち上がり、怒声を返そうとした瞬間――
私は彼女の腕を取って止めた。
「今は耐えるの。証拠を積み重ねるしかない」
◆ 親友たちの支え
夜。宿に戻った私は深いため息をついた。
「どんなに証を示しても、信じてもらえない……」
ルビヤは拳を握りしめて言った。
「それでもアンタは、私を信じてくれたでしょ。だったら、私も諦めない」
ライガも剣を磨きながら低く告げる。
「証拠がある。なら黒幕を炙り出すだけだ。俺たちが一緒にやる」
私は二人を見渡し、小さく笑った。
「……ありがとう。絶対に暴いてみせる」
◆ 影の囁き
その頃、砂丘の闇の中。
黒い布で顔を隠した者が、砂盗団の頭目に囁いていた。
「聖女を追い詰めろ。紅い瞳を“凶兆”と叫べ。
砂も、星も、いずれ闇に沈む……」
――黒幕の影は、すぐ傍まで迫っていた。
次回予告
第81話「渇いたオアシス」
補給都市の井戸が枯れる異常事態。
内政チートで一時的に復旧を試みるも、背後に黒幕の呪術が見え隠れする――。




