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第四部・第四話(第74話) 神殿の凶兆

 砂漠国家の首都の中央――白砂岩で築かれた大神殿は、まるで陽光を反射する鏡のように輝いていた。

 柱には青い宝石が嵌め込まれ、天井は星を模したモザイクで覆われている。


 「ここが……砂漠の民の信仰の中心」

 私は息を呑んだ。


 ルビヤは一歩退き、唇を噛んでいる。

 (……やっぱり気にしてるな。自分の瞳のこと)





 やがて現れたのは、神殿の巫女長ナービア。

 しわ一つない衣を纏い、鋭い眼光で一行を見渡す。


 「よく来られた、異国の聖女」

 その声は冷ややかだった。


 しかし次の瞬間、彼女の視線がルビヤの顔で止まる。

 「……その女の瞳――赤いだと?」


 広間がざわめきに包まれた。


 「紅の瞳は凶兆の証。災いを呼ぶ呪われし印……」

 ナービアは杖を突き、声を張り上げた。

 「その者を神殿に入れるわけにはいかぬ!」




 参列していた神官たちや兵士が口々に囁く。

 「紅眼……凶兆の女だ……」

 「子どもの頃に追放されるはずだったはず……」


 ルビヤは歯を食いしばり、肩を震わせた。

 「……ほらね。結局、どこへ行っても同じよ」


 私は胸が痛んだ。

 (違う。俺には分かる。あの瞳は“鍵”なんだ。世界を繋ぐ光なんだ)




 私は前に出て、ナービアを真っ直ぐに見た。

 「待ってください。紅い瞳は呪いではありません」


 「ならば何だというのだ」


 「……星譜を読む“承継者”の証です。

  実際に彼女の瞳が星図を照らし、秘宝の在り処を示しました」


 広間が再びざわつく。

 ナービアはなおも険しい表情を崩さない。


 「承継者だと? 証拠はあるのか」




 私はルビヤの手を取り、星図盤を広げた。

 「ルビヤ、星を見て」


 彼女が恐る恐る瞳を盤に重ねた瞬間――

 紅の光が走り、星図に新たな線が描かれた。


 誰もが息を呑む。


 ナービアですら杖を震わせ、言葉を失った。

 「……まさか、本当に……」





 ルビヤは顔を伏せた。

 「どうせ今だけよ。みんなすぐに私を凶兆扱いする」


 私は強く首を振った。

 「違う。あなたの瞳は世界を導く光。私がそう信じてる」


 その言葉に、ルビヤは目を見開き、わずかに赤い瞳を潤ませた。




 会談は混乱のまま終わった。

 協力を約束する者もいれば、依然として“凶兆”を囁く者もいる。

 砂漠の民の心は、完全にはひとつになっていなかった。


 (まだ時間がかかる。でも、諦めない。必ずこの国の心をまとめてみせる)

次回予告


第75話「紅眼の女親友」

動揺の後、ルビヤと過ごす静かな夜。

彼女の孤独と過去が語られ、初めての“女親友”としての絆が芽生える。

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