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第四部・第一話(第71話) 砂海へ――紅の瞳が呼ぶもの

砂丘の縁で、私は風を受けた。

「ここから先が、砂の国――」

(胸が少し高鳴る。俺の前世、砂漠MMOイベントの地形より容赦ないな……でも、やれる)


隣でライガが頷く。「乾いた匂いだ。油断するな、レティシア」

「ええ、もちろん。――護衛、頼りにしてるわ」私。

(頼もしすぎる親友、最高)


南風に載って、真新しい報せが届く。海の封印は“調律”段階に入ったが、最後の鍵が足りない。

その名は――星譜の心臓。砂漠国家の大迷宮のどこかに眠るという。


最初の関門は国境関所。屈強な砂の民が槍を交差する。平均身長、私の倍近い視界。

「旅の目的を」

「封印調律の鍵を探しに参りました。陸と海を繋ぐために」

私は荷物を広げ、各国の嘆願文と海側の合意書を提示。

(ここは“論より書類”。スタンプは世界を救う)


関所長は目を細め、「女だてらに」と漏らした。

私は微笑む。「にぱ……はまだ出さない。今日は“公務スマイル”で」

短い沈黙のあと、通行を許可する印が押される。

「ただし神殿に報告を。紅い瞳の者には近づくな――凶兆だ」


(凶兆? 気になる単語ね)


首都は白壁と青布の都。市場はスパイスと革の匂いで満ち、人々は陽気で豪胆。

荷の整理中、私はふと路地に目を凝らす。

――紅い瞳。

大きな水瓶を片手で軽々、もう片手で子どもを抱え上げる女性。

「危ない、そこ段差!」私が声をかけるより早く、彼女は子をふわりと抱えて着地した。


「助けは要らなかったけど、声、嬉しいわ」

振り向いたその瞳は、砂上の夕焼けみたいな紅。

彼女は笑う。「私はルビヤ。あんた、旅の人でしょう? 細いのに、真ん中が折れない顔をしてる」


「私はレティシア。海の封印を整える鍵を探してるの。よかったら……案内、お願いできる?」

「ふふ、変わってる。普通は私の目を見て黙るのに。――いいよ、面白そう」

(おっさん心に刺さる直球サバサバ……好き。女親友の予感)


露店の影、ひそひそ声が滑る。「紅い瞳は凶兆だ」「神殿に知らせろ」

ルビヤは肩をすくめた。「気にしないで。いつものこと」

私は首を振る。「気にするわ。あなたの瞳、とても綺麗」

ルビヤの耳まで紅く染まった。「……ずるい言い方する」


その夜、屋上のテラスで星を見上げる。

砂の空は近い。星が滴り落ちそうなほど。

私は星図盤を広げ、海で得た数式に重ねる。

「――やっぱり。星の配列が“海の潮汐位相”と同調してる。星譜の心臓は、この国の地下“星図回廊”に……」

横でルビヤが目を細めた。「その盤、見せて」紅い瞳が星図に映る。

瞬間、細い光の線が浮かび上がり、未知の経路が結ばれた。


「今の……あなたの瞳に反応した?」

ルビヤは戸惑い、そして息を呑む。「子どもの頃、星をじっと見ると線が見えた。誰にも言わなかったけど」

(ビンゴ。紅瞳=鍵だ)


そこへ砂の靴音。

「夜更けの屋上で何を」――神殿の巡察。槍先が星図盤に触れた。

私はライガに目配せ。彼は一歩出て、腕だけで視線を跳ね返す。

私は涼しく微笑み、公文書を差し出した。

「明日、正式に神殿に伺います。今夜は星を数えているだけ。――砂漠の民の、誇らしい星を」


巡察は渋々退く。

ルビヤが小さく笑った。「やっぱり真ん中が折れない」

「あなたがいたからよ」私。

(俺、もう決めた。一緒に鍵を取りに行く)


星は流れ、砂が歌う。

紅い瞳の光は、世界を繋ぐ導き手――そう確信した夜だった。

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