第七話‐1 剣士の登場
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新設した「グランツ商会」の市場調査を兼ねて、俺は執事と数人の護衛を連れて辺境の市へ赴いた。
野菜の山、干した魚、香辛料の匂い。商会設立で物流が戻りつつある証拠だ。
俺は満足げに頷きながら歩いていた。
――よしよし、内政KPI「流通回復」順調。
そのとき。
「――レティシア様!」
人混みを割って一人の青年が駆け寄ってきた。
黒髪を後ろで結び、質素な革鎧に身を包んだ剣士。
彼はその場に片膝をつき、俺を見上げると大声で叫んだ。
「私は放浪の剣士カイル! あなたの噂を聞き、この地まで参りました!」
市場がざわつく。人々の視線が一斉に集まった。
「あなたが導入した農法で村々が救われたと聞きました!
領民のために涙を流すその慈悲……その笑顔に、私は心を奪われました!」
……いや、涙なんて流してないし。笑顔? あれ、ただの「にぱぁスマイル」だから。
青年はさらに剣を抜き、両手で逆さに構え、俺に捧げるように掲げた。
「どうか、この剣を、あなたのために振るわせてください!」
市場にいたおばちゃんたちが「きゃー!」と歓声を上げる。
……おい待て、この辺境の治安は俺のKPIで管理してるんだぞ!?
新規護衛人材の採用プロセスに勝手に乱入しないでくれ。
「カイル殿、護衛はすでに足りています」
俺は必死に断ろうとした。
「いいえ!」カイルは真剣な目を向けてくる。
「命を賭けても、あなたを守りたいのです!」
周囲の農民たちは感涙し、「さすが令嬢様」と拍手喝采。
……なんで俺が悪役みたいな立場になってるんだよ!?
その日以来、カイルは毎日のように屋敷の前に立ち、訓練と称して剣を振り続けることになる。
俺のKPIメモには新しい指標が加わった。
「求婚系護衛候補:1」
次は 第七話‐2 魔術師の登場 ですよ