第70.5話 領地の晩餐会
海と陸の協定を結んで帰郷した私は、領地の館で久々の晩餐会を開いた。
円卓には、剣士ユリウス、魔術師カイル、外交官ディート、騎士団長オリヴァー――第1部から共に歩んできた仲間たちが顔を揃えていた。
「聖女様、随分痩せましたね」
「いや、むしろ引き締まって艶が増したな」
「ふむ、もはや“傾国の聖女”の名も当然か」
次々に褒め言葉を投げてくるのはやめてほしい。
(俺、ただの元おっさんなのに……!)
私は海底遺跡、黒幕の影、封印の真実を語った。
仲間たちは真剣に聞き入り、それぞれの分野から質問を投げかける。
「精霊の沈黙は、未だ続いているのか?」
「黒幕の“供物”思想は、まだ根絶できていない」
議論は夜更けまで続き、結論は一つ。
「我らも、次は砂漠の情報を集めよう」
翌日、私は仲間たちにライガを紹介した。
「彼はライガ。獣人族の戦士で、海の調査で命を預け合った親友です」
「親友、ね」
ユリウスの眉がわずかに動いた。
カイルは興味深そうに目を細める。
オリヴァーは「ふむ」と頷くだけだが、圧を隠せていない。
「よろしく頼む」ライガは短く言い、肉を豪快にかぶりついた。
その野性味と実直さに、逆ハーレムの4人は同時に「……強敵だ」と目で語った。
(やめろお前ら。男同士で謎の火花を散らすな)
やがてディートがグラスを掲げた。
「親友なら、我らの“親友”でもある。乾杯しよう」
「……そうだな」
小さな緊張は、笑いと酒で溶けていった。
出立の朝、妹セレナが玄関先で私の手を掴んだ。
「お姉さま、本当に行ってしまうのですか?」
「ええ。海の封印を完全に調律するには、砂漠の秘宝が必要なの」
セレナは唇を噛み、必死に笑顔を作った。
「私は……ここで待ちます。領地を守るのも、妹の役目ですから」
私は抱きしめ、頭を撫でた。
「セレナはもう立派なレディね。でも……やっぱり可愛い妹よ」
「も、もう子ども扱いしないでください!」
真っ赤になって抗議するセレナが愛おしい。
(でも、危険な砂漠には連れていけない。ここで成長を見守るのが、俺の役目だ)
館の門前で馬に跨がる。
セレナは涙を堪え、手を振った。
「お姉さま、必ず帰ってきてください!」
私は大きく頷き、振り返りざまに――
「にぱぁっ!」
セレナは吹き出しながらも、涙を拭って笑った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
良ければ感想をレビューに書いてください。投稿の励みになります。
次回は第4部に突入ですよ。




