第三部・第二十六話(第69話) 陸と海の会談
海を望む岬に、陸と海双方の代表が集った。
波打ち際には魚人族の王とその側近、陸側からは獣人族の長老や漁師たち。
その中央に、私は聖女として立っていた。
緊張した空気の中、双方の視線は互いを牽制し、今にも火花を散らしそうだった。
獣人族の長老が声を張る。
「これ以上漁を妨害されれば、我らは飢える! 戦もやむなし!」
魚人族の戦士が即座に返す。
「このままでは我らの子らが死ぬ! 戦こそ唯一の答えだ!」
怒号が交錯する。
――もし今、何も言わなければ、戦争は避けられない。
私は両手を広げ、一歩前に出た。
「待ってください! 私たちが遺跡で見つけたのは……陸でも海でもない“第三の存在”による封印の痕跡です!」
ざわめきが広がる。
私は続けた。
「魚が減り、精霊が沈黙したのは、あなたたちが争ったからではありません。
海そのものを蝕む“闇”が目覚めようとしているからです」
私は懐から、調査で記録した呪具の欠片を取り出した。
「これを見てください。骨や石で作られた呪具――どちらの民にも作れないものでした」
魚人族の学者が頷く。
「確かに、この材質は深海の古代魚のもの。我らにも扱えぬ」
獣人族の長老も険しい顔で呟いた。
「……ならば、本当に黒幕がいるのか」
私は力を込めて言った。
「戦えば、闇を利するだけです。
陸と海が協力しなければ、この封印を守り、真実に立ち向かうことはできません」
沈黙。
そして、魚人族の王が重々しく口を開いた。
「……聖女よ。もしそれが真実ならば、我らも剣を陸に向けるわけにはいかぬ」
獣人族の長老も深く頷いた。
「我らも共に闇を討つ。海を守らずして、陸も生きられぬ」
私は胸を撫で下ろした。
――戦は避けられた。
ただ、それは終わりではなく始まり。
これから本当に協力しなければ、封印は破られ、世界は蝕まれる。
波打ち際で海風が吹き、精霊の気配がわずかに揺れた。
「……今度こそ、共に……」
私は微笑み、小さく頷いた。
次回予告
第三部・第二十七話(第70話・まとめ)
「にぱぁスマイルの約束」
陸と海が協力を誓う会談の後、レティシアが示したのは、誰もが安心できる“聖女の笑顔”。
長い争いの火種に、ついに終止符が打たれる――。




