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第三部・第十八話(第61話) 深海の兆し

 共同調査隊は魚人族の導きで、さらに深海へと潜った。

 海面から差し込む光はすでに消え、周囲は暗黒に包まれている。

 「……暗い」

 誰かが呟いた声が、水に溶けて震える。


 光源は、わずかに揺れる発光クラゲと、魚人族が持つ光石だけ。

 それでも海底に近づくにつれ、不気味な影が蠢いているのが見えてきた。





 やがて調査隊の前に広がったのは――無数の魚の死骸だった。

 海底一面を覆うように積み重なり、骨と鱗が漂っている。

 「……これは」

 ライガでさえ言葉を失った。


 魚人族の学者が蒼白になりながら震える声をあげる。

 「こんな大量死……自然現象ではあり得ない……」


 死骸のほとんどは傷一つなく、目を見開いたまま固まっていた。

 「生きたまま……窒息した?」


 重苦しい沈黙が広がった。





 私は目を閉じ、精霊の声を探った。

 だが、水の精霊は沈黙したまま。

 ――いや、違う。


 かすかに聞こえた。

 「……深く……深く……触れるな……」


 その声は苦悶に満ち、すぐにかき消えた。

 私は背筋に冷たいものを感じた。

 精霊ですら恐れている。





 そのとき、海底の割れ目から黒い霧のようなものが噴き出した。

 霧は渦を巻き、死骸を飲み込んでいく。


 「魔の瘴気……?」

 蜥蜴人族の鍛冶師が低く呟く。


 魚人族の戦士が槍を構える。

 「こんなものは聞いたこともない。……だが、この瘴気が海を蝕んでいるのは間違いない」


 渦はゆっくりと広がり、調査隊のほうへと伸びてきた。





 「退け! このままでは飲まれる!」

 ライガの怒声が響き、調査隊は一斉に後退した。


 黒い瘴気が触れた瞬間、海藻は枯れ、魚の死骸は崩れ落ちる。

 その異様な光景に、誰もが恐怖を覚えた。


 私は振り返り、必死に声を張った。

 「絶対に諦めない! 必ず原因を突き止める!」


 だが――その誓いを嘲笑うかのように、海底の割れ目から再び黒い渦が立ち昇った。





 これは自然災害ではない。

  誰かが、あるいは何かが――意図的に海を蝕んでいる。


 拳を握り締め、私は心の奥で呟いた。

 ――必ず暴き、止めてみせる。

次回予告


第三部・第十九話(第62話)

「黒幕の影」

深海の異変の背後に潜む者とは誰か。

調査隊に揺さぶりがかかり、不信と恐怖が広がる――。

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