第三部・第十七話(第60話) 共同調査隊
海辺の岩礁に、陸と海の代表が並び立った。
獣人族の戦士ライガ、蜥蜴人族の鍛冶師長、鳥人族の斥候。
そして魚人族からは戦士の隊長と若い学者風の男が加わる。
「……これが、共同調査隊」
私は深呼吸した。
互いの視線は険しい。
「背中を見せれば襲われる」――そんな不信がそこかしこに漂っていた。
最初の目的地は、沿岸から少し沖にある小島。
かつては漁師が拠点にしていたが、今は廃墟のように荒れている。
波打ち際の岩場には、焦げたような痕跡が残っていた。
「……何だこれは」
蜥蜴人族の鍛冶師がしゃがみ込み、指でなぞる。
「自然のものじゃない。熱で一気に焼かれている」
ライガが眉をひそめた。
「火の魔術か?」
魚人族の戦士が牙を剥いた。
「陸の魔術師の仕業だろう!」
「待って!」私は制した。
「証拠もないのに決めつけるのは危険です」
島を進むと、砂浜に大量の魚の死骸が打ち上げられていた。
どれも傷一つなく、目を見開いたまま。
「……生きたまま、一気に窒息させられた?」
若い魚人族の学者が蒼白になった。
「まさか、海流そのものが……」
風がざわめき、精霊たちの気配が震えた。
水の精霊は、やはり沈黙したままだった。
その時だった。
岩陰から矢が飛んだ。
「伏せろ!」
矢は魚人族の戦士の槍に突き刺さった。
矢羽根には――獣人族の紋章。
「裏切ったな、陸の民!」
魚人族が一斉に武器を構える。
「待て! 俺たちじゃない!」ライガが叫ぶ。
「証拠はある!」魚人族の戦士が矢を掲げる。
空気が一瞬で火薬庫のように張り詰めた。
私は前に出て、矢を奪い取った。
「落ち着いて! これは――偽装されたものです」
矢羽根には確かに獣人族の紋章があった。
だがよく見ると、色は新しい。
「……最近描かれた。しかも本物の紋章の配色とは微妙に違う」
沈黙が落ちた。
「誰かが、陸と海を争わせようとしている」
魚人族の戦士は唸り声をあげたが、矛先を下ろした。
「……ならば、黒幕がいるというのか」
「そう」私は頷いた。
「海の異変も、この矢も、全て一つの線で繋がっている」
不信は消えていない。
だが、全員の胸に「別の敵がいるのでは」という疑念が芽生え始めていた。
私は海を見つめ、拳を握った。
――この調査を成功させなければ、必ず戦になる。
そして、この罠を仕掛けた真の黒幕を暴かねばならない。
「必ず真実を見つける。そのために、この命を賭ける」
海風が強く吹き抜け、精霊の気配が一瞬だけ揺らいだ。
次回予告
第三部・第十八話(第61話)
「深海の兆し」
調査はさらに深海へ――。
そこで彼らが目にするのは、精霊すら恐れる不穏な異変だった




