第三部・第八話(第51話) 祭りと屋台の夜
妹こんなに登場させる気なくて、名前を付けてなかったことに気づきました。
次回から名前つけます。
夕暮れが落ちるころ、町の広場には色とりどりの提灯が吊るされ、祭りの太鼓が鳴り響いていた。
「わぁ……」
妹が思わず声を漏らす。
猫人族が団子を売り、犬耳の子どもたちが走り回り、鳥人族の舞が夜空を彩る。
私は少し肩の力を抜いて微笑んだ。
「……こういう時間があるから、人は生きていけるんだな」
妹と並んで屋台を歩く。
「お姉さま、これは?」
「綿菓子っぽいやつだね。ほら、ふわふわ」
妹が目を輝かせてかぶりつき、頬を白くさせる姿に、思わず笑ってしまった。
――けれど、次の瞬間。
私は違和感に気づいた。
魚を扱う屋台が、ほとんど見当たらないのだ。
以前は市場で山のように並んでいた鮮魚。
刺身や煮物、焼き物……そのどれもが姿を消していた。
代わりに並んでいるのは、干し芋や豆の煮込み、果物を使った菓子ばかり。
「妹よ、気づいた?」
「……はい。魚がありません」
私は屋台の親父に声をかけた。
「魚の屋台は?」
「……今年は仕入れが減っちまってな。魚人族との仲も悪いし、港じゃ漁に出る船も減ってる」
声を潜めて彼は続けた。
「祭り用に用意していた魚も、何者かに奪われたって噂だ」
妹が小さな手で私の袖を掴んだ。
「お姉さま……これって」
「……ただの不作じゃない」
太鼓の音と笑い声が響く祭りの中で、私は背筋に冷たいものを感じていた。
煌びやかな光の下、確実に影が伸びている。
帰り道、妹が小声で呟いた。
「私……もっと学ばないと。お姉さまの役に立てるように」
「そんなに焦らなくてもいい」
「でも……お姉さま一人に全部背負わせたくないんです」
私は驚き、妹をじっと見つめた。
――もう、この子は立派に未来を背負おうとしている。
私はそっと頭を撫でた。
「ありがとう。……でも、まだ甘えさせてよ」
花火が打ち上がり、夜空を彩る。
人々の笑顔と歓声の裏で、港町には静かな不安が広がっていた。
魚の匂いのない祭り――それはこの国の未来を暗示しているかのようだった。
次回予告
第三部・第九話(第52話)
「精霊と獣人の関係」
獣人たちと精霊との信仰関係を学ぶレティシア。
しかし、水の精霊たちはどこか不穏な沈黙を保っていた……。




