第三部・第五話(第48話) 鳥人族の舞踏祭
空を見上げると、鳥人族の舞姫たちが羽ばたいていた。
白い翼、鮮やかな羽根飾り、鈴の音のような歌声。
舞踏祭は、まさに幻想そのものだった。
「きれい……」
思わず私は小さく呟いた。
昨日の市場で大騒ぎしていた自分を思い出し、少し頬を赤らめる。
「……うん、落ち着こう。ここは聖女らしく」
妹がちらりとこちらを見上げて微笑んだ。
「お姉さま、今日は静かに楽しんでいますね」
「当然だよ。空気を読める女だから!」
舞姫たちが空で円を描き、羽根が舞い落ちる。
観客たちはそれを拾い、「幸運のお守り」として胸に差した。
ライガが隣でぽつりと呟いた。
「鳥人族にとって、この舞は“海の安寧”を祈るものだ」
「海?」私は思わず聞き返した。
「そうだ。海は彼らの信仰にもつながっている。だが……今はその安寧が乱されている」
言葉の意味を問おうとしたが、舞の太鼓が轟き、声がかき消された。
やがて舞踏祭の終盤、観客席からも希望者が舞台に招かれることになった。
「さあ! 皆で舞おう!」
突然、ライガが私に手を差し出した。
「レティシア、踊るか」
「えっ、私!?」
観客たちが「聖女様も!」と口々に声を上げる。
私は顔を赤くして戸惑った。
「わ、私は舞とか……」
妹が笑みを浮かべて背中を押した。
「お姉さま、せっかくですから」
仕方なくライガの手を取る。
彼の大きな手に導かれ、私はぎこちなく舞台に立った。
鳥人族の舞は優雅で流麗。
だが私の動きは……どう見ても盆踊り。
「右に……回る……? あれ? 左だっけ?」
「落ち着け。俺に合わせろ」
「わ、わかった!」
ライガが力強くリードすると、不思議と私の動きも形になっていった。
観客席から拍手と歓声が上がる。
「お姉さま、すごいです!」妹の声が聞こえた。
私は思わず笑顔になった。――ほんのひととき、海の不穏さなど忘れてしまうくらいに。
舞踏祭が終わり、人々が帰路につくころ。
背後から耳に入ってきた言葉に、私は足を止めた。
「……また魚の群れが消えたらしい」
「漁師が言ってた。深海で魚人族が何かしてるって」
私は振り返ったが、話していたのはただの観客たち。
舞の余韻に酔う群衆の中で、その噂だけが冷たい影のように残った。
――やはり、ただのお祭りでは終わらない。
宿に戻る道すがら、私は妹の手を握った。
「……もし、この国の海で何か起きているなら、見過ごせない」
妹は驚いたように私を見上げたが、すぐに強く頷いた。
「お姉さま。私も一緒に」
夜空に舞姫たちの羽根が漂い、月明かりに揺れていた。
その美しさの裏に、確かに影が広がり始めていた。
次回予告
第三部・第49話「温泉騒動」
湯治場で巻き起こる男女混浴騒ぎ!?
妹はツッコミ役、レティシアはデレデレ……だが温泉の奥でも不穏な兆しが忍び寄る。




