第43.7話 未来を担う妹の決意
その年、辺境伯領では豊作を祝う大きな祭りが開かれることになった。
領民たちは広場に屋台を並べ、精霊への祈りを捧げ、夜には花火が打ち上げられる。
「お姉さま! 今日こそ私も舞台に上がって、皆にご挨拶をするんですよね」
妹は新調した鮮やかなドレスに身を包み、胸を張っていた。
「うんうん、可愛い……! ああもう、天使! そのまま祭壇に祀りたい!」
「お姉さま!? からかわないでください!」
私は相変わらずデレデレで、妹は頬を真っ赤にしていた。
私は祭りの準備でもう一役買っていた。
屋台の配置、資源の分配、警備の人員配置……全部前世のイベント運営経験をフル活用。
「来場者動線を考えて……はい、ここに屋台を移動! 詰めすぎると火事のリスクがあるから間隔を空けて!」
領民たちは大慌てで動かされながらも笑顔だった。
「さすが聖女様、段取りが違う……!」
「これで安全に楽しめますな」
私は胸を張った。
――俺、前世で学んだことがこんなに役立つとはな。
その一方で、妹は広場の舞台袖で緊張していた。
「……大勢の前に立つのは、ちょっと怖い」
私は妹の手を握りしめた。
「大丈夫。可愛いから全部許される」
「ち、違います! 私は……ちゃんと話したいんです!」
夕暮れ、舞台の上に妹が立った。
領民たちが一斉に視線を向ける。
緊張で震える声を必死に押さえながら、妹は口を開いた。
「みなさん、今日はお祭りに来てくださってありがとうございます」
会場は静まり返り、小さな声でもはっきり届いた。
「私は……聖女レティシアの妹です。
お姉さまはいつも皆さんのために頑張っています。だから、私も……」
一呼吸おいて、妹は胸を張った。
「皆さんの笑顔を守れるように、強くなりたいと思っています!」
拍手が広がり、やがて歓声に変わった。
「立派なお言葉だ!」
「妹様も素晴らしい!」
「将来はきっと、お姉さまに並ぶ方になられる!」
私は舞台袖で涙を拭っていた。
「……うちの子、天才……! いやもう神!」
侍女が苦笑しながらささやいた。
「聖女様、自分のお子さんみたいに言ってますよ」
「妹は私の天使だから!」
でも心の奥では理解していた。
――もう、この子は私の背中を追うだけじゃない。
自分の足で未来を歩こうとしている。
夜、花火が上がる中、妹と並んで座った。
「すごかったよ。立派だった」
「……本当にそう思いますか?」
「うん、惚れ直した!」
「お姉さま、妹に惚れるっておかしいです!」
妹は笑いながらも、少し照れて肩を寄せてきた。
「でも、私……今日、少しだけ自信がつきました。
お姉さまの妹としてだけじゃなく、私自身として歩けるって」
私は頷き、花火を見上げた。
――そうだ。
この子は、きっと私を越えていく。
花火が夜空を彩る中、妹は真っ直ぐ前を見据えて言った。
「お姉さま。私、もっと強くなります。
いつか、お姉さまの隣に胸を張って立てるように」
私は胸が熱くなり、思わず妹を抱き寄せた。
「うん……でも、それまではいっぱい甘やかさせてね」
妹は「もう!」と笑いながらも、その手を強く握り返した。
次回予告
第三部・第一話(第44話・修正版)
「傾国の聖女と獣人族の国へ」
政略結婚の申し出を受け、二人は海を越える。だがそこで待っていたのは、米と刺身と温泉……そして新たな争いの火種だった。




