第四話 初めての社交界――王都デビューと男たちの視線
辺境伯家の馬車は、王都の大通りを堂々と進んでいた。
俺――レティシアは、ドレスに身を包み、窓から街並みを眺めている。
「……なんだろうな、この感じ」
心の中でぼやく。
ドレスはフリルもリボンも盛りだくさん、まさに少女漫画のヒロイン仕様。
けれど中身は三十五歳のおっさんである。
――自分が「お姫さまコスプレ配信」してるような気分になるのは気のせいか?
社交界の会場は、王城に隣接する巨大な舞踏会場。
シャンデリアが光をまき散らし、貴族たちが笑顔で談笑し、楽団が優雅な旋律を奏でる。
俺は父母に挟まれ、緊張しつつも胸を張った。
――よし、ここは冷静に状況把握だ。
KPI:「王都の有力者と接触」「辺境伯家の立場強化」。
……のはずだったのだが。
入場して数分。
なぜか、周囲の視線が痛いほど突き刺さってくる。
「……あれが辺境伯の令嬢か」
「信じられん、まだ十歳そこそこであの気品」
「いや、あの笑顔……尊い」
え、なにこれ。
俺、ただ「にこっ」としただけなんだけど。
赤子のころから使ってきた「にぱぁスマイル」、ここでも炸裂してしまったらしい。
結果、近くにいた少年貴族たちが一斉に顔を赤らめた。
「お、お近づきになりたい……」
「いや、私が先だ!」
――ちょっと待て。
俺の狙いは交渉と情報収集であって、逆ハーレムじゃないぞ!?
追い打ちをかけるように、場の奥から一人の少年が現れた。
金髪に宝石のような瞳。姿勢は堂々、服は煌びやか。
――あ、これ絶対に王子だ。
「辺境伯令嬢、レティシアだな?」
声をかけられた瞬間、周囲の空気が張り詰める。
「は、はい……」
俺は慌ててカーテシーをした。
すると王子は満面の笑みを浮かべ、手を差し出してきた。
「君と踊ってみたい」
ざわぁっ、と周囲が沸く。
「なっ、第一王子殿下が!」
「辺境伯令嬢に!? そんな……!」
……おい、空気が一気に修羅場モードに突入してるんだが。
仕方なく、俺は王子と手を取り、ダンスに挑むことになった。
だが前世でやったダンスといえば、大学の飲み会で無理やり踊らされた盆踊りくらいだ。
「うわっ、足踏んだ! すまん!」
「い、いや、気にするな……!」
「おっと、今度はドレス踏んだ!」
「……っ!」
周囲の貴族たちの視線が痛い。
「辺境伯令嬢、天然なのか?」
「いや、それすらも可愛い……!」
――なぜ好感度が上がっているんだ!?
俺の社交界KPI、完全にズレてないか!?
踊り終えたあと、王子は俺の手を握ったまま、高らかに言い放った。
「今日から、私はこのレティシア嬢に特別な敬意を払うと宣言する!」
……え、ちょっと待て。
それって、もう半分プロポーズみたいなもんじゃないのか?
周囲の男の子貴族たちは一斉に青ざめ、同時に決意を固めたように拳を握った。
「負けられない……!」
「殿下のライバルになる覚悟を……!」
――やめてくれ、俺はただ内政したいだけなんだ。
舞踏会が終わり、馬車に戻った俺はぐったりと座席に沈み込んだ。
父は豪快に笑っている。
「見事だったぞ、レティシア! 王子に見初められるとは!」
母はうっとりとため息をついた。
「将来が楽しみね……」
……俺の人生設計図、完全に予定外なんですけど?
夜空を見上げながら、俺は小さく呟いた。
――頼むからもう少し“内政チート”のターンをくれ。
次回予告
第五話 辺境改革――現代コンサル思考で領地経営
王都での社交界デビューを終え、領地に戻ったレティシア。モテ騒動を横目に、ようやく本命の「内政改革」に着手! 農業、交易、市場、すべてを“おっさんコンサル脳”で再設計する――ただし、なぜか改革のたびに求婚イベントが発生!?