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辺境伯令嬢は内政チートで世界を変える ~そして聖女は大陸を笑顔で包み込む~  作者: 赤井咏紗
第二部 聖女レティシアと世界樹の試練
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第二部・第十話(第35話) 新たな風――ぎこちない友誼

 世界樹が再生した夜、森には静かな安堵の空気が流れていた。

 長老たちは祭壇で感謝の儀を執り行い、村人たちは歌を捧げる。

 私は焚き火の傍らで、疲れを癒すように深呼吸した。


 ――俺、死ぬかと思った。

 でも、奇跡は……起きたんだ。


 そんな余韻を噛み締めていると、背後から少し緊張を帯びた声が聞こえた。


 「……あなたが、エルヴィンか」



 振り返ると、そこに立っていたのはいつもの面々。

 剣士カイル、魔術師ロイ、王子クラウス、商人ユリウス。


 そして、視線の先には銀髪のエルフ戦士――エルヴィン。


 「聖女を守るのは俺の役目だ」

 「いや、私の知略があれば十分だ」

 「王族の威光こそが相応しい」

 「資金繰りは私が支えてきたのだ」


 ……あー、はい。やっぱり来た。逆ハーレム恒例のマウント合戦。


 エルヴィンは眉一つ動かさず、冷ややかに言い返した。

 「ならば……これからは俺も、その役を担う」


 焚き火の火花がぱちぱちと弾け、場の空気が張り詰めた。



 「剣の腕はどうだ?」カイルが挑発的に聞く。

 「試してみるか?」エルヴィンは即座に応じる。


 「精霊魔術は扱えるのか?」ロイが睨む。

 「人の魔術よりは自然に近い」淡々と答えるエルヴィン。


 「王族に仕える覚悟はあるのか?」クラウスが声を張る。

 「誇り高きエルフは、誰にも仕えぬ。ただ信じる者に従うのみ」きっぱり言い切る。


 「……商売の心得は?」ユリウスまで乗っかる。

 「矢筒の皮ぐらいなら自作できる」真顔で答える。


 場に微妙な沈黙が落ちた。


 ――いやいや、なんで最後だけ生活力チェックになってんの。





 だがその時、クラウスがふっと笑った。

 「なるほど……君は実直だな。飾らず、己の信念を語る」


 カイルも肩を竦める。

 「悪くねえ。剣を交えたら、案外気が合うかもしれねえ」


 ロイは小さくため息をつきながらも、口元に僅かな笑みを浮かべた。

 「理屈は通じるようだ。なら、共に考える余地はある」


 ユリウスは頷き、真剣な顔で言った。

 「ならば取引成立だ。君も、仲間という契約に署名しろ」


 エルヴィンは一瞬目を瞬かせ、やがて小さく笑った。

 「……人間も悪くないな」




 彼らの姿を見て、私は胸が熱くなった。

 ――俺の周りは、やっぱりとんでもないやつばかりだ。

 でも、そのとんでもない連中がこうして少しずつ打ち解けていくのを見ていると、

 ああ、本当に仲間なんだなって思える。


 焚き火の光に照らされ、彼らの笑顔がやけに眩しかった。





 宴が続く中、私は一人静かに呟いた。

 「……ありがとう。私には、あなたたちが必要です」


 その声に、仲間たちがちらりとこちらを見て、何も言わずに微笑んだ。


 世界樹を救った夜は、こうして穏やかに更けていった。

次回予告


第二部・第十一話(第36話)

「新たな風――聖女とエルフの盟約」


世界樹再生の奇跡を経て、王国とエルフ族の交渉が始まる。

しかし、聖女レティシアを巡り、双方の思惑は複雑に絡み合って――。

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