第十四話 商人ユリウス――富と策を握る者
剣も魔術も持たない彼が、経済戦で圧倒的なスペックを見せるエピソードです。
辺境の台頭を良しとしない王都の商人ギルドが、ついに動いた。
「辺境伯令嬢のグランツ商会は規約違反だ。交易の独占を狙っている」
彼らは公然と糾弾し、契約を一方的に破棄する動きを見せ始めた。
これはただの商売争いではない。
――辺境経済そのものを潰すための策だ。
俺が頭を抱えているとき、真っ先に立ち上がったのが若き商人、ユリウスだった。
「令嬢様。ここは、私に任せていただけますか」
ユリウスはまだ二十歳に満たない。
だが商人としての胆力と頭脳は父親譲り、いや、それ以上。
王都商人ギルドが開いた公開会議。
ユリウスは辺境代表として一人で壇上に立ち、数十人の大商人たちと対峙した。
「辺境商会は王国経済を乱す!」と罵声が飛ぶ中、彼は一歩も怯まず、涼しい顔で答えた。
「乱す? いいえ。数字は嘘をつきません」
ユリウスは山のような帳簿を机に叩きつけた。
「辺境の麦の収穫は昨年比三割増。塩の供給は五割回復。
結果、王都市場の物価上昇率は半減しました。
あなた方が“独占”と呼ぶものは、王国全体の安定をもたらす利益そのものです」
ざわめく商人たち。
ユリウスはさらに畳みかける。
「むしろ独占を狙っているのは――この場にいるあなた方では?」
鋭い視線に、大商人たちの顔が歪む。
商人ギルドは苦し紛れに「信用できぬ!」と叫んだ。
するとユリウスは静かに書類を差し出した。
「こちらは王都第三銀行の保証書。そして農民代表の署名簿。
辺境経済が王国を支えている証です」
証拠を突きつけられ、ギルドは沈黙するしかなかった。
会場に集まった観衆からは歓声が沸き上がり、ユリウスは深々と一礼した。
「辺境は脅威ではない。王国の未来を共に築く存在です」
会議後。
ユリウスは疲れも見せず、俺の前で柔らかく笑った。
「剣も魔術もありません。けれど、私は商人です。
あなたが作り出す“仕組み”を、形にして広げるのが私の役目です」
その瞳は、計算高くも真っ直ぐで、何より誠実だった。
……やめてくれ。
また一人、高スペックすぎる逆ハーレム要員が増えてしまった。
剣士は戦場を駆け、魔術師は炎で敵を封じ、王子は兵を率い、そして商人は王都の大商人すら手玉に取る。
全員が“本物”だ。
俺は机に突っ伏し、心の中で叫んだ。
「これ、恋愛じゃなくてオールスター戦力だろ……!」
次回予告
第十五話 迫りくる闇――辺境暗殺計画
高スペックな仲間(?)に囲まれるレティシア。しかしその陰で、辺境伯家を狙う刺客が動き出していた。暗殺計画に立ち向かうのは――剣士、魔術師、王子、商人、そして“にぱぁスマイル”!?




